獣人族の男の子の学園生活 三日目?
僕たちがガルガルド貴族学園に入学して三日。
先生たちの教えを思い出せば、授業は問題なかった。
身分の差で苦労するかと思ったけど、フラウ先生やユーリ先生が手を回してくれたのでそこも問題がなかった。
問題があったのは寮生活。
僕とシール、ブロンで三人部屋を借りている。
部屋は狭いけど綺麗だ。
だけど、ベッドが硬い。
シーツのすぐ下が板だからだろう。
これをベッドと呼んで良いのだろうか?
初めて見た時、枕がなかったらベッドと認識できなかったと思う。
そして、食事。
寮で生活する者は、朝と晩に寮の食堂で食事をとらなければいけない。
その食事の受け取りで生徒の出欠を確認しているからだ。
食事を受け取ったら、全て食べなければいけない。
ルールではなくマナーだ。
僕もそのマナーは大事だと思う。
でも、その食事が不味い。
これでもかというぐらい不味い上、品数も少ない。
なのに量だけはある。
おかわりしても大丈夫と言われているが、僕はおかわりをしたことはない。
失礼ながら、おかわりしている他の生徒の姿に戦慄を覚えているぐらいだ。
さらに、この学園の寮には風呂がない。
みんなどうやって身体を綺麗にしているんだ?
僕の疑問にはタライとタオルで返された。
お湯は決まった時間に寮の食堂でもらえるそうだ。
それを使って、身体を拭けと……
最後にトイレ。
清掃は毎日どころか、数時間ごと。
さすがは貴族関係者が利用する寮。
凄く綺麗。
でも、駄目。
トイレで使う葉が硬くて合わない。
使わないわけにはいかないので、使っているけど。
限界だった。
情けないかもしれないが、ホームシックだ。
村に帰りたい。
村を出た時に持っていた意気込みはもう折れている。
シール、ブロンも同じなのだろう。
イライラし意味もなく部屋を歩きまわっている。
「もう駄目だ」
シールが決心したように僕に言う。
ブロンも頷いている。
……仕方がない。
「寮を出よう」
もちろん、学園を辞めるわけではない。
寮を出るだけだ。
それだけで、あの不味い食事から解放される。
だが、学園の生徒は、学園内に住居を持たなければいけない。
学園外では駄目とのこと。
なので、寮を出た僕たちが求めるのは入学時に案内してくれた衛士から聞いた、寮暮らしができない生徒用の借家。
空きがあるか確認する。
「残念ながら、予約で一杯です」
……
終わった。
だが、希望はあった。
「空いている場所に、自分で建てるのであれば構いませんよ」
学園の事務担当のお姉さんの救いの言葉。
「自分で建てたら問題ないの?」
「ええ、場所は指定させてもらいますが……案内しましょうか?」
「よろしくお願いします」
家が並ぶ区域を通り過ぎた場所に、開けているけど杭とロープで規則正しく区分された広いエリアがあった。
「ここが建設可能な場所です。
土地の借料はありませんが、共同管理費として年に銀貨一枚が必要です」
「共同管理費?」
「井戸の利用料や掃除代、夜間の見回り員に対する手当てです」
「なるほど」
「その他、色々と細かい取り決めがありますが……読めます?」
事務担当のお姉さんの差し出した書類に僕は目を通し、ブロンに渡す。
こういった契約関係はブロンが得意だ。
書類はブロンに任せ、僕は事務担当のお姉さんに質問する。
「ここってロープで区切られているけど、ここからはみ出しちゃ駄目ってこと?」
ロープでは一辺が十メートルぐらいの正方形が作られている。
この正方形を、事務担当のお姉さんはブロックと呼んでいる。
「はい。
そのようにお願いします」
「一人で一つ?」
「いえ、そうは決められていません。
多くのブロックを使っていただいて構いません。
ですが、先ほどの共同管理費がブロック数で計算されますので……」
「十ブロック使うと、共同管理費は年に銀貨十枚ってことだね」
「はい」
僕が色々と質問していると、ブロンから呼ばれた。
「どうだった?」
「大体は大丈夫だけど、気になるのは卒業時に建物の権利が学園に移ることかな」
「そうなの?」
僕は事務担当のお姉さんに確認する。
「はい。
卒業時に建物の権利が学園に移ります。
ですので、卒業までに次に住む生徒を見つけて譲るのが慣例となっています」
「それでいいの?」
「そういう伝統ですので。
ただ、学園関係者以外には譲れません」
「だよね。
わかった」
僕たちは退寮手続きを希望した。
「え?
