冬もそろそろ終わりに近付いて
万能船の専用池に関して計画が変更された。
船の形だから池にしないといけないと思ったけど、空を飛ぶのだから水に浮かべる必要はなかった。
船を置くための台だけで十分だった。
穴を掘る必要もなかった。
ちょっと悲しい。
慰めてくれたのはルー。
「地下から発進するってかっこよくない?」
そんなものだろうか?
まあ、掘った穴は有効利用する。
穴の上を塞ぐ扉を作り、普段は閉じて万能船を野ざらしにしない。
扉は雪や雨対策として三角屋根の形に。
この扉、発進時には万能船の手で開く。
船に手があるのは、色々と便利だな。
船の標準装備になったりしないだろうか?
重量のある扉なので、開閉の前には警告音を鳴らしてもらう。
とりあえずは、万能船の連絡用の鐘で。
村の警報と間違える可能性があるので、春にザブトンが起きたら改めて相談しよう。
一緒に作業していたハイエルフ、山エルフたちと別れ、屋敷に戻って一休み。
一休みは俺の部屋か、客用のリビングのどちらか。
アルフレートたちが客用のリビングにいるらしいので、そちらに向かう。
うん、仲が良さそうでなにより。
ただ、客用のリビングなので走り回らないように。
外……は寒いよな。
俺も寒かった。
俺は適当な場所に座布団を置いて座る。
見回して……子猫たちの姿はない。
子供たちがいるもんな。
俺の部屋のほうにいるのだろう。
フェニックスの雛のアイギスと酒スライム、あとは子狐姿のヒトエがいる。
毎日顔を見ているが、なんだか久しぶりな気がする。
よしよし、俺の膝の上に座るか?
ははは。
酒スライム、お前に言ったんじゃない。
あっちでお酒を飲んでなさい。
アイギス、お前にでもない。
お前は頭の上に乗ってなさい。
遠慮しながらやってきたヒトエを膝の上に座らせ、ご満悦。
鬼人族メイドが俺の近くにテーブルを持ってきて、お茶を置いてくれた。
ヒトエにはジュースね。
ありがとう。
ヒトエとヨウコのことを話題に。
最近はヨウコが仕事に集中し過ぎて放置されることがある?
それはよくないな。
うん、よくない。
ヨウコに言っておこう。
だが、ヨウコもお前のことが嫌いだから放っているわけじゃないからな。
そこは間違えちゃ駄目だぞ。
ヒトエがアルフレートたちに誘われたので俺の膝から離脱。
空いた膝に、さきほどからずっと狙っていたクロが頭を置いた。
よしよし。
ヒトエを膝に座らせた後から、ずっと俺の周りをウロウロしてたもんな。
すまんすまん。
俺の部屋で寝ていると思ったんだ。
ははは。
俺の膝に頭を乗せるクロを可愛がりながら、次に来るのは誰かなと考えた。
ユキかな?
ザブトンの子供たちかも。
……
マルビットか。
予想外だな。
えっと、それでなぜ俺の膝に座る?
人妻だよな?
かなり昔に旦那は亡くなったって、それでもこれは色々と問題があるんじゃないか?
ほら、キアービットが凄い顔でこっちに向かって……
避難。
隙が大き過ぎたかもしれない。
心を厳しく律しよう。
俺の頭の上で不動だったアイギスに誓う。
屋敷の中央にあるホールで考える。
ここは村人全員を集めて話をする時には便利だが、冬場は広すぎて寒い。
幅の狭いサッカーのグラウンドぐらいはあるからな。
ハイエルフたちの計画では魔法で温める予定だったのだが、この広さを温めるのは色々ともったいないので止めている。
結果、外よりはマシだが、それでも寒いので人も寄り付かず、さらに寒々しく感じる。
どうしたものか?
……
簡単に移動できる仕切り(パーテーション)を用意し、個室を作ってみるのはどうだろう?
