ある秋の日
早朝、悩み相談を受ける。
相手はポンドタートル。
“世界樹”が育ったので、自分の甲羅の皮の価値が下がったのではないかと。
俺にはよくわからないので、ルーに応援を頼んだ。
「貴方の甲羅の皮は薬の材料だけじゃなく、魔法にも使えるし、魔道具にも使えるから。
超貴重。
あんな葉っぱなんか、目じゃないわ。
第一、ポンドタートルの甲羅の皮の知名度は凄いのよ。
あっちの葉は天使族が隠していたから、ほとんど誰も知らないんだから」
ルーが一生懸命にポンドタートルの甲羅を褒めてくれたので、なんとか解決したようだ。
相談料としてもらった甲羅の皮は、ルーが喜んで持ち帰った。
次からは相談料とかいらないからな。
「それで、ルー。
甲羅の皮と葉じゃ、甲羅の皮のほうが上なのか?」
「研究されている期間が違い過ぎるから応用の幅では圧倒的にポンドタートルの甲羅の皮のほうが上。
薬としても、“世界樹”の葉が文献通りに効果があるかどうかはこれから調べないといけないし」
「葉を一枚、潰して塗ればってのは信じないのか?」
「信じるけど、検証しないとね。
副作用があるかもしれないでしょ」
なるほど、確かに。
「緊急時でもない限りは使わないわ」
そうなると、“世界樹”の葉が必要になる事態は避けたいな。
「早めに検証を終わらせて、使えるようにはしたいけど……
天使族が大事にしている木だし、村の外で使う時はティアやグランマリアに相談するわ」
「了解。
よろしく頼む」
大樹の村の居住エリアでは、天使族の別荘作りが始まった。
俺は森で指定されたサイズの木を探して……クロの子供たちが探してくれるので、それを【万能農具】で切り倒し、木材作り。
木材の輸送に巨人族たちが協力してくれたので、昼食前には終わった。
ありがとう。
昼食後、ハイエルフ、巨人族はそのまま別荘作りに。
俺も参加しようと思ったが、文官娘から止められた。
俺がこれ以上、参加すると予算のグレードが上がるらしい。
仕方がないので参加は諦める。
どうしよう。
時間が余ってしまった。
……
クロの子供たちが、期待した目で俺をみている。
道具は……ボールを持って来ているのか。
わかった。
夕食まで、お前たちと遊ぼう。
犬エリアで、俺はボールを投げる。
俺が投げたボールに向かってダダダダッと四頭が一気に走り、ボールを奪い合う。
一頭がボールを咥えた段階で、勝負は終了。
ボールを持って帰ったクロの子供の頭を撫でる。
そして、持って帰ったクロの子供は一回休み。
他の子供たちに譲ってやってくれ。
俺は次の組に、ボールを投げる。
……
うん、途中で休憩をいれよう。
腕がね、もうね。
期待した目が痛い。
わかった、ランニングだ。
一緒に走ろう。
クロの子供たちが喜んでくれてなにより。
大丈夫。
ちょっと疲れただけだから。
今は横にさせて。
すぐに回復するから。
夜。
夕食後、俺の前には一匹の拳大のサイズのザブトンの子供がいた。
その背中や足には、木片を糸でくくりつけていた。
そしてポージング。
ははは、かっこいいぞ。
それで、その格好は?
ああ、収穫祭でやる演劇の衣装か。
……
俺が手を加えてもいいかな?
各パーツを糸でくくりつけるのではなく、もう少し体にフィットする感じで……
形も木片そのままではなく、動きの邪魔にならないように。
防御力アップのために、装甲を各所に。
細部にも拘りたい。
ザブトンから布をもらって来てくれ。
内側に貼ろう。
でもって、隠し彫り。
大樹の絵を彫っておこう。
着色。
色は?
赤にしようか。
ツヤも出してみよう。
武器は?
持てないから、足先にはめる形がいいな。
前足二本だけに装備すると、移動しにくいか。
じゃあ、全部の足に装備してみるか?
おおっ、かっこいいぞ。
強そうだ。
いいね。
ところで、確認してなかったのだが……
この衣装は正義の味方側かな?
それとも悪役側かな?
正義の味方側ね。
そっかー……
真っ赤なフルアーマー姿は、正義の味方には見えないこともない。
……
足の武器は外そうか。
嫌?
しかし、その武器はちょっと悪っぽい感じがするぞ。
装甲が多いのも正義の味方としてはマイナスポイントだし。
絶対に脱がない姿勢。
気に入ってくれたのは嬉しいが、演劇を壊すのはな。
わかった。
解決策を考えよう。
解決策はすぐに出た。
別のザブトンの子供が、提案してくれた。
役をチェンジ。
提案してくれたザブトンの子供が、悪役だそうだ。
これまでの練習が無駄になるかもしれないのに、悪いな。
正義の味方は人気だから、みんな練習している?
それは凄いな。
ああ、わかっている。
正義の味方用の衣装だな。
軽装で色は白にしよう。
マントも装備すれば、それっぽく見えるぞー。
翌日。
進化して一回り大きくなったザブトンの子供二匹が俺の前にいた。
えっと、衣装を取り込んだのか?
大丈夫なのか?
いや、かっこいいが……
えーと、適応能力が高いというやつなのかな?
困惑している俺の横で、文官娘衆の一人は冷静だった。
「とりあえず、新種ですね。
種族名称は……アーマーデーモンスパイダーで。
個体名称は赤いほうをレッドアーマー、白いほうをホワイトアーマーとします」
レッドアーマー、ホワイトアーマーは嬉しそうに前足を一本、上げた。
本人が喜んでいるなら、構わないか。
問題は……木材を持ってその後ろに控えている他のザブトンの子供たち。
お前たちも演劇に出るんだな。
二十匹ぐらいいるかな。
……
頑張った。
だが、最初の二匹のように進化はしなかった。
一安心だが、ザブトンの子供たちは残念がっていた。
すまない。
だが、今の姿も十分に凛々しいぞ。
演劇、頑張ってくれ。
しかし、進化に法則があるのかな?
主役級じゃないと駄目とか?
まさかな。