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専用の池作りとマルビット


 天使族の里から戻ってきたキアービットが、コタツに潜り込んで拗ねていた。


「どうしたんだ?」


「それが、天使族の里で聞いた極秘案件を、私たちがすでに知っていたのが気に入らないようで」


 グランマリアがミカンを食べながら教えてくれた。


 なるほど。


「じゃあ、その隣のは?」


 俺の視線の先、キアービットの横には見慣れない天使族。


「キアービットの母親でマルビット。

 天使族の長です」


 へー。


 若いな。


「キーちゃん、キーちゃん、竜王って名乗ってるお爺ちゃんがいるんだけど」


「本物ですよ」


「じゃあ、コーリン教の宗主にそっくりな人も?」


「本物です」


「猫と遊びながら魔王って言ってた人も?」


「本物です」


「このコタツの上でまるまっている神々しいのは……」


「フェニックスの雛のアイギスです。

 ハーピー族の人気者ですよ」


「さっきから私の後ろで見張っているインフェルノウルフに似た犬は?」


「残念ながらインフェルノウルフです。

 ええと……彼はクロヨンですね。

 チェス、強いですよ」


「チェスって……このゲーム?

 インフェルノウルフがするの?」


「するんです。

 あ、ここでコマを持つとクロヨンが期待するから……手遅れですね。

 対戦モードになっています。

 もう逃げられません」


「え? え? え?」


「頑張ってください。

 ルールはこの板に書いてます。

 ちなみに、私は一回も勝ててません」


「頑張るけど……

 キーちゃん、この村ってどうなっているの?」


「どうなっているんでしょうねー。

 あと、探せば吸血姫や門番竜もいると思いますが、深く考えないほうが精神には優しいですよ。

 あ、ミカン取ってください」


 キアービットの母親は、クロヨンと対戦するようだ。


 初心者のようだけど、大丈夫かな?


 気になるけど、俺は自分の仕事がある。


 今は軽く挨拶だけして、あとでちゃんとしよう。


 ……


 極秘案件ってなんだろ?


 聞いても大丈夫なのかな?





 俺の仕事の内容は、万能船の保管場所作り。


 万能船は船の形状をしているので、停泊中は浮かべるための水場が必要とされた。


 今は村のため池に浮かべている。


 そのまま、ため池に浮かべておけば良いじゃないかという意見もあったけど、専用の池を作ることになった。


 どうせなら船底を掃除するために、水を抜ける池のほうが便利ですと、山エルフたちが主張したからだ。


 なるほどと、俺も賛同した。


 そして、俺が【万能農具】で耕して地面を柔らかくし、万能船が側壁を腕に変形させて土を移動する。


 船が自分で自分の居場所を作るシュールな光景だが、慣れた。


 場所は村の南側。


 大樹のダンジョンの入り口の西側に作っている。


 万能船は全長二十メートル、船幅は八メートルのよくある帆船の姿。


 専用池のサイズは船より前後左右に五メートルぐらい大きい程度。


 深さは、思い切って十メートル。


 池底に、船を置くための台を設置。


 この台が上下に動く仕掛けを山エルフたちと作った。


「落下防止のために、池の周囲に柵が要りますね」


 そうだな。


 十メートルは深い穴だ。


 水が入っていても、危ないだろう。


 ここは子供たちが間違って入らないように、丸太を横にした柵ではなく、ちゃんとした塀を作ろう。


「そうなると、船に乗り込むための仕掛けも欲しいですね」


 仕掛けである必要はないだろうけど、荷物の積み下ろしが楽になるのはありがたい。


 この万能船は四村よんのむらこと、太陽城との間の行き来に使うことが決定している。


 これで、ドラゴン族に頼らずに荷物の大量輸送が可能になる。


 乗組員は、色々と相談したけど四村の悪魔族や夢魔族の希望者が担当することになった。


 マーキュリー種の一人が船長となる予定。


 彼らは現在、四村で船を使わずに練習中。


 万能船はある程度のオート機能があり、簡単に動かせるそうだが、いざという時のことを考えてだ。


 ザブトンが起きたら、船長服や船員服を頼もう。



 ふう。


 寒い。


 まだ冬だもんな。


【万能農具】を使っている俺は大丈夫。


 でも、他の者たちは寒いだろう。


 適度に休憩して火にあたって……休憩していないな。


 全力で作業している。


 そして、良い笑顔だ。


 良い笑顔だけど、身体が心配だ。


 温かいスープでも作ろうかな。






 夕食時。


 キアービットの母親と、ちゃんと挨拶をする。


「ヒラクです」


「先ほどはこの村の長とは知らず、無礼な態度をお許しください」


 無礼な態度?


