撮影隊の出発と各村の食事
祭りが終わった。
参加客や見物客が帰り少し静かになった。
始祖さんやドースはまだいるけど。
ルーが前々から言ってたとおりに、転移門の研究を行うためにシャシャートの街へ移動。
頑張れ。
ルー不在の間、アルフレートはアンに、ルプミリナはティアに預けられる。
ご迷惑をお掛けします。
もちろん、俺だって手が空いたときは面倒をみるつもりだ。
イレも魔王の要望で野球を撮影するためにシャシャートの街に移動する予定だが、ルーに同行はできなかった。
理由は撮影機材の運搬のため。
万能船を使えれば楽なのだが、そうもいかないので別の案が必要になった。
そこで考えられたのが馬車。
そして、どうせなら馬車をそのまま撮影の本部として使えるようにしようと、山エルフたちが改造を始めた。
キャンピング馬車の経験が役立っているようだ。
作っている馬車は五台だが、機能がそれぞれ違う。
一台目が放送本部馬車。
撮影機で撮影した映像を管理し、どの映像をスクリーンに映すかの選択をする装置を搭載している。
移動形態では二人が乗るのが精一杯だが、停車して展開すれば十人が作業できるようになる。
二台目は受信馬車。
撮影機が撮影した映像を受け取る機能に特化している。
特徴はその屋根で、アンテナのような物が伸ばせるようになっている。
伸ばせば五メートルぐらいの高さになるが、移動中はバランスが悪いのでアンテナを伸ばせない。
一台目と連結し、使うのがメイン。
三台目は機材馬車。
多数の撮影機と、有線ケーブル、中継器、映像を映す装置などを搭載するための棚が造られている。
中に人は乗り込めず、完全な運搬馬車だ。
四台目はスクリーン馬車。
馬車の側面がスクリーンになっており、そのまま映像が見られるようになっている。
また、停車して展開すれば、六メートル×十メートルぐらいの大きなスクリーンが組み立てられる機能もある。
五台目はスタッフ馬車。
トイレ、厨房、仮眠室などの機能を詰め込んだキャンピング馬車だ。
これはイレの要望。
これら五台に、撮影スタッフを乗せる馬車も必要なので最低でも六台の隊列になる。
護衛のことも考えると、十台ぐらいの隊列で運用されるだろうとイレが言っていた。
完成を待っている間、俺は撮影機を支える三脚、クレーンを作ってみた。
撮影機は長方形の四角の箱に小さな穴がついているので、知らない人というか俺は最初、写真機かと思った。
そして両手で箱を構え、箱の側面にあるスイッチを押す必要がある。
設置して使うならそれで十分かもしれないが、手に持って使うなら扱いやすい形とは思えない。
そこで三脚とクレーンだ。
三脚は撮影機の高さを固定する三本脚の装置。
高さを固定した上で、上下左右に撮影機の向きを変えられるので、安定した映像が撮れるだろう。
クレーンはTV局のスタジオにある、撮影機自体を上下左右に動かす装置だ。
これで立体的な構図で撮影することができるだろう。
三脚だけで十分だったかもしれないが、クレーンは調子に乗って作ってしまった。
イレからの評判もいいが、クレーンは一台で勘弁してほしい。
構造はそれほど難しくないが、軽量化が大変だった。
三脚は機材馬車に、クレーンはスクリーン馬車に乗せられる予定だ。
撮影隊として大樹の村から移動するのは、イレ、文官娘衆が三人、二村のミノタウロス族が一人、四村の悪魔族が五人、夢魔族が二人。
文官娘衆の三人のうちの一人は実況で活躍した者で、残り二人も妙な才覚を発揮したそうだ。
イレがどうしてもとフラウに頼み込んで撮影隊に入った。
二村のミノタウロス族、四村の悪魔族、夢魔族は撮影の様子をみて撮影隊に参加を希望した。
各村の代表の許可を取っているので問題なし。
あと、イレはクロの子供やザブトンの子供を連れて行くことを望んだが、周りから止められたそうだ。
俺としても、魔王から遠慮してほしいと言われているので、諦めてもらう。
無駄に怖がられて、クロの子供やザブトンの子供が傷付くのは俺も望まない。
他のスタッフは、シャシャートの街で集める予定だそうだ。
となると資金がいるな。
渡しておく。
足りなければ、ゴロウン商会のマイケルさんを頼るように。
シャシャートの街にはルーのほかに、マルーラで働く一村のマルコス、ポーラ。
イレと同じマーキュリー種のミヨに、そのミヨの手伝いとして派遣された文官娘衆がいる。
大きく困ることはないだろう。
でも、一応はマイケルさん、シャシャートの街の代官さんに手紙を書いておこう。
ルーがいないので、フラウに文面のチェックを頼む。
五台の馬車が完成したけど、イレたちはまだ出発しない。
ライメイレンを待っているからだ。
なんでもイレはライメイレンから使っていない撮影機を譲り受ける約束をしているらしい。
なるほど。
どうりで祭りのレースの合間、ヒイチロウの映像がよく流れると思った。
そのライメイレンだが、なにやらトラブルがあり遅れているらしい。
その連絡がきた直後、グラッファルーンが代理で持ってきてくれた。
「こちらがお約束の撮影機です」
グラッファルーンが持ってきた撮影機も箱型だったが、サイズが大きかった。
両手で前に構えるのはきびしい……ああ、ミノタウロス族なら大丈夫そうだな。
色々な機能があるらしく、イレは大興奮だ。
「それと、こういったのもありましたので……」
直径一メートル、高さ二メートルぐらいの大きな水晶。
イレは用途がわからず新しい撮影機から興味を移さなかったので、俺が聞いた。
「これは?」
「撮影機で撮影した映像を記録する為の水晶です」
その言葉にイレが動きを止めた。
俺も止めた。
「色々と制限はありますが貴方なら使いこなすでしょうと、お義母さまから預かりました」
録画装置?
