獣人族の男の子たちの学園生活 リグネが村に行く前
リグネさんのいた遺跡は、ダンジョン指定が解除された。
先住者としてリグネさんがいたからだ。
数々の証拠を提出し、それが認められた。
その上で、リグネさんは遺跡を魔王国に譲渡。
遺跡は魔王国管理物件となった。
その新しく魔王国管理物件となった遺跡の管理者には、リグネさんが就任する。
ややこしいが、下手に個人所有であるより安全とのことだ。
襲撃者の身の安全を考えれば、僕も正しい判断だと思う。
そのリグネさんが大樹の村に行くまでに、僕たちには一つの仕事ができた。
リグネさんが栽培している苔の販売先を探すことだ。
以前は、北の森まで買い取りに来てくれる商人がいたのだが、なぜか夏前ぐらいから姿を見せなくなったそうだ。
まあ、僕たちが探せる販売先はそう多くはない。
まずはゴロウン商会に話を持ち込む。
断られたら、ビーゼルのおじさんか魔王のおじさんに商人を紹介してもらおう。
そう思っていたら、ゴロウン商会が引き受けてくれた。
細かい話はリグネさんとしてもらうとして、僕の仕事はこれで終わり。
あとは学園に戻って、いつも通りクラブ活動かな。
でも、やることがないんだよな。
冬だから畑仕事はないし、狩りも行わない。
学園周辺は村ほど雪は降らないし、外に出るのが嫌になるぐらい寒くはならないが、大工仕事に適した気温とはいえない。
料理を作って食べるだけでいいのだろうか?
そんなことを考えていると、コークスにいつの間にか酒場に連れ込まれていた。
ダンジョン探索失敗の残念会だそうだ。
と言っても暗い雰囲気ではない。
小額ではあるが、それなりの報奨金が国から支払われたからだ。
探索の実績に応じて……ではなく、探索時の登録者数で頭割り。
登録だけしている者もいるが、登録時にお金がいるし、報奨金がでるかどうかはわからないので一種のギャンブルだ。
黙認されている。
僕もちゃんと登録料を払っているので受け取れた。
お金はないよりはあるほうがいいので、嬉しい。
ここの支払いも心配しなくてよさそうだ。
「え?
明日から出かけるの?」
「ああ。
ダンジョンが駄目だったからな。
シャシャートの街に行く商隊の護衛だ」
「寂しくなるね」
「ははは。
夏前には戻ってくるよ。
それまで王都の守りは任せた」
「ただの学園教師に無茶を言わないでよ。
ギルドに何かあったら、できる範囲で……こっそりと頑張る」
「それでいい。
頼んだぞ。
よし、飲め飲めっ!」
「できればもう少し上質のお酒で」
「舌が肥えてるな。
どこのお坊ちゃんだ?」
「ただの学園の先生だよ。
シャシャートの街に到着したら、マルーラってお店に行くと美味しいのが食べられるよ」
「おいおい、そんな有名な話をいまさらされても困るぞ。
ビッグルーフ・シャシャートの中の店だろ?」
「そうなの?
有名なんだ」
「そりゃな。
噂じゃ、お貴族様が何人も通ってるって話だ」
「へー」
「へーって、反応が薄いな。
ああ、お前もお貴族様だったか」
「立場はね。
村出身の村人だよ」
「その冗談、いつまで続けるんだ?」
「いや、本当なんだけど」
「わかったわかった。
じゃあその村人様に、噂のマルーラで何か買ってきてやろう」
「え?
悪いなぁ」
「代金はもらうぞ」
「ははは。
当然か。
じゃあ手紙を書くからそれで割引してもらって」
「手紙?
知り合いでもいるのか?」
「マルーラの店長」
「だから、そういうコネを普通の村人は持たないんだって」
「普通の村人だから持っていると思うんだけどなぁ……」
残念会は盛り上がった。
学園に戻り、予想通りの料理の毎日。
食べにくる人数が増えすぎている気がする。
あと、いまさらだけど、軍の訓練を学園の敷地内でやっていいのかな?
気にするなと言われたから、気にしないけど。
十日ほどしたら、リグネさんが学園にやってきた。
このあと、ビーゼルのおじさんと一緒に村に行くそうだ。
手紙を書いておいたのでお願いする。
「うむ、必ず届けよう。
それとだな、紹介してもらったゴロウン商会なのだが……」
「何か問題があった?」
「苔の取引額がおかしいのだ」
「おかしい?
安く買い叩かれたの?」
「逆だ。
以前の百倍以上の値をつけてくれた」
「百倍以上?」
「うむ。
お前が何か脅したのかと思ったが……違うみたいだな」
「そんなことはしないよ」
前の商人が必要以上に買い叩いていたのかな?
「ふむ。
まあ、望外の金を手にしたわけでな。
お前に情報料と迷惑料を払っておこう」
「情報料はリアお姉ちゃんや、大樹の村のことだよね?
迷惑料は?」
「脅して捕まえただろ」
「そっちは和解したと思っていたけど」
「私の気持ちの問題だ。
金はあっても困らん。
受け取っておけ」
「……わかった。
ありがとう」
リグネさんの差し出す小銭入れを受け取る。
重い。
あ、中身、全部金貨だ。
どれぐらいの取引額だったんだろう。
「それとだ、これで私にもできそうな仕事を探してくれないか」
リグネさんが、さらに金貨を一枚、渡してくれる。
「仕事?
こっちで?
大樹の村でリアお姉ちゃんと一緒に生活しないの?」
「遺跡の管理者だからな。
あまり離れるのはよろしくない。
それに、いまさら私が行って長老面もないだろう。
娘に嫌われる」
「あはは。
なるほど。
それじゃあ、学園で教師とかどう?」
「教師は柄ではないな」
「じゃあ……あっちで訓練している軍の教官とかは?」
「悪くないが、軍に所属するのはなぁ」
「そこはそれ、手はあるよ」
「あるのか?」
「うん。
任せて」
そんなに変なことじゃない。
僕たちがリグネさんを雇い、鍛えてほしい人を任せる。
それだけ。
僕としても、最近は力不足を感じるから鍛えてくれる人が近くにいるのは助かる。
「……わかった。
それでいい。
よろしく頼む」
「了解。
手続きしておくよ。
生活はどこでするの?」
「金はあるから、王都で宿を借りる予定だ」
「そう。
宿が決まったら教えてね」
「わかった」
大樹の村に出発するまでまだ時間があったので、昼食をご馳走した。
「ここに住むから、家を頼む」
金貨を五枚ほど渡された。
余った分は僕の取り分らしい。
家は春にならないと作業できないかな。
でも、手続きは頑張ろう。
リグネさんを入学させて、生徒にすれば楽かな?
……
悪くない考えだ。
実行しよう。
リグネさん、春から学園生徒だ。
次から、舞台は村に戻って春になります。