 なにかされたかな?


 キアービットが補足してくれた。


「チェスに夢中になって、村長からの挨拶を片手間でやったことです」


「なんだ、そんなことか。

 気にしなくていいのに」


「私もそう言ったのですけど」


「いえ、この無礼。

 必ずや娘のキアービットに償わせますので」


「へ?

 お母さま?」


「キーちゃん、キーちゃん。

 この人を目の前にして息子さん狙いってお母さん、悲しいわ」


「いや、お母さまも挨拶を片手間にしたじゃないですか」


「ちゃんと見てなかったもの」


「それを言いわけにされても……」


「なんにせよ。

 見ればわかるいい男。

 長じゃなかったら私がアタックして……キーちゃんに長を譲って、私が彼の……」


「お母さま、お母さま。

 お父さまのことをお忘れに?」


「死に別れたの三百年前なんだけど?

 そろそろ新しい恋に生きてもいいと思わない?」


「そういったデリケートな話にどうこう言う気はありませんが、娘の前ではやめてください」


「あらそう。

 じゃあ、キーちゃんが頑張ってね」


「え?」


「と、いうことで村長さん。

 キーちゃんのこと、よろしくお願いしますね。

 キーちゃん、大丈夫。

 押せば落ちるから。

 自分の顔とスタイルに自信を持ちなさい」


「いや、別に自信がないわけじゃないのですけど……すでに村長には多数の奥さんがいるのですよ」


「ティアもその一人なのよね?

 さすがね。

 その行動力。

 見習わせたいわ。

 あー、グランマリアにクーデル、コローネも。

 なるほどなるほど。

 キーちゃんじゃ勝てないわけだ」


「か、勝てないわけじゃないです!

 ただ、私は天使族の伝統にのっとった男女二人での幸せな家庭を……」


「父親がこれなんだから、息子さんも似たような感じになる可能性が大よね」


「……」


「キーちゃんの希望通りになるのって、何千年後の話かな?」


「うぐぐっ」


 えーっと。


 俺の目の前で、娘を差し出そうとするのは止めてもらいたい。


 あと、押せば落ちるって、俺の意思は鋼のように硬いぞ。


 実績はないけど。



「ところでマルビットさん」


「マルビットと呼び捨てでかまいません。

 言葉も飾る必要はありませんよ」


「そうか。

 じゃあ、マルビット。

 キアービットと一緒に来たのは何か目的があるのか?

 観光?」


「いえ。

 実は里にいるティアの母親は仕事熱心でして。

 私情よりも仕事を優先するタイプなのです」


「?

 そのティアの母親から、逃げてきたのか?」


「それもありますが……

 私がここにいれば、彼女もここに追ってこられますから」


「……あ、ティアやティゼル、オーロラと引き合わせるために?」


「はい。

 ですので、あと数日の滞在の許可をいただければ」


「そういう理由なら歓迎するよ。

 数日と言わず……」


 いつまでもと言いかけてとめる。


 キアービットが思いっきり腕で×印を作っているからだ。


「数日と言わず……春までなら、滞在してもらってかまわないぞ」


「ありがとうございます。

 ところでこのお酒なのですが、美味しいですね。

 キーちゃんのお土産にいただいたものとは違った深みを感じます」


「五年前に仕込んだものだ。

 俺はまだまだ若いと感じるのだが……」


「五年も飲まずに我慢するのは大変でしたでしょう。

 販売価格は?」


「一本なら土産にどうぞ。

 数が必要であるなら……詳しくは担当者から。

 割引するように言っておこう」


「よろしくお願いします」


 俺はマルビットとの夕食を楽しんだ。






 翌日。


 ティアの母親であるルィンシァが大樹の村に到着した。


 思ったより早かった。






 船を置くための台=盤木(船のドックにあるU字型の枕木みたいな物)です。


 すみません、勇者の話までもっていけなかった。

 次は勇者の話に。

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― 新着の感想 ―
水に浮かべておくと保守整備とか楽な部分がありそう
そもそも空飛ぶ船なんだから水に浮かべる必要はないよね?
つまり、簡易的なドックを作った感じかな。
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