あの、まだ家が建っていませんが?」
「自分で建てたら問題ないんでしょ?」
「そ、そうですけど、まさか……」
「自分たちで建てるから」
とりあえず、二×二の四ブロックを借りた。
すでに建っている家の真ん中ぐらいのサイズがそれぐらいだったからだ。
共同管理費が高くなるけど、見栄は大事と教えられている。
これぐらいは構わないだろう。
ああ、そうだ。
案内してくれた事務担当のお姉さんにチップとして銀貨一枚を渡す。
これは間違いじゃない。
それぐらいの価値があったと僕は思っている。
村長が、何をするにもトイレを優先していた。
それに従って、まずはトイレの建設。
穴を掘り、学園の事務所から空いているスライムをもらってくる。
上に穴の空いた椅子を用意し、テントで囲って完成。
「ここって土が軟らかいな。
掘りやすい」
「家を建てるのが不安になるな」
「叩いて固めれば問題ないだろ?」
次に井戸だが、共用の井戸がちゃんとある。
勝手に井戸を掘るのはよろしくないらしい。
なので必要とするのは水を貯めるタンク。
飲料水と生活用水で二つ欲しい。
これは、大型の樽を買ってきてそのまま使う。
「トイレ用に小さい樽は?」
「もちろん、買ってある」
風呂。
これも大型の樽を使う。
大人でも入れるサイズだ。
問題ないだろう。
おっと、カーテンで周囲を隠さないとな。
着替える場所はここで、汚れないように下に板を配置。
排水?
あとで考えよう。
最後に寝床。
とりあえず、今日はテントで十分だ。
ガルフのおじさんが、学園に行く前に持たせてくれた。
布の中に木のフレームが仕込まれており、組み立てるだけでテントになる優れもの。
荷物になると思っててごめん。
凄く役に立ってる。
そして毛布を持ち込んでベッドを作る。
これまで硬いベッドから僕たちを守ってくれた毛布だ。
大事にしよう。
作業が終わると、日が暮れそうになっていた。
まずいな。
シール、ブロンは水汲みを頼む。
僕は今日の食事を作る。
食材は樽を買いに行った時に仕入れている。
任せろ。
……
調理器具がなかった。
寮の食堂で、調理器具を借りた。
明日、忘れずに買っておこう。
料理の味には自信がある。
ガルフのおじさんから渡されたテントの中に、調味料が隠されていたからだ。
本当にありがとう、ガルフのおじさん。
まだ村を出て少ししか経っていないけど、村の味に涙が出てくる。
シールとブロンも同じように泣いている。
ホームシックが少し解消された気がする。
僕が調理器具や食器を洗っていると、シールが手伝ってくれた。
「ゴール、醤油の味は嬉しかったけど、肉がイマイチだったな」
「そうだな。
それなりの値段だったんだが……」
「仕留めてからの処理が悪いんじゃないか?」
「値段が高いのに手抜きだな。
不真面目なことだ」
「学園の北側にある森には入って良いんだろ?
明日は、そこで仕留めてきてやるよ」
「一人で楽しいことするなよ。
僕だって行きたい」
「じゃあ、二人で行くか?」
「ブロンが怒る」
ブロンには、ここに家を建てる契約書の正式版のチェックをしてもらっている。
すでに作業を始めているけど、実はまだ仮契約状態。
明日、学園と正式な契約をすることになっている。
それをブロンに任せて二人で狩りに行ったら、きっと怒るだろう。
ブロンはめったに怒らないけど、その分、怒ると面倒だ。
あのウルザですら、ブロンは怒らせないようにしていた。
「あと、調理器具を買いに行くついでに、マイケルおじさんのお店に手紙を届けないと」
「手紙?」
「マイケルおじさんから預かっていただろ。
王都の支店を使うことがあるなら、この手紙を届けて欲しいって」
これまで使うことがないと思っていたけど、これからは色々と買い物しそうだから手紙を届けておきたい。
実は樽と食材を買いに行った時にお店を探したのだけど、見つからなかった。
地元の人に聞いても知らないとの返事。
マイケルおじさんのお店って、考えているよりも小さいのかもしれない。
「ともかく、明日は僕もブロンも忙しい」
「じゃあ、やっぱり森には僕一人だな」
「ここに残って居住環境を整えたり、授業に出たりとかは?」
「美味い肉が食べたいだろ」
「くっ、頼んだ」
そして、僕もやることを終わらせたら森に行く。
絶対にだ。
生活リズムが狂いっぱなしです。




