夏のある日
まず、地面に兎の肉をセット。
そこから十メートルぐらい離れ、俺の腕にフェニックスの雛のアイギスを乗せる。
そして、俺の掛け声。
アイギスはひと羽ばたきして俺の腕から離れたら、地面に華麗に着地。
そのまま兎の肉に向かってダッシュ。
兎の肉と格闘し、食べる。
満腹になって満足、そのまま寝そうになるが思い出したように俺の元に戻ってくる。
そして、キメ顔。
うん、決まっているが、せめて俺の腕にまで戻ってほしかった。
アイギスで鷹匠ごっこは無理のようだ。
そして、アイギスに対抗するだろうと思っていたクロは……屋敷の中で仰向けになって寝ている。
気を抜き過ぎじゃないかな?
ハクレンがヒイチロウの相手をしていた。
母と子なのだから普通だが、久しぶりに見た気がする。
「ライメイレンは?」
「エルフの島を攻撃した件で、お父さまに怒られたから自粛中」
「怒られて自粛することがあるんだ?」
「冷静な時ならね。
あの時は私も近寄れなかったけど」
確かに怖かったけど、気持ちは理解できる。
俺だって、子供たちのために用意した物を目の前で壊されたら怒る。
まあ、あそこまでやるとは思わなかったけど。
ヒイチロウは、あれ以降も帆船への興味が尽きない。
ため池に浮かべる新しい帆船が欲しいと言ってくるぐらい。
その帆船は、俺と山エルフたちで作っている最中。
帆船と言っても、一人乗りの子供用の帆船だ。
二本の紐で帆を操作できるように改造している。
あとはひっくり返っても元に戻るように重りも調整。
帆は、ライメイレン提供のドラゴンの絵が描かれた高級感溢れる布が用意されている。
完成は明日か明後日かな?
ただ、一人乗りなので水深があるため池ではなく、プールで遊んでもらいたい。
え?
ヒイチロウにだけ甘い?
そんなことはない。
子供たちにあれが欲しいとか、これをして欲しいとか言われたら、期待に応えられるように頑張っている。
ただ、最近。
あまり言われなくなった。
いや、言うことは言う。
俺にではなく、母親や鬼人族メイドたちに。
今作っている帆船にしても、ヒイチロウは俺にではなくハクレンにお願いしていた。
……
昔は、普通に俺に言ってたよな。
遠慮しているのだろうか?
それとも大人になったということか?
まさかと思うが……俺、子供たちに怖がられてる?
俺はちらりとヒイチロウをみる。
ヒイチロウは俺の視線に気付き、ハクレンの背に隠れた。
て、照れているのかな?
そうだよな。
そうであって欲しい。
それとは関係ないが、今から甘い物を作ろう。
子供たちに媚びたわけではないぞ。
俺が食べたくなっただけだ。
甘い物を作っていると、ウルザとグラルが突撃してきた。
お前たちは遠慮がないな。
いや、かまわない。
そのままでいてくれ。
安心する。
でもって妖精女王。
こっそりはよくない。
ちゃんと言えば渡すんだから。
手を洗ってくるように。
夜。
俺は屋敷の工房で、野球のバットを量産する。
木材を【万能農具】で削るだけだが、ちゃんとバットになっている。
野球のルールはそれなりに熟知しているし、村のみんなで楽しめるかなと思った。
しかし、駄目だった。
まず、ピッチャーの投げる球が危険。
次に、バッターの打った球が危険。
ホームランか三振かデッドボールかの大味プレイ。
野球のルールは、普通の人のためにあるのだと痛感した。
そして、大樹の村では野球は流行らなかった。
仕方がないと思う。
せっかく道具を一揃え作ったのに無駄になったとガッカリしたが、それを引き取ってくれたのが魔王とビーゼル。
魔王国でなら流行るかもしれないと、道具一式を引き受けてくれた。
その後、数ヶ月でいくつかのチームを立ち上げ、魔王国ではゆるやかに流行りつつあるらしい。
羨ましい。
そして必要とされる野球道具。
大樹の村じゃなくても作れるのだが、なんでも大樹の村製のバットはよく飛ぶと評判らしい。
求められれば作るが、それだけに専念できないので数を納められないことは納得してもらっている。
そういえば、王都の学園に行った獣人族の男の子たちも、野球チームを作ったそうだ。
村でやった時よりは楽しめているとのことで、なによりだ。
やはり、種族を統一させるなり、能力を揃えるなりしたほうがいいのだろう。
子供たちが大きくなったら、もう一度、野球に挑戦してみるとしよう。
仕事の忙しさがシャレにならなくなってきました。
二月は更新が滞り気味&短めになるかと思います。
ご容赦ください。