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獣人族の男の子たちの学園生活 北の森の手前


 僕たちが学園の北の森から抜けると、グラッツのおじさんが出迎えてくれた。


「怪我はないか?」


「なんとかね。

 で、このすごい数の人はなに?」


 千人ぐらいの兵隊が武装して待機している。


 百人ぐらいの部隊に分かれて綺麗に整列しているから、今すぐ森に突撃できそうだ。


「お前たちを信じていないわけじゃないぞ。

 万が一を考えるのが私の仕事だからな。

 生徒五人は無事に保護した。

 雇われた冒険者たちも含めてな」


 そう、よかった。


「生徒五人は学園に。

 冒険者たちはあそこにいる」


 グラッツのおじさんが指差す場所に、装備がバラバラな一団がいる。


 冒険者が集まっているようだ。


 あ、森で遭遇したコークスの姿がみえる。


 無事だったようだ。


 こっちに気付いて手を振ったので、振り返しておく。


「それで、ウォーベアとラヴァーズビーストはどうした?

 仕留めたか?」


「あー、それなんだけど。

 ウォーベアは五頭、ラヴァーズビーストは三頭。

 死ぬのを見た」


「……妙な報告だな」


 グラッツのおじさんは僕たちの言いたいことを察してくれた。


「他の人に聞かれない場所、用意できる?」


「あそこでいいか?」


 グラッツのおじさんがテントに向かったので、僕たちも後を追う。


 テントはそれなりにしっかりした布や柱を使っているが内装は地面に直接置かれた安っぽい椅子とテーブルがあるだけ。


「貧相でガッカリしたか?」


「いや、緊急だったし、ここが豪華だったら逆に驚く」


 万が一、魔獣が森から出てきたら放棄するかもしれない場所だし、豪華にする意味はないだろう。


「豪華にするのは、それはそれで意味があるんだけどな。

 このテントには阻害魔法が掛けられている。

 外部から聞かれる心配はない。

 それで、どんな話なんだ?」


「えーっとね」


 今回のことをどこまで話すか、森を出るまでにゴールとブロンと相談している。


 あの黒いモヤのような化け物のことは確実に伝える。


 問題はザブトンの子のことを伝えるかどうか。


 結論としては、嘘はよろしくない。


 正直に話す。


 ただ、ザブトンの子が村の外では嫌われているのは知っている。


 五村ごのむらにだって、魔王国からの要望で行けないぐらいだ。


 なので、まずはグラッツのおじさんに伝え、あとは任せようとなった。


 うん、悪くないと思う。


 僕たちはできるだけ正確に、起きた出来事を順番に伝えた。




 グラッツのおじさんが頭を抱えた。


「大丈夫?」


「あ、うん、ありがとう。

 えーっと……ちょっと待ってくれ」


 グラッツのおじさんがテントから出て行ったと思ったら、いくつかの本を抱えて戻ってきた。


「黒いモヤのような化け物ってのはこれか?」


 グラッツのおじさんが一冊の本を開き、そこに描かれた絵を確認する。


 確かにこんな感じだった。


 しかしこの本。


 他のページには色々と書かれているのに、このページには絵しかない。


「少し絵と形が違うけど、雰囲気は同じだと思う」


 僕の意見に、ゴールとブロンも賛同してくれた。


「わかった。

 この魔物に関しては口外禁止だ」


「え?」


「理由は知らなくてもいい。

 黙って従え。

 そう言いたいが……下手に隠して調べられても困る。

 説明してやるからここだけの話にしろよ」


 グラッツのおじさんは本当に困った顔で説明してくれた。


「こいつは“もの”と呼ばれる魔物で、これまでに四体、確認されている。

 今回ので五体になるな。

 最初に確認されたのが二千年前、四体目は四百年前だ」


「へー」


「“混ぜ物”は生きている者を吸収し、その力を取り込んでいく。

 火の魔法を使う者を吸収すれば火の魔法を使い、鉄を砕くパワーを持つ者を吸収すれば鉄を砕く。

 十人吸収すれば十人分の力を持つ。

 つまり長く生きるほど強くなるやっかいな存在だ」


 確かにウォーベアやラヴァーズビーストを捕食していた。


「口外禁止なのは、この魔物に対抗する手段が魔王国にはないからだ」


「対抗する手段がない?」


「そうだ。

 どうしようもない。

 逃げるしかない」


「そんな」


「四百年前に確認された四体目は魔王国に現れた。

 その時、二十三の街と村を放棄し、広大な畑を失ったと聞いている」


「それで、どうなったの?」


「ドラゴンが燃やした」


「……」


「他の三体も似たような感じだ。

 つまり“混ぜ物”が現れても倒してくれるかどうかはドラゴン次第。

 そんなことを国民に知られるわけにいかない。

 これは人間の国も同じ。

 この魔物の存在に関しては人間の国とも情報を共有しつつ、広まらないように口外禁止処置がとられている。

 理解したか?」


「う、うん」


「まあ、これまではドラゴンとの関わりが薄かったからな。

 今ならお前たちの村に泣きつけば、倒してくれそうだが……」


「村長に頼めば大丈夫じゃないかな」


「そうであってほしい。

 が、そうであっても口外禁止だ。

 理解したな」


「わかった」


「それで、次の問題だ」


 そのドラゴン以外の対抗策がないと思われた“混ぜ物”をあっさりと倒したザブトンの子の存在。


「本当にザブトン殿の子なのか?」


「間違いないよ。

 今から……五年ぐらい前かな?

