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空き部屋


 普段の掃除は鬼人族メイドたちがやってくれているし、春になれば大掃除をしている。


 屋敷に汚れはない。


 しかし、物が多い。


 空き部屋がいくつか倉庫になっている現状をなんとかしなければと思う。


 そう、生まれて来る子供たちのために!



 まず、一部屋目!


 衣装部屋。


 うん、部屋中が衣装だ。


 主に俺の。


 ザブトン、頑張ったなぁ。


 大半を着ていないと考えると、申し訳ない。


 しかし、それは俺の好みに合うかどうかの問題もあってだな。


 あまりにきらびやかな格好は、農作業に向かないだろう?


 これなんか、王様みたいじゃないか。


 土をつけて汚すなんてもったいない。


 おっと、いけない。


 このままでは、片付けられない。


 ここは心を鬼にして、着ない服を処分。


 部屋を片付ける。


 そう決意して服を手にする俺の周囲に、ザブトンの子供たちが集まってくる。


 そして、置いておこうよー、片付ける必要ないよーと訴えてくる。


 うーん。


 ザブトンの子供たちのつぶらな瞳。


 ……


 わかった。


 置いておこう。


 俺も鬼ではない。


 せっかくザブトンが作ってくれた服だしな。


 ここはこのまま。


 ただ、後日に新しい衣装部屋を用意する。


 衣装部屋が出来たら、そっちに移動だぞ。


 俺の決断に、ザブトンの子供たちが喜ぶ。


 よしよし。




 では、次の部屋に移動。


 ……


 先ほどと似た衣装だらけの部屋だった。


 ザブトンの子供たちが、ここも見逃して欲しいと甘えてくる。


 新しい衣装部屋は、大きくしなければいけないようだ。


 いっそ、専用の家を建てたほうがいいかな?




 次の部屋。


 ……箱がたくさんあるな。


 これはなんだ?


 俺の疑問に、鬼人族メイドがすっと現れて説明してくれた。


「全て、ルーさまの収集した魔道具です」


「収集?

 いつの間に?」


「以前から少量ずつ。

 転移門が五村ごのむらと繋がってから……加速しました。

 購入費用等は、すべてルーさまの資産からですので、ご安心を」


「いや、そこは心配していないが……これ、全部か?」


「はい。

 一つずつ説明しましょうか?」


「いや、いい。

 えっと、これは動かして大丈夫なのか?」


「それがですね。

 乱雑に置かれているようで、ルーさまには使いやすい配置らしく」


「勝手に触ると怒るかな?」


「怒るかと」


 ……


 出産間近の妻を怒らせる行為はやめよう。


 この部屋は、このままで。




 次の部屋。


 扉を開けた瞬間、何かの仕掛けが作動した。


 パタパタと物が倒れ、ボールが転がり、紐が巻き取られ……


 最終的に、俺の前に垂れ幕が落ちてきた。


“ようこそ”


 ……


 鬼人族メイドが説明したそうにしていたが、俺は遠慮した。


 この部屋は徹底して片付けよう。


 隠れている山エルフ数人、手伝うように。


 うん、仕掛けは見事だったから。




 次の部屋。


 ここも荷物だらけだな。


 これは……俺の昔の荷物か。


 引っ越しだ増築だで俺の荷物が移動することが多かったが、ここにあったか。


 昔作ったコップや皿、鍋の蓋などもある。


 ルーと出会う前の荷物だな。


 懐かしい。


 ボロボロになったフライングディスク、ボール。


 クロたちとよく遊んだな。


 失くしたと思っていたのに。


 ん?


 この箱はなんだ?


 うおっ、干し肉。


 カラッカラになっている。


 これはいかん。


 処分。


 でもって、こっちの袋には……小麦か。


 腐った様子はない。


 粉にしていないのがよかったのかな?


 ……


 いやいや、危険なことはしない。


 これも処分だ。


 次は樽が三つ。


 これは覚えている。


 ドノバンたちが来て酒造りを始めたころに、熟成させようと思って取っておいた酒だ。


 これは嬉しい発見。


 ふふふ。


 どうなっているかな。


 ……


 予想より樽が軽い?


 から


 なるほど、なるほど。


 犯人は酒スライムかな?


 よし、素直に出てきたな。


 偉いぞ。


 忘れていた俺がいうのもなんだが、三樽は飲みすぎじゃないかな?


 なに?


 飲んだのは一樽だけ?


 残りはちゃんと置いてある?


 ……


 本当だ。


 からなのは一樽だけで、二樽は酒が入っている。


 おおっ。


 嬉しいが、残っているのが当然だからな。


 偉そうにしないように。


 わかったわかった。


 そう甘えなくても、あとでちゃんと飲ませてやるから。


 ああ、夜にな。


 夕食後に楽しもう。


 喜んで出て行く酒スライムを見送り、部屋の片付けを続ける。


 ん?


 この箱はなんだ?


 中に布が敷かれて……干し肉?


 ここにも昔の干し肉か?


 いや、新しいな。


 乾いているけど魚もある。


 なんだこれ?


