ウナギと鷲
ザブトンの子供のレッドアーマーとホワイトアーマーは、屋敷の玄関前でよく見るようになった。
通る人に進化したことを自慢しているのかと思ったら、門番のつもりなのだそうだ。
門番はありがたいが、無理しないようにな。
それと演劇の練習もちゃんとするんだぞ。
それはそれで頑張っている?
そうか。
楽しみにしているからな。
俺は果樹エリアに行き、そろそろ収穫できそうな果実を収穫する。
主に柿、ミカン、梨、レモン、リンゴ、栗。
栗も果実になるのかな?
まあ、どっちでもいいや。
収穫はザブトンの子供たちが手伝ってくれるので、早く終わる。
収穫した物の運搬は、山エルフがクロの子供たちが引けるサイズの荷車を作ったので、こちらも早く終わる。
なので、早々に味見が始まる。
まずは手伝ってくれたザブトンの子供やクロの子供たちから。
ザブトンの子供たちは、柿を所望か。
よしよし、皮を剥いてやろう。
クロの子供たちは、リンゴね。
よーし、ウサギの形にしてやろう。
ははは。
翌日、渋柿を干し柿にする作業。
普段はラナノーンの世話に忙しいラスティも、やってきて黙々と手伝う。
ラナノーンは……ライメイレンに預けたのね。
ヒイチロウとラナノーンに囲まれ、幸せそうだ。
ラスティに言われたのか、ドライムも黙々と手伝ってくれた。
ありがとう。
お礼はお酒でいいかな。
去年、仕込んだまだ新しい奴なんだがドワーフたちの評価が高いのがある。
酒のお供に茹でた栗も欲しいのね。
残念ながら、栗はまだ下準備中だから明日になる。
今日は干したイカ……ワインには合わなそうだな。
素直に肉を焼こう。
ははは。
ラスティが睨んでいる。
作業、頑張ろう。
マイケルさんが久しぶりにやってきた。
「ここは相変わらずですな」
ははは。
確かにシャシャートの街や五村に比べたら、発展は遅い。
だが、それがこの村の良さだ。
マイケルさんがやってきたのは、海産物の輸送ついでに収穫祭の打ち合わせの為。
息子のマーロンも五村に来ているが、五村での仕事のために置いてきたそうだ。
息子相手でも、仕事優先の姿勢は見習わねば。
……
アルフレートやティゼル、ウルザの姿を想像する。
父親として、もう少し厳しくしたほうがいいのだろうか。
なかなか、難しそうだな。
まあ、余所の家庭に口を出すのは無粋だが……収穫祭の時にはマーロンを連れてきたらどうだ?
シャシャートの街や五村に比べたら些細な祭りになるかもしれないが、歓迎するぞ。
マーロンにはビッグルーフ・シャシャートの運営で助けてもらっているとマルコスたちから何度も聞いているしな。
「わかりました。
収穫祭の時には首に縄をつけてでもマーロンを連れてきます」
ははは。
マイケルさんは、大袈裟だな。
あ、マーロンの従兄弟のティトやランディ、護衛のミルフォードも誘ってもらえるかな。
時間に余裕があればで構わないが。
「ははは。
息子も道連れ……失礼。
同行者が増えて嬉しく思うでしょう。
お邪魔させてもらいます」
マイケルさんは笑いながら快諾してくれた。
うん、楽しみに待っていよう。
マイケルさんが持って来てくれた海産物は、水を張った荷馬車の中に無数に入っていた。
「身がぬるぬるし、味はイマイチ、さらに血に毒があるので食べる者は少ないというか……漁師から嫌われている魚ですが、これでよかったのですか?」
問題ない。
俺の探していた魚。
ウナギだ。
ウナギのサイズは俺の知っている60センチ前後。
身は……季節的にまだ早いのか太ってはいないな。
だが、十分だ。
「数は何匹いるんだ?」
「二百匹以上です」
「捕獲方法は?」
「綺麗な川の中流に十人ほど連れて行き、捕まえさせました。
嫌われている魚なので、数が多く簡単に集まりました。
ただ、季節による増減があるので安定して供給することは難しいかもしれません」
マイケルさんは、ニコニコしている。
たぶん、これが美味くなることに気づいたのだろう。
さすがは商人だ。
抜け目がない。
「安定供給は必要ない。
捕獲できた分を調理して売る形にしたい」
「承知しました」
「と言っても、調理法と味はこれから研究するから……冬に荷馬車一台分、頼めるか?」
「大丈夫です。
代金は……フラウさまと相談させていただきます」
フラウと文官娘衆数人が待機していた。
「よろしく」
俺はさっそく、鬼人族メイドたちとウナギの調理を開始する。
ウナギを捌く知識やウナギ料理の知識は、俺の中にあるテレビ知識のみ。
いや、子供の頃に読んだ料理漫画にもあったな。
……
無謀な気がするが、頑張ろう。
「絶対、美味いから!」
目指せ、ウナギの蒲焼。
さて、色々やっているのだが……
フェニックスの雛のアイギスよ。
その背後に隠しきれない獰猛そうな鳥は誰かな?
ビジュアルから……鷲だな。
羽を広げると、三メートルぐらいになる大きさだ。
アイギスの何倍ものサイズなのだが、アイギスが背中に隠そうとしている。
無理だ。
見なかった振りをするには、鷲の存在感がありすぎる。
どこで拾ったんだ?
“世界樹”の上のほうに止まっていた?
そこに巣を作って住みたいと。
なるほど。
その許可を出す前に確認だ。
ザブトンの子供、食べないよな?
次に、村の牛とか馬、羊、鶏とかを狙わないよな?
……
よかった、大丈夫そうだ。
エサは自力で、森の中でウサギを狩るそうだ。
手間が掛からなくていい。
わかった。
許可しよう。
“世界樹”はそんなに大きくないが、構わないのか?
村にはもっと大きな木があるが?
ああ、あそこはザブトンが住んでいるから怖いと。
怖くはないぞ。
あ、糸に引っ掛かって怖い目にあったと。
そこをアイギスに助けてもらったと。
なるほど。
で、アイギスはどうして鷲を隠そうとしたんだ?
別に怒らないぞ。
……
新しい鳥が来て自分の立場が危ないと思ったと。
ははは。
安心しろ。
お前はお前だ。
他の鳥が来ても、お前に対する扱いが変わったりはしないさ。
俺はそう言ってアイギスを指で突いてやった。
アイギスが照れくさそうにしている。
後日、鷲がウサギを狩っている場面に出くわした。
うーむ。
かっこいい。
見惚れていると、アイギスに足を突かれた。
す、すまない。
お前が干し柿に襲い掛かる姿も、かっこいいぞ。
ラスティを恐れないその行動には、ドライムも感心しているんだから。
メイド「ウナギ料理を考えました!」
村長「よせ、ゼリーで固めるんじゃない!」