俺の後ろに控えているハイエルフ、山エルフが頷く。
悪くなさそうだ。
やってみる。
やってみた。
四畳半ぐらいの空間ができた。
心が落ち着く。
中央に火鉢を置けば、十分に暖かいだろう。
……
屋根は欲しいな。
上が寒いから。
高さは三メートルぐらいで。
よし。
真っ暗だ。
魔法で明かりを頼む。
……
ほほう。
なかなか素敵な空間。
しかし、部屋としてしっかりしてくると、隙間風が気になる。
壁と壁の隙間はキッチリしているが、床と壁をキッチリすると仕切りを移動しにくくなる。
構造的弱点だな。
これだと仕切りではなく、布でテントを張ったほうが風は防げるな。
しかし、室内でテントを張ると床や壁が傷む。
そんなことはできない。
……
床に三十センチぐらいの厚さの板を敷いて床を作り、その上にテントを張ってみた。
テントの中は二メートル四方もないが、なかなか良い具合だ。
毛布を入れて、快適空間の出来上がり。
横になってみる。
……
いいね。
こうなると……
ハイエルフ、山エルフたちが、キャンピング馬車をテントの傍に持ってきてくれた。
なかなかわかっているじゃないか。
よし。
とりあえずテントをあといくつか作ろうか。
俺だけ楽しむのも悪い。
少なくとも、ハイエルフ、山エルフたちのテントを作らなければ。
キャンピング馬車で料理も開始。
室内だけど、ちょっとしたキャンプ気分。
「魔法でここを温めたほうが、楽だったのでは?」
アンの正論は聞かなかったことにする。
「そう言えば、魔道具の件はどうなったんだ?」
俺はキャンピング馬車の傍で、料理を食べながらルーに聞く。
秋の武闘会でゴールたちが戻ってきた時、ルーに調査を依頼していた。
持ってきたのはゴールたちだが、依頼者はグラッツ。
なんでも魔道具が“混ぜ物”と呼ばれる危ない魔物を生み出すとかなんとか。
「あれは調べるまでもないわ。
魔道具が“混ぜ物”を生むことはないから。
ただ、大昔に魔道具で“混ぜ物”を呼び寄せたことがあって、それが原因でその勘違いが広まってるのよ」
「そうなのか?」
「ええ。
まあ、すぐに突っ返すより、しばらく預かったあとで大丈夫って言ったほうが相手も安心するだろうから、まだ預かったままだけどね」
「ちゃんと返せよ」
「さすがに借りたままってことにはしないわよ。
性能的にはあれより上位の魔道具、旦那様の倉庫にあるし」
「それはよかった。
それで、その“混ぜ物”ってのは何なんだ?」
「うーん。
魔力の集合体って意見が強いかな」
「よくわからん」
「あはは。
えーっと、ゴーレムを操る魔法があるでしょ」
ティアがつかっている魔法だな。
万能船にも応用されている。
「あれは術者がある程度、指示を出せば勝手に動くじゃない?」
「そうだな」
「指示を出さなくても勝手に動き出したゴーレムって感じかな。
自律しているからある意味、究極のゴーレムなんだけど、目的が自己保存だけだからね。
マーキュリー種の出来損ないって言っちゃうと、ベルやゴウに悪いかな」
「……すまん、やっぱりよくわからない」
「確かに危ない魔物だけど、この辺りじゃ絶対に出ないから大丈夫よ。
たぶん、魔王国だと発生率はかなり低いわ」
「それじゃあ、ゴールたちの学園の近くに出たってのは……」
「究極的に運が悪かったわね。
空から降ってくる石に当たるぐらいの運の悪さ」
「それは……酷いな」
「まあ、だから神経質になってグラッツは調査依頼を出したのでしょうけど。
春になったら、魔道具を返すついでに調べてくるわ」
「また出かけるのか?」
「あら、寂しい?
マルビットがいるでしょ?」
「耳に入ったか」
「ふふふ。
膝の上に乗せてくれたら許しましょう」
「……どうぞ、お姫さま」
そろそろ、仕事がキツくなってきました。
更新が乱れそうです。
ご容赦ください。
あと、花粉症。
これまで頑張っていた薬勢、敗北。ヒノキ恐るべし。