獣人族の男の子たちの学園生活 夏 ロビア
私の名はロビア。
ガルガルド貴族学園の生徒です。
自慢ではありませんが、攻撃魔法に関しては学園で一番と自負しています。
学生で一番ではありません。
学園で一番です。
つまり、教師よりも上。
いえいえ、本当に自慢ではないのですよ。
世の中には、上には上がいることを知っています。
世界は広いですからね。
例えば私の兄。
攻撃魔法こそ私のほうが優れていますが、それ以外の魔法では足元にも及びません。
その兄がこの学園で教師をしていたから、私も入学したのに……なぜか急に別の学園に移ってしまいました。
残念です。
たしか、イフルス学園でしたか?
最近できたばかりの学園ですから、兄は招聘されたのかもしれません。
そう考えれば、少し誇らしいです。
話が逸れましたが、私よりも優秀な人はいるということです。
そう思っている私の耳に、友人の言葉が入ってきました。
「噂の彼の者、ロビアの地位を脅かすやもしれぬぞ」
訳)今話題の獣人族三兄弟、魔法も得意なんだって。ロビアとどっちが上かしらね? 興味あるわ。
……
私も、少し興味があります。
ですが、勝負を仕掛けたりはしません。
どちらが上でもいいじゃないですか。
私の夫になりたいとか言うなら別ですけどね。
私の目の前で、獣人族三兄弟の一人が戦っていました。
そして瞬く間に勝利。
相手はアイリーン。
……
あのアイリーンが負けた?
アイリーンは私が学園で認める数少ない魔法の使い手です。
攻撃魔法だけなら私のほうが上ですが、攻撃魔法と剣術の組み合わせではアイリーンに及びません。
そのアイリーンが、ほとんど何もできずに負けてしまいました。
そんな馬鹿な。
……あ、何か仕掛けをしたのですね。
でも、勝負を仕掛けたのはアイリーンからのようでしたから……
その場で受けた彼に仕掛けをする余裕なんてないはず。
つまり、事前に準備していた?
なんのために?
決まっています。
アイリーンは、前々から公言していました。
私の夫になりたかったら、勝負に勝て。
話はそれからだと。
……
あの獣人族の一人……見た感じ、少年ですね。
魔族は見た目で年齢は計れませんが、動きを見ればわかります。
私の弟よりも若いのは確実です。
なのに、やるではないですか。
そこまで準備してアイリーンを求めるとは。
……
ちょっとモヤっとします。
たしかにアイリーンは美人です。
私よりも胸も大きいですし。
ですが、この学園で妻にと求めるなら私にもアプローチがあってしかるべきではないでしょうか?
ひょっとして私の実力を知って、逃げたとか?
ありえる話ですが、あの若さで上を望まないのは残念ですね。
ここは一つ、学園の先輩として少し教育してあげましょう。
「そこな少年。
杖を構えよ」
あの少年は運命の人でした。
まさか、こんな出会い方をするとは。
動揺して即座に求婚できなかったのは不覚です。
おかげで、アイリーンの妨害にあっています。
許しません。
彼は私の夫です。
まだ夫じゃない?
細かいことを気にしないように。
確定している未来です。
その私の夫は、コネギットと仲良く話をしていました。
コネギットは大商人の娘で平民ではありますが、この貴族学園に入学を許された者。
彼女の経済に関する知識は、学園で一番と言われています。
四天王の財務担当であるホウ=レグ様にもその実力は認められており、卒業後はその部下になるのではないかとも。
実際、まだ在学中にもかかわらず、ほとんど毎日のように王城に足を運んで仕事を手伝っているそうです。
その彼女が、珍しく学園に来ていて、私の夫に馴れ馴れしくしています。
まったく、どこで夫の噂を嗅ぎ付けたのか。
まあ、私は慌てません。
夫は彼女ごときの誘惑に揺れ動いたりはしないのです。
ん?
なにやら差し出していますね。
お弁当?
なるほど、手作りのお弁当ですか。
あざとい。
ですが、残念でしたね。
夫の作る食事の美味しさを知らないのですか?
中途半端な料理は逆効果……喜んで食べている!
馬鹿な!
彼女の料理の腕は、それほどというのですか?
あ、まさか!
あのお弁当に入っているお肉は……やはり、キラーラビットの肉!
夫の数少ない情報のなかで、珍しく確定している好物!
ぐぬぬっ。
やりますね。
最近、なぜか流通量が増えているようですが、まだまだ高級なキラーラビットの肉を手に入れてくるとは。
私も手に入れようと、努力しているのに。
ところで、先ほどから私の横にいるアイリーンさん。
私に言うことがありますよね?
いえ、私の部下と貴女の部下がぶつかった件ではなく……お風呂を借りに行った時の件でもありません。
ええ、そっちです。
まずはライバルの数を減らしましょう。
私たちの決着はそのあとで。
彼が私の夫になるのは確定した未来ですが、それまでの道のりが平坦であるとは思いません。
道のりが険しければ、険しいほど愛は燃え上がるのです。
「え?
あの三人って、兄弟じゃないんですか?」
いけませんね。
彼以外にももう少し興味を持たなければ。
一つ前のアイリーンのタイトルを変更しました。