魔黒竜
俺が一村の各家を訪問する前に、大樹の村に新顔の来客があった。
三頭のドラゴンだ。
「炎竜族のオージェスだ」
「風竜族のハイフリーグータ」
「大地竜族のキハトロイです」
三頭とも……人間の姿になっているから三人かな。
三人とも女性。
炎竜、風竜、大地竜は前に教えてもらっていた混代竜族だな。
三人の目的は暗黒竜ギラル。
なんでも、ギラルから“魔黒竜”の称号を与えてもらいたいらしい。
“暗黒竜”よりも“魔黒竜”のほうが強そうに思えるけど、気にしてはいけない。
そういう伝統なのだそうだ。
この伝統、数千年ほど廃れていたのだが、近年になって混代竜族の中で最強は誰だとなり、その証明として称号が求められた。
「“魔黒竜”って、最強の称号なのか?」
「混代竜族の中ではそうなります」
俺の疑問に答えてくれたのはライメイレン。
彼女が三人を案内してきた。
当初、この三人は称号のことを知らず、最強である証明をライメイレンにお願いしにきたそうだ。
称号のことを知っていたライメイレンは、勝手に決められないとギラルにパス。
ギラルも称号のことを知っていたので、仕方なく三人と面接することになった。
三人の中から一人を選び、称号を与えるそうだ。
「それはわかるが、どうして大樹の村で面接するんだ?」
「称号を得る為には試練を乗り越えなければなりませんから」
この村に試練があるのだろうか?
ともかく、俺が応対する必要がないのでギラルに任せる。
俺は一村の各家を訪問しなければならない。
この段階で、三人は意気揚々とギラルから与えられる試練を待っていた。
俺が一村、二村、三村、四村の各家庭を訪問し、大樹の村に戻って来たとき、三人は膝を抱えて落ち込んでいた。
五村の一部の家庭を訪問し、大樹の村に戻って来たとき、三人は壁に向かって何かを呟いていた。
大樹の村の各家庭を訪問し終わったとき、三人は……フェニックスの雛のアイギスに人生相談をしていた。
アイギスに肩を叩かれ、涙している。
なにがあったのか?
この村に来たときは、俺を無視していたのに今では深々と頭を下げているし。
「結果はどうだったんだ?」
「駄目だ。
あの三人の今の実力では、誰にも称号を与えられん」
「厳しいな。
そんなに酷かったのか?」
「うむ。
簡単な試練にしたつもりなのだがな」
本来は混代竜族たちで選んだ一人に“暗黒竜”の称号を持つギラルが試練を与え、クリアしたら“魔黒竜”の称号を与える内容。
なので試練もそう難しい内容にはならない。
儀式的な内容になるらしい。
だが、今回は三人の候補から一人を選ぶ必要があった。
それゆえ、ちょっと競う内容になったそうだ。
ギラルの与えた試練。
直径一メートル、長さ五メートルぐらいの丸太を用意。
それを森の中に投げるので、持って帰ってきた者に称号を与えるとした。
三人とも、ドラゴンの姿になって丸太を追い掛けた。
直後、ザブトンたちの糸に引っ掛かり、行動不能。
その際、暴れたので近くにいたラスティに殴られたそうだ。
「ラナノーンが寝たところなの!
騒がしくしない!」
ギラルの与えた試練、その二。
クロの子供たちに協力してもらい、クロの子供たちが守る丸太を持ち帰った者に称号を与えるとした。
最初、クロの子供たちは三十頭だった。
しかし、三十頭が相手では三人は手も足も出ず、少しずつ数を減らして最終的に一頭になったが、三人は丸太を持ち帰れなかった。
最後の一頭は、ウノだった。
「三人は人間の姿だったのか?」
「いや、ドラゴンの姿で」
ドラゴン三頭を相手に、守り抜いたのか?
凄いな。
よしよし、頭を撫でてやろう。
「しかし、三頭でかかってウノに勝てないって……森に入ったら、ウサギにやられるかもしれないぞ」
「さすがにそれはない……と思いたいが、怪しい。
ただ、そのインフェルノウルフは歴代最強だと思うぞ」
よかったな。
最強と褒められたぞ。
ははは。
クロ、クロイチ、クロニ、クロヨン、ゆらりとこないように。
義理でも親、兄弟だろ。
仲良く、仲良くな。
ほら、お前たちも撫でてやるから。
ギラルの与えた試練、その三。
リア、ダガ、ガルフに協力を頼み、一頭ずつ一対一で三回戦う。
一番勝ち数の多い者に称号を与えるとした。
対戦順で不公平がでるので、クジで対戦相手を決めて三つの試合を同時に行う。
以後、対戦相手を代えて戦う。
対戦相手を代えるときに、回復魔法を使ったそうだが……
三頭とも、全敗。
「武闘会が近いですから。
油断はありません」
「もう少し歯応えがあると……」
「ブレスはズルい。
尻尾の先が少し燃えてしまった」
リア、ダガ、ガルフは互いに反省点をあげながら、訓練を続行。
その姿に三人の心が折れてしまったそうだ。
「ウサギが倒せない疑惑があるレベルなら、騎士の部に参加している者は厳しいんじゃないか?」
「そう思ってな。
戦士の部、一般の部の参加者とランクを落としたのだが……」
心が折れているからか、勝てず。
最後は、一村から来ていた者に対戦をお願いしたら、雷の魔法で瞬殺されてしまったそうだ。
……
「あれ、ウサギでも避けるそうだぞ?」
「らしいな。
避けるだろうと思っていたのに直撃して、ビックリしていた。
悪いことをした」
「しかし、弱すぎないか?」
「俺もそう思う。
あの中から、一人を選べと言われても困るだろ」
「確かにな」
一人は選べないだろう。
「だが、誰かを選ばないと試練が延々と続く。
困った」
「全員駄目とは言えないのか?」
「あれでも、各種族の面子を背負っているからな。
誰か一人が選ばれたならともかく、全員駄目だと……種族に戻れんだろう」
「そうか。
……じゃあ、三人に与えたらどうだ?」
「どういうことだ?」
「“魔黒竜”の称号を三人で持つんだ」
「ははは。
“魔黒竜”は一人に決まって……いや、そんな決まりはないな。
なるほど。
あ、いや勝手には決められないな。
ドースとライメイレンに相談する」
もうすぐ武闘会だ。
ドースはそろそろ来るだろう。
もうちょっとだけ、あの三人は村で過ごすことになった。
「ところでどうだ?
久しぶりに飲まないか?」
「そうしたいが、まだ家庭訪問が残っているんだ」
「大樹の村の家は回ったんだろ?
まだあるのか?」
「ああ、大事な場所がな」
俺が指差す場所には、クロ一家が勢ぞろいしている犬エリア。
そろそろ準備はいいかな?
もう少しね。
そんなに綺麗に整列しなくてもいいんだぞ。
「それと、あそこ」
ザブトンの子供たちによって飾り付けられている大樹の木。
ザブトンの子供の一匹が俺の視線に気づき、もうちょっと待ってとジェスチャー。
それを見て、ギラルは大笑いした。
「確かに大事な場所だな」
混代竜族は 306「竜族の話」にてちょっと出てます。