獣人族の男の子の学園生活 十二日目~?
シールとブロンが、三日前に仕留めたイノシシを持ってきてくれた。
体長は一メートル……ないぐらい。
最初、子供かと思ったのだけど、この辺りではこれで成獣なのだそうだ。
村との違いに少し戸惑う。
戸惑いが少しなのは、来る前にフラウ先生とユーリ先生に強く注意されているからだ。
本当にこれでもかというぐらい強く注意された。
「ほう、今宵の宴は賑やかになりそうだ」
訳)これ、今日の晩飯? マジ? 超楽しみなんだけど。
少し前にシールに殴られた伯爵の息子が、大工道具を片手にやってくる。
彼はなぜかクラブ入りした。
風呂が気に入ったのかもしれない。
大きい風呂場を造ろうと画策している。
昨日まで、ノコギリの使い方も知らなかったけど。
「今日の晩御飯だけど、貴族言葉は禁止」
「おっと、そうであった」
そして、彼の後ろには学園の先生が三人ほどいる。
新しくできたクラブの視察と、監督役の先生を決めるためだそうだ。
昨日からいる。
昨日の晩、食事の後で監督役を誰がするかで殴り合っていた。
そんなに嫌がらなくても……
今日も三人で来たけど、誰が監督役になったかは聞いていない。
視察のほうは問題なしでいいのかな?
そんなことを考えながら食事を作る。
さすがに僕一人では厳しくなったので、何人かに手伝ってもらっている。
料理の腕は……うん、ワイルド。
まず、料理の前に手を洗おうね。
地面に落ちたのをそのまま使おうとしない。
野菜は水で洗おう。
包丁の持ち方はそうじゃないから。
魔法の火は、最初の火種ぐらいに考えて。
魔法の火だけで料理するのは大変だし、火を出しながら他のことできる?
家から使用人呼ばなくていいから。
自分の手で頑張るように。
人に教えるのは思ったより大変だ。
ハクレン先生、フラウ先生、ユーリ先生も苦労したのだろうか。
……
いや、僕たちは、ここにいる人たちよりも優秀だったと思いたい。
野菜を切るのに魔法を使わない。
ほら、野菜が吹き飛んだ。
翌日。
僕たち三人は、学園長に呼び出された。
なんだろうと思ったら、見せられたのが一枚の木の板。
書かれている文字は……嘆願書?
寮の食事改善を求める内容だった。
……
えっと、なぜこれを僕たちに見せるのだろうか?
僕が疑問の目を学園長に向けると、署名を見るように言われた。
嘆願書の提出者として、五人の名前が書かれている。
僕たちの名前ではない。
当然だ。
こんな嘆願書は知らない。
寮にいる時に知っていたらサインしたかもしれないけど、寮を出た僕たちには関係ない。
そう学園長に伝えると、大きなため息を吐かれた。
嘆願書に名前を書いた五人は、僕たちのクラブに所属しているらしい。
そう言われてみれば……覚えのある名前だ。
「僕たちが扇動したわけではありませんよ」
「それはわかっています。
ただ、貴方たちに関わった生徒の大半が、寮の食事に対して不満を持つようになっています」
「えっと……」
心当たりは……毎晩の食事かな?
毎晩、小さなパーティーみたいになっている。
しかし、それでも毎晩四十……昨日は五十人だったかな。
学園の生徒数から考えれば、微々たるものだろう。
僕たちの責任とは言い難いはずだ。
原因は、素直に寮の食事が美味しくないことではないだろうか?
「寮の食事が美味しくないのは認めます。
生徒を飢えさせないためだけの料理ですから」
「それがわかっているなら、料理を美味しくすれば解決するのでは?」
「その技術がありません」
「……え?」
「食料難の時代が長すぎました。
飢えないための料理を作っていた者に、急に美味しい料理を作れと言っても無理な話です」
確かに。
「そこで、貴方たちにお願いです」
まさか?
「寮の食事の向上に、協力してくれませんか」
僕は知ってる。
これはお願いという名の、断れない命令だということを。
だが、抵抗はしておく。
「協力は構いませんが、残念ながら僕たちの本業は生徒です。
学園で学ぶことが多い身ですので、空いた時間にということで……」
訳)協力するけど、こっちの気が向いた時だけね。
「貴方たちがたいへん優秀なのは聞き及んでいます」
訳)逃がさん。
「ははは。
ありがとうございます」
訳)無理だって。
「本日より、寮の料理当番をそちらに向かわせます。
鍛えてやってください」
訳)はい、話は終わり。
頼んだからね。
くっ。
さすが学園長、手強い。
し、しかしだ。
このまま引き下がれない。
「浅ましいですが、寮の食事が改善されたら、僕たちにご褒美のようなものはいただけるのでしょうか?」
訳)メリット、僕たちのメリットを提示してよ。
「当然、考えています。
楽しみにしていなさい」
訳)望みを言え。
「楽しみですね。
ですが……あまり学園に負担を掛けても申し訳ありません。
実は一つ、困っていることがありまして、それを解決してもらえますか?」
訳)おお、ではこの難題をお願いできますか?
「貴方たちに困る問題があるとは思えませんが、聞かせてください」
訳)学園長を舐めるなよ。
「実は、王都でやっている知人の店を探しているのですが、見つからず困っているのです。
お教え願えますか。
マイケルおじさんのお店というのですが……」
訳)本気で困っているから、よろしくお願いします。
「承知しました。
では、寮の料理の件はよろしくお願いします」
訳)ふっ、たやすい。
学園長の力を見せてやろう。
これが精一杯。
僕の横で黙っていたシール、ブロン、問題ないよな?
問題があるなら自分で学園長に言うように。
昼に、十人の料理人がやってきた。
男性寮から四人、女性寮から四人、教師寮から二人。
全員、包丁は扱えるようなので一安心。
衛生面の意識も問題なし。
さすがだ。
が、料理の技術が不足している。
焼くと煮るだけじゃなぁ。
まあ、僕も最初っから料理が出来たわけじゃない。
一緒に頑張ろう。