俺とイレは大興奮だった。
そして、大急ぎで六台目の馬車。
記録馬車が作られた。
イレたち、撮影隊が出発した。
転移門を使い、五村まではケンタウロス族たちに馬車を引いてもらった。
あとは五村で手配した馬に交代。
五村で雇った護衛たちと共にシャシャートの街を目指す。
無事を祈る。
さて、俺は村で発生している問題に向き合う。
つい最近になって気づいた問題。
それは食事。
俺の食事ではない。
俺と一緒に食事をしていない者たちの食事に問題があった。
例をあげよう。
これはとあるミノタウロス族の一日の食事だ。
朝 トンカツ。
昼 串カツ。
晩 トンカツ。
ついでに、とあるケンタウロス族の一日の食事がこう。
朝 野菜の天ぷら。
昼 魚の天ぷら。
晩 魚と野菜の天ぷら。
でもって、とある一村の代表の一日の食事がこう。
朝 トマトシチューとパン。
昼 トマトシチュー。
晩 トマトシチュー。
大樹の村に限らず、各村は色々な料理ができるようになっていたし、アンたちが俺の食事は毎回違う料理を出してくれていたので油断していた。
本当につい最近、ふと駐在員としてきているミノタウロス族に食事の話を聞いて気づき、調査して判明した。
食事の偏り問題。
大樹の村でもそういった食生活の者がいたが少数。
一村、二村、三村が酷かった。
しかし、各村で事情を聞くと納得できる面もある。
それぞれ仕事があるので、料理にそれほど時間を使っていられないのだ。
なので朝にまとめて作る。
もしくは、料理の準備をそのまま使いまわせるように、朝昼晩同じ料理にする。
なるほど。
納得できる。
しかしだ。
とあるミノタウロス族さん。
朝 トンカツ。
昼 串カツ。
晩 トンカツ。
このメニューを一週間、続けたとの話があるのだが?
串カツは内容が違うし、トンカツは毎回形を変えているからセーフ?
ほほう。
これではいけないと、俺は緊急会議。
対策を考える。
いきなり毎食、料理を変えろというのが乱暴なのはわかる。
生活に余裕はあるが、その余裕はできるだけ仕事に使いたいという考えなのだろう。
四村で食事の偏りが少ないのは、管理しているベルやゴウがいるからだ。
ならば、一村、二村、三村にも管理する者を用意すべきか?
「村長、提案があります」
手をあげたのは、三村世話役のラッシャーシ。
どうするのかと思ったが、やることはシンプルだった。
「各村、一日に一家族をランダムに選出し、その日の食事内容を報告してもらいます」
どの家族が選ばれるかわからないから、各自が注意するだろうと。
「一ヶ月も続ければ、毎回の食事に変化をつける工夫が定着するのではないかと思います」
なるほど。
悪くないと思う。
「しかし、報告だけで改善するかな?」
ドワーフのドノバンの意見。
そう言われると、そうかもしれない。
報告だけだものな。
罰則を作るわけにもいかないし、どうしたものか。
「その点も考えてあります」
ラッシャーシは胸を張った。
各村、食事内容を報告することが始まった。
各村の世話役がランダムに家族を選び、報告を聞いて記録することになっている。
報告内容に罰則はない。
ただ、一文が追加されただけだ。
「この食事内容の報告は、最後に村長が目を通します」
それで大丈夫なのかと思ったが、報告内容からは改善がみられた。
とあるミノタウロス族の一日の食事。
朝 トンカツとキャベツ。
昼 串カツ。
晩 カツ丼と野菜ジュース。
……
考えてみれば、一村、二村、三村の住人にはバランスの良い食事という概念がないのかもしれない。
反省。
時間をかけて、ゆっくりと教えていこう。
とりあえず、揚げ物、油ものをできるだけ連続して食べないようにと注意し、報告は秋の武闘会ごろまで続けてもらうことにした。