金髪をクルクルに巻いたエンデリ
私の名前はエンデリ。
エンデリ=エリカテーゼ=プギャル。
プギャル伯爵家の七女です。
ガルガルド貴族学園に入学して三年目になります。
さて、今年も入学の季節がやってきました。
広大な魔王国の各地から新しい生徒がやってくるので、全員参加の入学式は不可能。
なので、この時期は毎日のように簡易な入学式が行われています。
私は、先生方からの覚えをよくするため、自主的にそのお手伝いに向かいます。
身体は小さいので、あまり役には立っているとは言えないでしょうが、協力しているという姿勢が大事なのです。
あら?
獣人族の男の子が三人?
周囲を見回していることから、新しい生徒でしょう。
お供がいないことから、平民と推測します。
違っても問題ないでしょう。
とりあえず、道に迷っているなら助けてあげなければ。
予想通り道に迷っていました。
良いことをしたあとは気分がいいです。
しかし、変ですね。
学園の正門には、門番として魔犬がいます。
通行人泣かせの悪名高い魔犬です。
その魔犬を避ければ、かならず衛士小屋を見つけられるようになっているのですが……
衛士小屋を見つけられないほど、浮かれていたのですね。
ふふ。
私も昔を思い出し……大丈夫です。
私の場合は、お供がちゃんと衛士小屋を見つけてくれました。
驚きました。
あの獣人族の男の子たち。
平民ではなく、男爵家当主相当という身分でした。
これは魔王国で爵位を持たない他国の王族や外交官の子息が学園に通う時に与える身分のはずです。
はずというのは、男爵家当主相当という身分は習いましたが、実際に目にしたのは初めてだからです。
大抵の生徒や先生も同じではないでしょうか。
たしか、以前に男爵家当主相当の生徒がいたのは七十年前。
それも三ヶ月程度だったと聞いています。
学園生徒を示す短いマントの裏に、ちゃんとその印があるのですが……
勉強不足の生徒だと、男爵家の関係者と間違えるのではないでしょうか?
不安です。
獣人族の男の子たちが、なにやらクラブを立ち上げて楽しそうに活動しています。
ちゃんと授業は受けているのでしょうか?
心配になります。
これは注意したほうがいいでしょうか。
……
私のお供のメアリが微笑ましい目で私を見ています。
メアリ、私は心配しているだけですよ。
別に一緒に遊びたいわけではありません。
ええ、本当です。
心配するだけなら、どうして手土産を用意するのかって?
挨拶に手土産は基本でしょう。
ほら、行きますよ。
文句を言うなら置いていきます。
食事をいただきました。
正直、野外で作った食事などと思っていましたが、驚きです。
圧倒的に、プギャル家の食事より美味しい。
これはあれです。
近年、クローム伯が外交の武器にしている調味料や料理技法を使った料理です。
獣人族の男の子たちは、クローム伯の関係者でしょうか?
となると、会話にちらちらと出てくるフラウ先生というのは、ひょっとしてクローム伯の長女フラウレム様のこと?
では、ユーリ先生というのは……王姫様?
ま、まさか。
……
名前はゴール様、シール様、ブロン様でしたね。
今日からお友達です。
私は敵じゃありませんよ。
お風呂は私にはちょっとお湯が熱かったですが、メアリには丁度よかったようです。
着替える場所はもう少し広いほうがいいですね。
あと、鏡などを置いていただけると立派にみえるのですが……
文句ばかり言ってしまいますが、素直になれないだけです。
悪い施設ではありません。
私の家にも欲しいぐらいです。
大工を呼ぶのは……無粋ですね。
ゴール様たちの手が空いたら、依頼してみるとしましょう。
それまでは、ここに通わせてもらいましょう。
ゴール様たちが、ギリッジ侯爵と揉めました。
きっかけはギリッジ侯爵の馬鹿息子ですが、ゴール様たちも侯爵相手に一歩も引きません。
凄いと思うと同時に、ひょっとして相手がギリッジ侯爵と知らないのではないかと不安になります。
ギリッジ侯爵は、南の大陸で名高い三侯爵の一人。
時代が時代なら、王を名乗ることさえ許されていたとされる魔王国有数の家柄です。
正直、その侯爵が大人気ないとは思いますが、馬鹿息子の失態をなんとかしたいのでしょう。
ああ、決闘になってしまいました。
大丈夫でしょうか?
決闘が明日?
そんな急に?
しかも、当事者が出ちゃいけないって……
なるほど。
ギリッジ侯爵としては、ゴール様たちが戦士を集められずに不戦敗を狙っているのですか。
確かに、その決着が理想でしょう。
余計な横槍が入る前に終わりますしね。
私の予想通り、クラブのみなさんのもとには、各自の実家経由で関わらないようにと指示が来ているようです。
指示が来なくても、侯爵相手に歯向かうのは得策ではありません。
仕方がありませんよね。
実家に迷惑をかけるわけにはいきませんから。
それに、不戦敗の流れはゴール様たちには不名誉ですが、不利益とはいえません。
いえませんが……
決闘が不戦敗というのは美しくありません。
戦って負けましょう。
ゴール様、足りないのはあと一人ですか?
では、私が出ましょう。
ご安心を。
身体は小さいですが、攻撃魔法には自信があります。
私は心の中で領地にいるお父さまに謝りつつ、胸を張りました。
どうして、私の横に魔王様がいるのでしょう?
え?
参加?
見物ではなく?
ゴール様側の戦士として……あ、そ、そうですか。
えーっと……本物ですよね?
あ、あはは。
失礼しました。
魔王様以外に、ヒタ治安隊隊長、ギスカール将軍、四天王のホウ様?
私、場違いじゃない?
え?
順番はクジ?
魔王様、どうしてそんなに自信満々に……予告通りに魔王様が一番手です。
魔王様ともなれば、クジすら操れるのでしょうか?
となると、私が最後というのは魔王様のご意思かな?
黙って座っていたら、決闘が終わっていました。
いえ、感謝されるほどではありません。
なにもしていませんから。
ええ、本当になにもしていませんから、お礼を言わないで……
決闘に勝ってしまったことで、実家に迷惑がと考えましたが、こちらはギリッジ侯爵より偉い魔王様やホウ様が参加しています。
最悪の事態はないでしょう。
クローム伯も、心配無用と言ってくれたので助かりました。
あとで手紙で顛末を書いて、お父さまに謝っておきましょう。
気付けば、ゴール様たちが卒業して、先生になっていました。
理解が追いつきません。
えーっと……
ああ、侯爵は学生に負けたわけではないと。
そういうことでしょうか?
決闘での敗北は、恥ではありません。
ですが、学生というのは未熟者という扱い。
それに負けたというのは、外聞がよろしくありませんからね。
なるほど。
しかし、ゴール様たちは卒業の資格を……ひょっとして、あの卒業の証、本物?
あれだけたくさんあったから、オブジェかなにかかと思っていましたが……
考えるのを止めましょう。
とりあえず、今日はゴール様たちの就任祝い。
お祝いの品を持って、参りましょう。
ふふ。
私のお祝いの品はすごいですよ。
なんと、いま注目のゴロウン商会から仕入れたキラーラビットのお肉なんですから。
さすがのゴール様たちでも、こんな高級肉はめったに口にしないでしょう。
驚いてくれるでしょうか。
楽しみです。
キラーラビット=牙の生えた兎(死の森生息)