古典大好き文官娘衆
私は文官娘衆と呼ばれるグループに所属している魔族の女。
私は今、猛烈に感動している。
私の目の前で行われているのは国産みの儀式。
フェニックスに導かれし男が、世界で最初の王となる物語。
妖精から与えられた剣は世界を統べる力の象徴であり、盾は世界を守る力の象徴。
それらを手にしながらも力に溺れず、他者に預ける度量を示すことで神様から王になることを認められるという。
一般的に広まっている物語では、剣は人間の戦士に、盾は竜の巫女に渡したとされている。
でも、ここは魔王様に是非とも剣を受け取ってもらいたかった。
村長に提案したら、即決だった。
さすが村長。
わかってらっしゃる。
なのに魔王様が動揺してどうするのですか?
堂々と剣を受け取ってくださいね。
リハーサルはしっかりやりますよ。
盾は竜の巫女に渡したいのだが、心当たりがありません。
どうしようかと思っていたら、ドースさまが立候補してくださった。
ドラゴン本人なら何も問題なし。
うん、問題ないよね?
よろしくお願いします。
最後に、冠を渡す役目は……はい、シソさんにお任せします。
ええ、わかっています。
私たちと一緒にこの儀式を計画したのですから、譲れないところですよね。
え?
今から儀式のために身を清めてくる?
構いませんが、遅刻は駄目ですよ。
本番は明日の朝ですからね。
あら?
どうしたの猫ちゃん?
にゃーにゃー抗議しているようだけど。
そういえば貴方の名前は、冠を渡した神様と同じ名前でしたね。
でも、さすがに猫じゃ冠を渡すのは無理でしょ。
頭を掻いてあげるから許してちょうだい。
目を閉じるとこれまでの苦労が次々と……
ああ、駄目駄目。
もったいない。
目を開き、この光景を焼き付けないと。
村長が櫓に登って着替えている間に、次の準備。
魔王様、乗るタイミングは大丈夫ですか?
剣はどうします?
パレードのあいだは持っている?
構いませんが、失くさないでくださいよ。
ドースさま、ドースさまもパレードに出るのですから指定の場所に。
盾はどうします?
わかりました。
お預かりします。
え?
こちらの古い盾も預かるのですか?
わかりました。
ですがこの盾は?
正直、ガットさんの盾に比べると簡単な造りというか……
昔の儀式の時につかった盾?
代々、ドラゴン族に伝わっていた?
前にもどこかで同じ儀式を他でもやったのですか?
八千年前?
またまた~、それって国産みの本番じゃないですか。
……
本物?
……じょ、冗談ですよね?
どどーんっとグランマリアさんたちの急降下爆撃の火柱があがる。
うんうん、身体に響いてくる。
本来、国造りの火は三本だけど、今回は倍の六本にしました。
なんでもかんでもなぞるだけでは、よろしくないと思うので。
時には改革も必要。
いえいえ、けっして天使族の誰が投げるかで揉めたからではありませんよ。
ええ、ほんとうに。
村長の衣装も蜘蛛の王、獣の王、鳥の王と順調にチェンジしている。
ふふふ。
ザブトンさまに相談した甲斐があった。
最後に、何代か前の魔王様を倒したウルブラーザ王になるのは魔族として複雑な心境だけど……外せない人物だしね。
そういえば、昔。
村長が北のダンジョンから帰ってきた時に、ルーさまやティアさまがウルブラーザ王に関して調べてたわよね。
あれはなんだったのかな?
ウルザちゃんが村に来たころよね。
……
おっといけない、いけない。
そろそろパレード参加者の交代タイミング。
後半になることを了承していただいたフローラさま、ユーリさまには特にしっかり伝達しないと。
失敗すると出番なしになって、恨まれてしまう。
もちろん、他の方にもしっかりと伝達。
あれ?
ユーリさま、魔王さまと交代ですか?
え?
ゴールくん、シールくん、ブロンくんもいつの間に……
帰ってこないんじゃなかったの?
無理矢理、連れて来られた?
ユーリさまと一緒に神輿に乗って、旗持ちをすると?
が、頑張ってね。
アルフレートさま。
ゴールくんたちとの話はこの辺りで。
そろそろ出発ですから。
あれ?
ルーさま、ティアさま、リアさま、アンさま、ハクレンさま、フラウさま、セナさま、ラスティさま。
そのまま櫓に乗っているのでは?
フローラさま、ヤーさまと交代?
構いませんが……よろしいので?
……
わかりました。
おおっと、村長が降りたら意味がないですよね。
村長の代役はいないのです。
もう少しですので頑張ってください。
ザブトンさま、村長の衣装を直してください。
ちょっと乱れています。
後半は村長の櫓にクロさん、ユキさんも登るのですか?
村長が疲れているので、癒してあげてくださいね。
でも、クロさん、ユキさんがいなくなったら……あ、ウノさんが代理ですか。
ちょっと緊張しているみたいですが……
クロサンさんがいるので心配はいりませんね。
今回のパレードには、私の提案した意見をいくつも取り入れてもらった。
とても嬉しい。
そして楽しい。
強いて文句を言うなら、フェニックスの雛のアイギス。
雛だから仕方がないとはいえ、もう少し成長できなかったのか。
丸々と可愛いけど、ちょっとイメージと違う。
大丈夫。
心の目。
そう、心の目でみれば大丈夫。
雄々しいフェニックスの姿がみえる。
……
アイギス、雄ですよね?
あれ?
雌だったかな?
……
どっちでもいいか。
そういえば妖精女王さん。
村長に剣と盾を渡す役目、ウルザちゃんに譲ってよかったのですか?
自分が渡すとシャレにならなくなる?
えーっと……渡すのはガットさんが作った剣と盾ですよ。
物は関係ない?
誰が渡したかが大事?
その証拠に、あの時、渡した剣は木の棒で、盾はそこらで拾った?
えーっと……
妖精女王さんは、保管してあるドースさまの盾をみて懐かしそうな顔をしている。
……
き、聞かなかったことにしよう。