 俺が首を捻っていると、にゃーにゃーと怒る猫の声。


 ミエルか。


 ……


 ひょっとして、この箱はお前の隠れ家かな?


 でもって、これはお前が隠している食料か?


 そうかそうか。


 悪いが、移動だ。


 部屋を空けないといけないからな。


 あと、食料は処分。


 怒るな怒るな。


 新しいのをやるから。


 ああ、嘘じゃないぞ。


 でだ。


 お前がここに隠れ家を作っていたってことは、他の姉猫たちの隠れ家もあるよな?


 どこだ?


 この部屋か?


 それとも他の部屋か?


 ははは。


 目を逸らしても駄目だぞ。




 次の部屋。


 大きな樽がところ狭しと並べられていた。


 ……


 これは?


 いや、匂いでわかる。


 漬物を作っているな?


 匂いが部屋の外に漏れないのは、何か魔法を使っているのかな?


 鬼人族メイドが、説明してくれた。


「色々と試した結果、この場所で作った漬物が一番、美味しいのです」


「誰が作っているんだ?」


「フローラさまと、メイド長です」


 ……


 食事は大事。


 以後、この部屋は漬物部屋ということに。


 いや、別にフローラやアンが怖いわけじゃないぞ。




 次の部屋。


 ………


 空き部屋だよな?


 完全に、誰かが住んでいる部屋になっていないか?


 鬼人族メイドが説明してくれた。


 土人形のアースの部屋?


 ウルザの部屋にアースの私物を置けないから?


 ああ、なるほど。


 アースが魔粘土を使って大人の身体を手に入れたことで、衣服などが必要になった。


 それの保管場所ついでに、彼の部屋としたのか。


 それだったら、もっとウルザの部屋の近くにすればよかったのに?


「気の休まる場所が欲しいとの意見でしたので」


 なるほど。


 この部屋は、使用中ということで。




 次の部屋。


 ……


 ここも空き部屋じゃなかったっけ?


 完全に使用中なんだが?


 小さな植木鉢が各所に置かれ、緑の多い部屋だ。


 誰が使っているかすぐに理解した。


 というか、持ち込まれたベッドでだらしなく寝ている妖精女王がいる。


 女性が寝ている部屋に入るわけにはいかない。


 撤収。


 俺は鬼人族メイドに説明を求めた。


「冬場ぐらいから、ここに住まれていますけど」


 ……


 この部屋は使用中ということで。




 次の部屋。


 もう何があっても驚かないぞ。


 ……


 部屋の扉を開けようとしたら、鬼人族メイドに止められた。


「この部屋は駄目です」


「なぜ?」


「その、あれです」


「あれ?」


「ライメイレンさまがヒイチロウさまのために用意した道具の数々といいますか……」


「あ、うん、わかった。

 この部屋はやめよう」


 次の部屋にむかおう。





 その日は、盛大な食事会になった。


 倉庫になっていた空き部屋を片付けていたら出てきた食料を消費するためだ。


 俺は食べることに不安があって反対だったが、食べても大丈夫か見分ける魔法があるらしい。


 魔法、万能だな。


 助かるけど。


「しかし、収穫物はちゃんと管理していると思っていたのだが……」


 俺は驚いているが、鬼人族メイドたちは驚いていなかった。


「万が一を考え、食料を備蓄しているのかと思っていましたので」


 備蓄するなら、ちゃんとした場所に備蓄するよ。


 食後の予定だったが、酒スライムが待っているので酒樽を解放。


 全部飲むなよ。


 ドワーフたちに一樽は持っていく……ああ、ドワーフも来てるな。


 酒スライムの様子で気付いたのかな?


 まあ、熟成した酒の味を楽しんでほしい。


 ただ、俺の分を残しておいてくれよ。



 俺は食事会には参加していない。


 厨房で食事を作っている。


 完全な裏方。


 これは俺への罰。


 自分で決めてやっている。


 空き部屋を片付けている間に、ルーが出産していた。


 もう少し掛かるって言ってたのに。


 いや、片付けに夢中になって、傍にいなかったことを反省したい。


 ルーは俺が傍にいてもどうしようもないから気にするなと笑ってくれているが、今後の為にもいましめておきたい。



 いま作っているのは倉庫から出てきた食料ではなく、新しい食料で作った料理。


 出産後で疲れているルーのための料理。


「これをルーに持っていってくれ」


 鬼人族メイドに頼む。


 だが、断られた。


「村長。

 これはご自身で持っていかれたほうがいいですよ」


「いや、しかしだな」


「ここは私たちに任せてください。

 ルーさまも待っていますよ」


 ……


 そうだな。


 ルーの部屋に行こう。


 そして、生まれた娘の名前を相談しよう。


 うん、そうしよう。





時間の経過が……恐ろしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の屋敷なのに、妖精女王がおよそ半年前から住み着いていた事に全く気付かなかった主人の話www 村長「どおりで、甘味を作った時に現れる頻度が高い訳だ」 ルー&ティア&フローラ「屋敷の中で…
[気になる点] 主人公、偶に優秀で殆どのときポンコツですね。 過ぎるとうざくなります。 成長しろよ、と
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