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エルフ帝国のその後


 魔王が少し変わった体勢で身体を止める。


 すると、そこに子猫のサマエルがやってきて魔王の身体を登って、ビシッとポーズを決める。


 サマエルが降りると、魔王が動き出し、また少し変わった体勢で身体を止める。


 今度はサマエルを含めた四匹の子猫が魔王の身体を登ってビシッとポーズを決める。


 ……


 対抗して俺も少し変わった体勢で身体を止めてみた。


 サマエルはこない。


 子猫たちもこない。


 ザブトンの子供たちがたくさん来た。


 クロの子供も来た。


 重かった。


 なにをやっているかって?


 現実逃避。




 逃げたい現実は、降伏してきたエルフ帝国。


 無関係とは言わないが、大元はライメイレンだ。


 だから、用事があるならライメイレンに言うべきだと思う。


 でも、ビーゼルは書類を持って俺のところにくる。


「エルフ帝国の元支配者層の娘が二十人ほど、送られてきましたので五村ごのむらに向かわせました。

 到着したら、この書類に受領サインをください」


「いやいや、エルフ帝国は魔王国に吸収された形だろ?

 どうして五村に送るんだ?」


「エルフ帝国側の希望なので」


「五村に来ても待遇はよくないぞ」


 魔王国のどこかの街にいるほうがいいんじゃないか?


 俺はそう思ったのだが、エルフ帝国側はそうじゃないみたいだ。


 まあ、引き受けるしかない。


 魔王国側も、エルフ帝国の降伏は突然の事件だし、望んでいなかった。


 その理由は、面倒が増えるから。


 しかし、エルフ帝国はライメイレンに降伏したが受け入れられず、仕方なく降伏先として魔王国を指名。


 魔王国側はその指名に驚きつつも降伏を受け入れるのは難色を示したが、ドースが仲介したので引き受けるしかなかった。


 ドースとしては、エルフ帝国の興廃はどうでもよかったが、ヒイチロウが成長後にこの件で心を痛めないようにとの努力だ。


 あと、ライメイレンの悪名が上がるのを防ぎたかったのもあるらしい。


 ともかく、ドースの仲介でエルフ帝国の降伏を引き受けた魔王国は色々と忙しい。


 俺だけ楽はできないらしい。


 そうそう。


 エルフ帝国の降伏に対し、いくつかの人間の国が文句を言ってきた。


 それに対し、ビーゼルはこう返した。


「では、そちらでお引き受けいただけますか?

 立地的には魔王国の近くになりますが、良港とエルフ帝国の技術を入手できるチャンスですよ」


 ビーゼルとしてはそれなりに本気で勧めたのだが、人間の国はそれ以降に何も言わなくなった。


 人間の国も、多数のドラゴンに攻められたエルフ帝国に関わりたくないらしい。


「だったら、最初っから黙っていろというのだ!

 中途半端に期待させおって!」


 ビーゼルの魂の叫びは、酒の席で響いた。


 うん、飲んで発散すればいい。




 エルフ帝国があった島には五千人のエルフが生活していたが、数百人を残して大半が島を出た。


 魔王国の各街で少しずつ受け入れるらしい。


 エルフ帝国のエルフは、それなりに技術や資産を持っているので生活には困らないそうだ。


 一安心。


 島に残った数百人は、港の管理と漁を生業としているエルフだ。


 エルフが漁をすることに違和感を覚えるが、島に住んでいるのだから漁ぐらいはするかと納得。


 本来なら、これで終了となるのだが……


 エルフ帝国のエルフたちは安心ができず、支配者層の娘を二十人ほどドラゴンに捧げることを考えた。


 その考えを、ライメイレンは華麗に無視。


 ドースは、ライメイレンが嫌がるから引き受けるわけにはいかんと遠慮。


 引き受けても、エルフでは格が足りず、他の眷属けんぞくとの関係もあって家畜以下の扱いになるから、止めておいた方がいいそうだ。


 これで諦めてくれたら問題はないのだが、根本にあるのがドラゴンに対する恐怖からの脱却。


 自分たちがここまでしたのだから、ドラゴンが許してくれるに違いないという自己満足なのだから、諦めない。


 何度かの交渉の後、ドラゴンが関わっているとエルフ帝国が信じる五村がターゲットになった。


 ドースやライメイレンに話をしたの、俺なのに。


 まあ、五村に二十人ほど増えたところであまり変化はない。


 ヨウコには俺から話をしておこう。



「村長。

 すみません、もう一つありました。

 エルフ帝国の船に関してなのですが……」


「船?

 ああ、降伏時に差し出された船か」


「あれはエルフ帝国の技術のすいが集められた船で、エルフ帝国のシンボルだそうです」


「そう聞いている」


「その船に、無駄な帆を取り付けるのはどういった罰かと質問がきています」


「俺がやったわけじゃないんだが」


「理由は知ってるのでしょ?」


 知っているので、素直に教えた。


 ビーゼルの眉間に深いシワができた。


「そのまま伝えるのはあまりにも哀れ。

 傲慢ごうまんさに対するいましめ、こう答えておきます」


 それがいいと思う。




 数日後、五村に二十二人のエルフの娘がやってきた。


 俺も出迎えに参加しようとしたが、不要とヨウコに断られた。


「降伏者を出迎えるならともかく、そうではないからな」


 ああ、恨まれている可能性もあるのか。


 それは面倒な。


「心配無用。

 そんな気はすぐになくなる」



 二十二人のエルフの娘は、全員が百歳から二百歳と若く、文武に優れているそうだ。


 その二十二人は、やってきたその日にピリカの元に送られた。


 ピリカの訓練を受けさせるためだ。


 翌日、全員が脱走を試みたが捕まって、さらに厳しい訓練を受けさせられていた。


「身体を動かし続けろ。

 大丈夫だ。

 その限界は、理性の限界。

 身体の限界はまだ先にあるから」


「大丈夫。

 死ぬと思ってからが本番だから」


「いけるいける。

 若いんだから大丈夫。

 もう一周、頑張ってみよう」


 同じくピリカと共に訓練を受けている、近隣のエルフたちの熱い応援。


「半年ほど訓練を続け、その後で文官の仕事を手伝わせる予定です」


 ピリカの弟子の説明を受けながら、その様子を俺は見守った。


 余計に恨まれないか、これ?


「大丈夫です。

 一ヶ月もすれば、恨みなんて後ろ向きなことは考えなくなりますから」


 そ、そうか。


 やり過ぎないようにな。


 うん、本当にやり過ぎないようにお願いしたい。





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― 新着の感想 ―
[一言] 相手が望んでもいないものを押し付けるのはケンカを売るのと同じなんだが。
[良い点] ピリカズ・ブートキャンプ
[気になる点] ビーゼルさん、いろいろ溜まってるね? あとブートキャンプ?
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