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ヒイチロウの失敗と俺の失敗


 ドラゴン姿のヒイチロウが、子猫たちに怒られている。


 珍しい光景だ。


 だが、仕方がない。


 ヒイチロウが、屋敷の中でドラゴンの姿になり、建物の一部を壊してしまったのだ。


 屋敷はそれなりに大きく作られているが、場所が悪かった。


 空き部屋の一室で、そこは子猫たちがよく昼寝に使っていた。


 寒い冬の間はあまり使っていないが、お気に入りはお気に入り。


 子猫たちはヒイチロウにニャーニャーと文句を言っている。


 ドラゴン姿にも怯まないのはさすがだ。


 でも、そろそろ許してやってくれ。


 壊れた部屋のかわりに、新しい箱を作ってやるから。


 ああ、程よい狭さで中に毛布を敷き詰めてやろう。


 もちろん、一匹に一箱だ。


 これで機嫌を直してくれるか?


 よかった。


 ヒイチロウもそろそろ人の姿に戻ろうか?


 修理できないから。


 よしよし。


 んー……ヒイチロウが人間の姿に戻ると、寒い。


 壁に穴が空いているな。


 子猫たちは、すでにいない。


 急いで修理しよう。


 ヒイチロウは……ハクレンが迎えに来たから任せる。


 そういえば、どうしてヒイチロウは急にドラゴンの姿になったんだ?


 ヒイチロウは返事の代わりに大きなクシャミをした。


 そして現れるドラゴン。


 うん、わかった。


 でもって、今回は屋敷の真ん中でよかった。


 建物に被害はない。


「ハクレンは大丈夫か?」


「あら?

 心配してくれるの?」


 ハクレンはドラゴン姿になったヒイチロウを抱きかかえていた。


「もちろん心配するさ。

 無事でよかった。

 それで、ヒイチロウのこの症状は?」


 まだ不安定なだけで、成長すれば問題なしということだ。


 なるほど。


 問題はクシャミをしていることだな。


 風邪かな?


 それともなにかのアレルギー……原因判明。


 この汚れたシーツだ。


 これはなんだ?


 ヒイチロウが大事にしているシーツと。


 なるほど。


 大事にするのはかまわないが、洗濯ぐらいは……洗濯は嫌がると。


 シーツのこの角の部分がお気に入りで、洗濯すると感触が変わるから……なるほど。


 ライメイレンとアンがシーツを取り上げて洗濯しようとするから、ヒイチロウはそのシーツを隠しにこの空き部屋にきたと。


 そうか。


 まあ、大事にしたい気持ちはわかるが、クシャミがでるほど汚れているのは問題だ。


 洗濯。


 ヒイチロウの絶望した表情に、心が痛む。


 ハクレン、あとは任せた。


 ちなみに、鬼人族メイドはヒイチロウの行動を把握しており、あとで隠されたシーツを回収して洗濯するつもりだったらしい。


 そっちのほうが恨まれなくてよかったか。


 ん?


 ウルザがヒイチロウをあやしている。


 おお、仲のいい姉弟のようだ。


 そして、ウルザに相手してもらっているヒイチロウを羨ましそうにみているアルフレート。


 うーん。


 子供は知らぬ間に成長しているようだ。




 部屋の修理はハイエルフたちが総掛かりでおこなったので、半日で終了した。


 うん、ご苦労様。


 俺も頑張ったぞ。


 ハイエルフたちのための昼食、夕食作り。



 夕食後。


 俺は工房に篭って子猫たちのための箱を作る。


 箱作り自体はそう難しくない。


 難しいのはサイズ。


 少し小さいんじゃないかな? ぐらいの広さの箱を好む子猫と、広々とした箱を好む子猫にわかれる。


 意見を聞きながら作るのが一番だが、子猫たちが付き合ってくれるわけもなく。


 大量の箱を作り、子猫たちが気に入ったのを確保するようにしたい。


 まあ、猫は気まぐれだから決まるのは数日後だろうな。


 それまで箱は放置。


 ライギエル、ジュエルも気に入ったのがあったら入っても構わないぞ。


 ライギエルは広い箱がいいか。


 ジュエルは……ライギエルと一緒の箱ね。


 仲の良いことで。


 ルーの不在を少し寂しく思う。



 思っていたら、ルー帰宅。


 俺が喜ぶ間もなく、暇なハイエルフ、山エルフたちを引き連れて再出発した。


 大きな建物でも作るのかな?


