武闘会が終わって
武闘会が無事に終了。
武闘会の夜のフリーバトルタイムで、ハクレンが混代竜族の三人を相手にバトル。
イジメではなく、ウルザに手加減の仕方を教えるのが目的のようだ。
いや、手加減というよりも見応えのある試合作りを教えているのだろうか。
相手の全力の攻撃を受け止めたあとで、殴るを繰り返している。
もちろん、殴るときは極限まで手加減している。
殴るというより、撫でるといったほうが状況を正確に表現しているのかもしれない。
ところでハクレン。
ウルザに応援されてテンションが上がっているのかもしれないが、相手をしている三人が本気で泣いているのだが……
うん、教育に悪いからその辺りで。
そう言って止めたら、三人から凄い勢いで感謝された。
いやいや、こちらこそハクレンとウルザが申し訳ない。
怪我はあちらのテントで治しますので。
この三人、とりあえず“魔黒竜”の称号のことは横に置いて、当面は修行を頑張るらしい。
大樹の村に定住するのかなと思ったけど、本人たちの希望で魔王のところで働くことになった。
「一番、まともそうだから」
「迷惑をかけません」
「よろしくお願いします」
ギラルが許可し、魔王が受け入れたので何も言えない。
聖騎士シュナイダーことチェルシーは……鎧を脱いで、完全に女性の姿で活動している。
始祖さんの話ではデリケートな部分だと言っていたが、解決したのだろうか。
いい笑顔なので、大丈夫なのだろう。
彼女はこの後、ダガとガルフの推薦で五村で働くことになった。
五村の教会に所属し、ピリカのもとで剣を改めて学ぶそうだ。
始祖さんが許可し、本人が希望しているので何も言えない。
さっそく教会の代表の聖女セレスに引き合わせる。
「セレスです。
よろしくお願いします」
「コーリン教本部付き聖騎士のシュナ……いえ、聖騎士のチェルシーです。
お世話になります」
仲良くやってほしい。
舞台ではドライムとライメイレンが戦っている。
ドライムが涙目だ。
あれ、抽選箱にハクレンが名前を書いた木札を放り込んだんだよな。
俺がドライムってどれぐらい強いとか聞いたばっかりに……すまない。
戦いが終わったら、慰めよう。
その舞台に近い場所で、マルビットがお酒を飲んでいる。
大会中にやってきたのだが、ルーの代わりに騎士の部に出場して優勝した。
普段はぐーたらな感じだが、やる時はやるということなのだろうか。
そのマルビットをみて、リグネが自分も出ればよかったと悔やんでいた。
遠慮しなくてもよかったのに。
リグネも体を動かしたくなったのか、舞台袖で出番を待っている。
対戦相手はマルビットと共にやってきたルィンシァ。
リアの母親リグネと、ティアの母親ルィンシァ。
どちらが勝つか、まったく予想できない。
予想できないのだが……リアよ。
お前を含め、ハイエルフたち全員がルィンシァの応援サイドにいるのはどうなのだ?
それをみたらリグネが悲しい顔をするぞ。
いや、負けるところが見たいって……
一時の感情に身を任せると、不幸になるぞ。
ほら、リグネがリアたちを見つけて不敵に笑ってる。
リグネ、観客席に誤射は駄目だぞ。
ドライムとライメイレンの戦いは、ライメイレンの飛び膝蹴りで決着した。
途中まではドライムに花を持たせるのかと思ったが、ヒイチロウが応援に参加しちゃったからな。
「若いころ、あの膝に何度泣かされたか……」
「俺も俺も」
「お前の場合は、竜王に従えんって暴れたからだろ。
こっちはそんなんじゃないぞ」
「どうせ、他の女に甘い顔をしたときだろ」
「なぜわかる」
ドースとギラルの会話。
少し前まで殴り合っていたのに、仲がいいなぁ。
あ、悪いけど観客席の防御を強化してもらえるかな。
リグネ、弓を使うみたいだから。
不幸な事故は減らしたい。
会場の周囲では、いつも通りに料理や酒を振舞うテントがいくつも建っている。
鬼人族メイドたちが大忙しだ。
その中で子供たちに人気なのが、ガットのテント。
そこは料理ではなく、武器を展示していた。
「かっこいい!」
「綺麗!」
「持ちやすい!」
子供受けがいいのは、子供用のサイズの武器があるからだ。
「試作ついでに作ってみた。
待て待て、ありがとうじゃない。
まだ持っていくな。
今日は展示。
明日以降で……村長とハクレンさんの許可があったら渡そう。
ははは。
意地悪じゃないぞ。
お前たちに勝手に武器を渡して、怪我でもされたら俺が怒られるからな」
ガットの言葉に、子供たちがブーイング。
子供たちに武器か。
……
まだ早い。
俺の作った木剣や木槍で我慢しなさい。
「あと、ゴール、シール、ブロン。
剣を出せ。
明日までに砥いでおく。
ああ、お前たちには許可が出ているから持っていっていいぞ」
「ガットのおじさん、ありがとう。
じゃあ、これとこれとこれで」
「けっこう、持っていくな。
あと、それだとサイズがちょっと合わないんじゃないか?」
「このサイズがいるんだ。
代金は褒賞メダルだよね。
一つ一枚でいい?」
「ん?
いらんいらん。
持っていけ」
「そうもいかなくて」
「?
……あ、まさか」
「あはは」
「わかった。
代金は遠慮なくもらっておこう」
獣人族の男の子たちが移動したあと、ガットに聞く。
「どういうことだ?」
「男が自分用じゃない物を買った時って、目的は一つでしょ」
……
あ、ああっ、なるほど。
女性へのプレゼントか。
そうかそうか。
青春しているようで何より。
しかし……
ゴール、ブロンは一つだったが。
シールは三つか。
……
シールの相手は武器マニアなのかな。
そうだといいな。
後日。
「魔王のところに行った三人から手紙をもらったのだが……」
ギラルが相談にやってきた。
「あの三人。
三番、四番、五番を任されて活躍中とあるのだが、どういう意味なんだ?」
……
俺はどう説明しようか、少し悩んだ。
余談。
五村にて。
「え?
セレスさまって聖女さま?」
「残念ながら、ただの教会の責任者です」
「え?
ピリカさんが剣聖?」
「残念ながら、一般的な五村の警備員です」




