番外 貴族学園の新しい生徒
俺の名はグロービウフェ。
かっこよく、グロウと呼ぶように。
俺は育った街どころか、親の領内で一番の魔法戦士だ。
魔物や山賊退治で鍛えた実戦経験もある。
ちょっと武力方面に力を注ぎ過ぎて、焦った親が学園に放り込んだ。
ガルガルド貴族学園。
正直、ここにいるべき男ではない。
だが、親が貴族であるから仕方がない。
さっさと卒業してやろうと思う。
気持ちが変わったのは入学式を終えたあと。
学園長の挨拶を聞いたからだ。
感化されたのではない。
反発だ。
「常識のある行動を。
やりすぎはよくありません。
何事もほどほどに。
新しいことをする時は、かならず周囲に相談をするように」
くだらない。
常識なんざ、ぶっ壊してやる。
俺にはそれだけの力がある。
そして、いずれは魔王の側近として活躍するのだ。
ふふふ。
これは自惚れではない。
確定した未来だ。
しかし、常識をぶっこわすとは何をすればいいのだろう?
……
とりあえず、学園を制圧……ちがった。
学園で一番になればいいかな。
よし。
まずはクラスで一番を目指そう。
挨拶は元気よく。
舐められないように。
……
待て待て。
慌てるな。
クラスは先生の授業単位ごとに分けられている。
全員が同じ新入生ではない。
しかも魔族だ。
見た目通りの年齢じゃないことも多い。
子供みたいな奴が実は魔力豊富な大ベテランで数百歳というのは、珍しいがたまに聞く話ではある。
強い相手と戦うのは好きだが、まずは確実に勝利したい。
ちゃんと相手を選んで喧嘩を売る。
そして勝って子分を増やしていく。
これだろう。
どこかに手頃な……いた!
種族、どうみても獣人族。
そして子供。
獣人族の子供は、基本的に見た目通りの年齢だ。
……
子供過ぎないか?
どうしてこんな場所に?
まあ、学園にいるのだ。
気にすることはないか。
俺は見知らぬ天井をみていた。
……
「ここはどこだ?」
「学園の医務室。
起きた?」
「あんたは?」
「あんたじゃありません。
学園に雇われた治療魔法使いです。
治療士と呼ばれています。
美人の治療士のお姉さんと呼ぶように」
そうか。
「えっと、俺はどうしてここにいるんだ?」
「知りませんよ。
どこかで気を失ったんじゃないですか?」
「お前が治してくれたのか?」
「そのために呼ばれましたが、何もしていません。
気を失っていただけですから」
「えっと……」
「貴方に何があったか。
誰が運んだか。
どれぐらい寝ていたかは正確には知りません。
私が来てからは二時間ぐらい経っています。
……はい、私の指は何本ですか?」
「三本」
「眩暈、吐き気は?」
「ない」
「身体、起こせますか?」
「あ、ああ……大丈夫だ」
「立てます?」
「問題ない」
「そう。
そこの線にそって少し歩いてください」
歩いた。
治療士からは問題なしと医務室から追い出された。
……
気絶する前後の記憶がないのは問題ないのか?
ないか?
ないな。
よし。
気を取り直して、俺は素振りをする。
魔力を込めて放たれる俺のパンチは、岩をも砕く。
学園の建物には保護魔法が掛けられているので砕くのは難しいが、時間があれば砕くこともできるだろう。
よし。
とりあえず、次に目に入った奴に喧嘩を売ろう。
うん、最終的には全員をぶっ飛ばすんだ。
誰だろうが関係ない。
そうだ。
なぜ俺はさっき、相手を選ぼうとしたのか……おっと、誰か来たな。
見覚えのある天井だ。
「また君ですか」
見覚えのある治療士だ。
「病気を患っている場合は申告するように入学式で言われませんでしたか?」
「俺は……病気じゃない」
「では、この短い時間に二回も気絶で医務室に運ばれたのはどう説明するんです?」
……
その日は医務室で過ごした。
翌日。
体調、万全!
気力、充実!
学園の食堂の飯が美味い。
素晴らしい。
さて……今日も頑張るか!
「私より腕のいい治療士を呼んできます。
そのまま寝ててください。
絶対ですよ」
……
俺は本当に病気なのかもしれない。
ああ、なんてことだ。
未来の魔王の側近が病気とは……
治るのだろうか。
ええい、なんだこの不安。
この程度で折れるものか!
数日後。
なんか凄い医療専門の研究室。
「それで症状は?」
「時々、気を失っています。
その前後の記憶がどうも曖昧なようで……」
「なるほど。
とりあえず、ターバンを巻いておくように。
ファッションじゃないぞ。
気を失った時に頭を打たないようにだ。
だからもう少し深めに巻いて。
他に症状は?」
「不明です。
患者本人からは、獣人族をみると身体が震えると訴えています」
「……わけがわからんな」
数ヶ月後。
俺は学園で平穏に暮らしている。
穏やかに暮らせば、気を失うことはないようだ。
それがわかっただけでも十分。
魔王の側近への道は諦めた。
今は勉学に励んでいる。
目標は治療魔法使い。
治療士になること。
頑張ろうとおもう。
あと、美人の治療士のお姉さんと婚約した。
単純と笑ってくれてかまわない。
更新が滞り、申し訳ありません。
今月の二十日ぐらいまでは忙しい状況が続きそうです。