 でもって、少し寂しい。


 近くにいたクロをギュッと抱き締める。






 翌日の昼。


 ヨウコを含めた文官娘衆たちと大樹の村、五村ごのむらで溜まっている現金をどうするかの問題について、話し合う。


 文官娘たちは、まずはヨウコのテーブルに商品を並べる。


 まき木炭もくたん、ガラス瓶。


 現在、大樹の村が五村を通して大量購入しているものだ。


 必要分と予備分を大樹の村に運び込み、残りは五村に預けているが、現金と同じくこれらも溢れそうだとの話。



 そして、文官娘たちは俺の前のテーブルに商品を並べる。


 胡椒こしょう味噌みそ醤油しょうゆ、油、布、酒、ハチミツ、薬、肉、小麦、ニンニク、リンゴ、ミカン、お茶、ハクサイ、ダイコン、イチゴ、木工工芸品、鉄製工芸品、鉄製武具、木材、干し柿。


 大樹の村や一村いちのむら二村にのむら三村さんのむら四村よんのむらが外部に売っている物だ。


 布はザブトンたちが作った布。


 薬はルーやティア、フローラの研究成果で、外部に出しても構わないとされたもの。


 肉は、森で狩った兎や猪の肉。


 木工工芸品は、俺の手作り小物。


 コップとかお皿とか、フォークとか。


 鉄製工芸品、鉄製武具はガットが弟子たちと作っているもの。


 木材は……【万能農具】で切っただけの森の木だな。


「取引額の大きい順に並べました。

 胡椒、味噌、醤油が儲け頭です」


 なるほど。


 マヨネーズがないのはなぜかと思っていたけど、五村で作るようにしているから除外なのか。


 しかし、干し柿ってそんなに多く取引していたかな?


 大半をラスティが食べるから、外部にはほとんど売っていない気がするが?


「儲けの大きい順に品を持ってきて並べましたが、干し柿は取引額最下位として持ってきました」


 そういうことね。


 了解。


「これらを並べたのは村長に現状を認識してもらうためです」


 わかりやすいが、ある程度は認識しているつもりなのだが……


「現在、外部から購入している薪、木炭、ガラス瓶の代金は、干し柿の販売額で支払えます」


 ……え?


「つまり、他の取引はすべて儲けになります」


 …………え?


「五村に資金投入していますが、それもダイコンの販売額ぐらいです」


 そうなの?


「儲けるのは問題ありません。

 問題なのは、現金が一箇所に集まって動かないことです」


 前にマイケルさんに言われた。


 ヨウコも頷いている。


 保管の問題ではなく、経済の問題。


「お金を使ってください」


「わ、わかっている」


 とりあえず、薪や木炭、ガラス瓶の購入額を増やしてだな……


「残念ですが、薪や木炭、ガラス瓶の購入は頭打ちです」


「え?」


「薪や木炭、ガラス瓶は、組合の取り決めで一年間に作れる量が決まっています。

 これは各職人の保護もありますが、材料の枯渇による被害を防ぐためでもあります」


 特に薪と木炭は、軍事物資にもなるので無理は言えないとのこと。


 そうなのか。


 じゃあ、当面は村の作物を外部に売らないとか……


「魔王国を混乱に陥れる気ですか?」


 え?


 思いっきり、怒られた。


 ヨウコからも、それは酷いと言われた。


 ごめんなさい。


 えーっと、しっかり考えるから。



 現状認識の甘さを確認した俺だった。





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― 新着の感想 ―
村長の経済観念云々より、『あれ欲しいな』って品がそもそも無い魔王国側の市場が問題なのでは。 そもそも自給自足してた人がわざわざ『こんなの欲しいんだけどお取り寄せ出来る?』とか考えるわけない。欲しけりゃ…
>地球で社会人していた割に、経済に対して無知過ぎるのでは? 若い頃から体を壊して何年も入院してた筈、だから無知なのはしょうが無い部分がある(社会人やってたと言っても数年程度で体を壊して殆ど入院してた…
炭水化物が依存性が有るという学説が… 竹倉史人(人類学者) 神秘の土偶の謎に迫る!【竹倉史人(人類学者)✖北野誠】
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