 旅立った子の一匹だよ。

 大きくなってたけど」


「“混ぜ物”を瞬殺する個体が王都のすぐ傍にいるという……これ、どうしよう?」


「いや、僕たちに言われても」


「そうだよな」


 グラッツのおじさんは、少し時間をくれと頭を抱えた。


 それを待っている間、僕たちは先ほどの本をみる。


 見たことがない魔物が色々と書かれている。


 勉強になる。


 学園にも置いてくれないかな?


「あ、これ」


 ブロンが指差したページには、“混ぜ物”を食べたザブトンの子の姿があった。


「種族フォレストガーディアン、個体名フォーオ?」


 呟いた僕たちの言葉に、グラッツのおじさんが反応した。


「これがお前たちの見たザブトン殿の子なのか?」


「うん。

 この模様、間違いないよ」


 書かれているサイズも大きく違っていない。


 しかし、このページに書かれていることはおかしい。


「ミアガルド地方って、このあたりのことだよね?

 千年前から住んでいるって書かれているけど……」


 さっきも言ったけど、五年前に旅立ったザブトンの子だ。


 千年前ってなんだ?


 僕たちは疑問を口に出せなかった。


 グラッツのおじさんが真剣な顔でブツブツと言っているからだ。


「どういうことだ?

 フォーオは今の王都ができた時から存在している北の守りだぞ。

 代替わりしているってことか?

 いや待て。

 それよりもフォレストガーディアンがザブトン殿の子ってことは、フォレストガーディアンはデーモンスパイダー系統?

 えええええええ?」


 グラッツのおじさんは五分ほど動きを止めたあと、棚上げにしたようだ。


「よし、軍は一部を警備に残して解散。

 協力してくれた冒険者たちには謝礼を払ってやれ」


 テントの外に出て、指示を飛ばす。


 そろそろ日が暮れそうだ。




「すまない、遅くなった」


 僕たちも撤収しようかと思っていると、グラッツのおじさんが部下を引き連れて戻ってきた。


 部下の中に中隊長さんもいる。


「今回の件、協力感謝する」


 グラッツのおじさんたちが真面目な顔で握手を求めてきたので、僕たちも真面目な顔をして握手に応える。


「君たちが森に入ったのは、学園教師の立場もあるだろうが、全て魔王国西部方面軍司令であるこのグラッツのめいでだ。

 それを忘れないでほしい」


「?」


 その通りだと思うけど?


 なにか別の意味があるのかな?


 僕たちが顔を見合わせたのでグラッツのおじさんが小声で教えてくれた。


「今回の件で、お前たちが怪我をしたり死んだりした時の責任は私にあったということだ。

 学園や魔王国は無関係……は身勝手が過ぎるが、許してほしい」


「あ、村長に怒られるのを心配しているの?」


「当然だ。

 村長に報告する際は、その辺りを考慮してほしい」


「わかったけど、それで普段と違って真面目だったの?」


「私はいつも真面目だ」


「普段は“俺”って言ってるくせに」


「仕事中は“私”なの。

 貴族だし」


 ちょっと笑った。



「改めて、協力に感謝する。

 事態の発端が学園の生徒にあるので、軍から謝礼は出せないが、私個人から出させてもらおう」


「気にしなくていいのに」


「いやいや、そちらこそ気にするな。

 謝礼は食料だ」


「……まさか、食べに来る気かな?」


「ははは。

 明日、持って行く。

 今晩は冒険者たちのほうに顔を出してやってくれ」


「冒険者たちのほう?」


「お前たちにおごりたいそうだ。

 王都の北側にある酒場で待っていると伝言がある」


「奢られるようなことをしてないけど。

 どちらかといえば、軍のほうが助けてない?」


「お前たちが攻撃オフェンスで、軍は防御ディフェンス

 見る者が見ればわかる。

 こういった誘いは受けておけ」


「わかったけど……酒場の場所なんて知らないよ」


「部下を案内につける」


 中隊長さんのようだ。


「よろしく。

 あ、酒場に行く前に学園長に報告させてね」


「当然だ。

 そこを忘れると、私が学園長に怒られる。

 しっかりと報告するように。

 あと、学園長も私と同じことを言うだろうが早い者勝ちだからな」


 誰の責任かってことね。


 大人って面倒だな。






 後日。


 僕たちは北の森の奥を探索。


 適度な場所に、大樹の村で作られたジャガイモを置いた。


 ザブトンの子がスタッと現れた。


 あの時、助けてくれたザブトンの子だ。


 僕たちの行動を見張っていたな。


 そして、そのザブトンの子の周囲に、拳大のサイズやそれより小さいサイズの蜘蛛がたくさん。


 全員が揃って僕たちに片足を上げ、挨拶。


 挨拶してくれるが、見覚えがない。


 あ、奥さんと子供ね。


 なるほど。


 元気にやっているようだ。





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― 新着の感想 ―
ジャガイモ置いたらすぐ来るぐらいならザブトンの子たちがいるのは 大樹の村の作物を買っているところかなあ
2025/08/11 21:31 いつもの景色
[一言] あの多数のザブトンの子の区別が付いてるのか しかも恐らく進化して姿変わっても分かるって 獣人の子すごいな
[良い点] ジャガイモの差し入れをちゃんとしている!ザブトンの子も独立して強いしさすが! [気になる点] ザブトンが世界最強なのかなー [一言] ザブトンが好きなので嬉しい話です(; ・`д・´)
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