お祭り中継
今年の夏の祭りは、リレーだった。
種族対抗ではなく、種族混合。
コースが大きく六つの区間に分けられており、その区間毎に出られる種族が限定されている。
第一区間。
村の西のため池を一周するコース。
出場可能なのはケンタウロス族、馬、ユニコーン。
第二区間。
果樹エリアを横断する障害コース。
出場可能なのは、ザブトンの子供たち。
第三区間。
村の東側を北端から南端までの超ロングコース。
出場可能なのはクロの子供たち。
第四区間。
村の南東からダンジョン入り口を目指すコース。
出場可能なのは巨人族、ミノタウロス族、ラミア族、ドラゴン族(ドラゴンの姿、飛行禁止)。
第五区間。
ダンジョン内部を駆け回るアスレチックコース。
出場可能なのはハイエルフ、鬼人族、リザードマン、獣人族、ドワーフ、山エルフ、ドラゴン族(人間の姿)、魔族、一村住人。
第六区間。
ダンジョンから祭りの会場である居住エリア南を目指す飛行コース。
出場可能なのは吸血鬼、天使族、ハーピー族、悪魔族、夢魔族。
ニュニュダフネは走るのが得意じゃないとのことで、自主的に運営にまわっている。
また、妖精女王、ヨウコ、蜂、亀、死霊騎士、ライオン一家などがどの区間を走るかは協議で候補を決め、最終的に俺が判断を下す。
こんな感じ。
大体一回のレースで十チームぐらいが走る。
運動会みたいだなと思った。
ちなみに、スタート前に選手登録が行われ、第二区間以降には万能船で一気に輸送する。
なので走ってない者たちは祭り会場で飲み食いし、レースの様子を見ている。
レースの様子をどうやって見るのかと思うだろう。
俺も思った。
中継された。
カメラで撮影した映像が、用意された大型のスクリーンに、リアルタイムで放送された。
四村こと太陽城の驚異の技術力。
そういや、太陽城が村にきた時に映してたな。
録画はできないみたいだが、十分すごい。
この技術はマーキュリー種の一人、イレ=フォーグマが持ち込んだ。
ルーが嫉妬の炎を燃やしながら技術を調べていた。
うん、ルーはその前にルプミリナとオーロラを可愛がろうな。
ティアは次のレース、走るからチャンスだぞ。
カメラは各地で待機するニュニュダフネたちが構え、レースの様子を撮影する。
イレは放送が盛り上がるように、放送する映像の切り替え作業に従事。
その横で文官娘衆が熱い実況を行っている。
この放送部は、万能船内に作られた。
レースの様子がリアルタイムでわかるからだ。
ベルやゴウも協力しながら、頑張ってくれている。
しかし、あのカメラは便利だな。
各村の連絡が楽になりそうだ。
魔王のいる城と連絡できたりもするのかな?
「残念ながら長距離は無理です。
また、使用に関しても制限が多く」
「簡単に言うと?」
「太陽城か万能船がないと、使い物にはならないかと」
なんでも、カメラと映像を管理する装置の間の限界距離は三キロぐらい。
頑張っても五キロぐらい。
しかも、障害物が入ると極端に距離が短くなるそうだ。
なので空中で移動できる太陽城や万能船がないと、使い物にならないそうだ。
いやいや、家の防犯とかに役立ちそうだけどな。
カメラやスクリーンは、それなりの数があるけど、量産は厳しいらしい。
上手い話はないものだ。
ところでだ。
「太陽城を調べた時、カメラやスクリーン、放送機材が発見できなかったが?」
「私の私室に隠していましたから」
イレ=フォーグマ。
三十代ぐらいの細身の男性で、ツバの広い帽子を被り、真っ黒な服装だ。
だから、見た目は魔法使い。
しかし、やっていることは放送ディレクター……エンジニアも兼ねているかな。
有能そうだし、カメラは役に立つだろう。
これからも、よろしく。
「村長。
そろそろ次のレースですよ」
「わかった」
俺は、レース参加者への激励をするために万能船に乗っている。
乗りっぱなし。
乗り心地は悪くないが、激励は大変だ。
熱く語り過ぎると、力が入りすぎる。
「村長の信頼に応えるため、絶対に勝利します!」
これを全チームが言う。
いやいや、勝利は一チームだけだから。
十チームいたら、九チームが泣くことになるから。
適度な激励は本当に難しい。
そして、祭り実行委員の大半も万能船に乗っている。
「カメラ二十三号、なにやってるの?
走るコースが読めない?
読め、根性で読め!
お前の存在価値は選手を映すことだ!」
「第二区間でトラブル発生。
羊たちが興奮して暴れてるみたいです」
「このカメラ、こんなに綺麗に映るの?
ちょ、化粧、化粧させて」
「本日の第三レース。
先頭がそろそろ第三区間の前に……見えました。
バトンが第三走者に渡されます」
「第四区間に連絡。
すぐに行くわよ」
「次のレース。
子供たちが参加したがっているからチーム編成は考えてね」
「ぎゃぁぁっ!
祭り会場の新作クレープが売り切れたみたい!
いま、カメラにちらっと売り切れの看板が映ってたぁ!」
このお祭り、一番頑張っているのは祭り実行委員なのかもしれない。
今度、労ってやろう。
なんだかんだと大変だったが、大きな事故もなく無事に終わった祭りだった。
仕事の山場は一つ超えました。
しかし、コース上にはまだ山が二つぐらいみえる……
書籍三巻、コミック二巻の情報を活動報告に書きました。
よろしくお願いします。
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