トイレ
人間、食べる物を食べたら、出る物が出る。
その辺りですればいいのだろうが、寝床の木の周囲を耕してしまったので見通しが良くて困る。
それに、耕した場所でするのは何か違う気がするし、かといって耕していない場所でするのも将来を考えれば、そこを耕すかもしれないので困る。
糞尿は肥料になるかもしれないが、排泄直後の物は肥料にはならない。
醗酵させなければならない。
いや、【万能農具】のクワで耕せばなんでも肥料になりそうだが、自分の排泄物を耕すのはなんだか気が進まない。
なので、寝る場所、水、火、そして食料を手に入れた俺が次に求めたのはトイレだ。
トイレ……
とりあえず、寝床の木を中心に、井戸から正反対の場所を選ぶ。
匂いが出ると困るので、少し離れた場所に。
今後の事を考え、地面を二メートルぐらい斜めに掘る。
真っ直ぐ掘ると出られないことは学習済みだ。
奥を少し広く掘り、空間を確保。
数年はこれで大丈夫だろう。
多分。
貯めた汚物が染みて、地下水を汚染すると困るのでハンマーで床や壁を叩き、固める。
思った通り、コンクリートのように土が固まった。
これで大丈夫だろう。
次に地上部分。
まず、斜めに掘った穴を木板で塞ぐ。
木板は、確保した木材を【万能農具】のノコギリとノミで加工した物だ。
工務店で売ってる物との差は感じない。
木材は乾燥させずに加工すると後で割れたりするのだが、【万能農具】のノコギリやノミを使うと乾燥の必要がないようだ。
【万能農具】便利。
この塞いだ場所は、トイレの中の汚物を取り出すための出入り口。
次に、大体の目測で地下に作った空間の真ん中ぐらいの場所に、拳大の穴を真っ直ぐに掘る。
【万能農具】の形状は巨大なコルク抜きのような感じだ。
長さが俺の身長ぐらいだったので、地下の空間に届くか心配だったが、巨大なコルク抜きは回せば回すだけ地下に伸びていったので無事に到達できた。
井戸掘り、これでやれば良かったかな?
ともかく、できた穴を塞ぐように木板を並べ、床を作る。
そして床の一箇所に穴を開け、地面の穴とあわせた後、便座を用意する。
便座は程良いサイズの木を輪切りにして作った。
俺は和式派ではなく、洋式派だ。
しかも、小も座ってするタイプ。
ズレないように木板や便座を加工して固定した。
次に……壁。
柱になりそうな木を【万能農具】のハンマーで四方に打ちつけ囲んだ。
柱を打ちつける時に自分の身長の無さを感じたが、他の木材で足場を作ったので問題無し。
柱の高さは二メートルぐらい。
柱と柱の間隔も二メートルぐらいだから、二メートル四方の空間ができた気がする。
トイレにしては広すぎるか?
いや、狭いよりはいい。
フルオープンは困るが、多少は広くないと。
うんうん。
柱となる木に溝を彫り、その溝に嵌るように加工した木板を嵌めて壁を作っていく。
全面壁にしてしまい、慌てて一面の壁を排除して出入り口を確保。
出入り口に扉は作らず、少し離れた場所に衝立のように木を並べて打ち込み、目隠しをする。
うん、良い感じだ。
そして天井。
天井はまだ未完成。
開放感。
後回し。
とりあえず、井戸から大きめのコップ、バケツよりは小さいヤツに水を汲んで運び、作りたてのトイレに座る。
汲んできた水は手洗い用と、使用後に流す用だが……
不覚。
紙となる葉っぱを用意してなかった。
危なかった。
俺は森に駆け込み、尻が拭ける感じの葉っぱを探した。
丁度良い葉っぱは無かったが、良い感じの草を見つけたのでそれを利用することにする。
カブれなければいいが……
実験をする余裕が無い程度には、俺の便意は近かった。
……
カブれなかった。
一安心。
その後、天井の作成に掛かった。
屋根を斜めに作るとかの技術は無いので、普通に平たく置く。
二メートルの高さだと、意外と窮屈。
考えてみれば、二メートルだと襖を少し高くしたぐらいの大きさだ。
次に建物を作る時は、もう少し高さを考えよう。
天井をシッカリと覆ってしまうと暗くて困ったので、壁の上の方に小さな明かり取り窓を無数に作った。
夜の時の明かり用に、木を火鉢のように加工して穴の部分に灰を敷く。
火鉢が木なので、燃え移らないか心配だが……後々の改善点にしておこう。
後は手洗いと便器洗浄のためにタンクっぽい物を用意したいが……木組みで水を貯めるタンクを作れる技術などなく、大きめの木を削って用意した。
【万能農具】のお陰で、作っている時よりもタンクっぽい物に水を貯めるために往復した時の方が疲れた。
文明が無いって大変だ。
ともかく、トイレが完成した。
満足。