変化の春
春。
行進だ結婚式だで色々あったが、やることはやっている。
大樹の村で畑を耕し、褒賞メダルを配り、果樹エリアの蜂たちの小屋を手入れした。
二村、三村では休耕地を作る為、新しい農地が必要とのこと。
各村が勝手に広げてくれても構わないのだが、俺が【万能農具】で耕した場所以外は農地に向かない。
俺が頑張った。
一村はもう少し竹林が欲しいとのことで、がっつりと竹林を願って【万能農具】を使った。
【万能農具】に感謝だな。
俺が色々と忙しい間に、ユニコーンが子供を生んだ。
無事に生まれて一安心。
生まれた仔馬は……普通の仔馬だな。
まだ子供だからか、特にユニコーンらしさはない。
雌とのことだ。
宝石猫のジュエルも出産した。
ちっちゃい子猫を四匹。
可愛らしい。
だが、近付くとジュエルが怒るのでまだ近づけない。
遠くから見るだけ。
母親の妊娠で寂しい思いをしていたミエルたちはどうするかと思ったけど、姉になったことを自覚したのかウロウロする子猫を咥えてはジュエルの傍に放している。
仲は良さそうだ。
特に心配していなかったけど。
心配は……
生まれたばかりの子猫たちのいる部屋の前、ジュエルが怒らない一番良い場所に魔王が鎮座していることだ。
子猫見物だが、どうやら子猫たちを守る番人も兼ねているらしい。
「この廊下を歩く時は、もっと静かに。
サマエルが寝ている」
サマエルは一番最後に生まれた子猫の名前。
ちなみに、他はアリエル、ハニエル、ゼルエル。
集まれる者が集まって名前を考えた。
魔王がなぜか参加していたが、特に注意はしなかった。
狙っていたわけではないが、最後がエルで統一しようとなった。
愛称はアエル、ハエル、ゼエル、サエル。
……
言いにくい。
たぶん、姉たちと違ってこっちは定着しないような気がする。
「ユーリ様が外に出られたので、寂しいのでしょう。
すみませんが、しばらくは魔王様の好きにさせてあげていただけると助かります」
魔王を連れてきたのであろうビーゼルはそう言いながら、孫であるフラシアベルを抱えていた。
フラシアベルも二歳になり、大きくなった。
抱え方が少し悪いと、ホリーに注意されている。
俺も注意しよう。
大樹の村では、ガルフの息子夫婦の為の家が新築されていた。
いつまでも宿でというわけにはいかないからな。
ハイエルフ、リザードマン、山エルフ、ドワーフたちが協力して作っているので、あっという間に完成する。
もちろん、俺も頑張った。
ハイエルフが指定する木を伐採し、加工することを。
ガルフの息子夫妻が代金の相談にきたが、これは俺からの結婚祝いだ。
気にするなと伝えた。
それに、これまで家を建てても代金は取っていないしな。
代金をもらったのは……ラスティやグラルの為の家の時かな?
ただ、その時は通貨ではなく、物品での支払いだったから厳密にいくらという値はつけていない。
値段を聞かれても困る。
そういうことだからガルフ、そしてガルフの奥さんも気にしなくて良いぞ。
息子夫婦が心配なのもわかるけどな。
ガルフはちゃんと息子と仲直りしたな?
そっちは問題ない?
だが、あの嫁とは決着をつけるとか物騒なことは言わずに……ほら、あの時は酒が入っていたからガルフも本調子じゃなかったんだよ。
ドワーフたちに散々、飲まされただろ。
……
わかったわかった。
だがな、今から修行に行くとか言うのは止めた方が良いぞ。
横にいる奥さんが怖くないか?
俺は怖い。
新築祝いは小さなパーティー。
新築祝いは建設に協力してくれた人たちへの感謝と、家の近くに住む人たちへの挨拶があるので、家の主であるガルフの息子と奥さんが手料理を振舞うのが通例。
だが、人手が足りない。
だって、ほぼ大樹の村全員が参加だからな。
鬼人族メイドたちを援軍に出した。
ああ、必要な食材は倉庫から持っていってくれ。
子供たちからケーキのリクエストが出たので、俺も料理に参加。
野外用の台所を作るところから始めた。
ん?
ああ、わかっている。
ドワーフ諸君。
この場での酒は飲み放題だ。
頑張った分、飲んでくれ。
え、違う?
新しい作物の相談?
酒用?
薬草を使った酒?
また変わったことを。
今ある薬草畑で……ああ、あれに手を出すとルーが怒るか。
わかった。
薬草畑を広げよう。
ただし、危ない草は駄目だぞ。
「ははは。
人食い草を育てて欲しいとは言いませんよ」
いや、そういう意味ではなくてだな。
そして酒は遠慮なく飲むのね。
ガルフの息子夫妻といえば。
その妻は俺のことを最初は村長と呼んでいた。
しかし、春の行進の後からずっと俺のことを村長様と呼ぶようになった。
昔のリアたちを思い出す。
しかし、苦労して村長様から“様”を取ったのだ。
放置して元に戻っても困る。
いや、すでに一部のハイエルフたちが俺のことを村長様と呼び出している。
これはまずい。
なんとかならないか?
「そう言われましても村長様。
村長様は村長様ですから」
……
デジャブ。
リアたちにもそう言われた気がする。
あの時はどういって納得させたか……
距離感を理由にしたかな。
「俺とお前の仲じゃないか。
“様”は止めるんだ」
うん、人妻相手には使えないな。
どうしよう。
俺が困っているとリアがお任せくださいと言うので、任せた。
すると、どう説得したのか“様”がなくなった。
「“村長”ですでに最上の言葉。
そこに“様”を付けるのはへりくだり過ぎて逆に不敬でした。
申し訳ありません」
よし。
……で、いいのかな?
獣人族の男の子たち三人が、魔王国の学園に入学することになった。
突然ではない。
実は去年の冬、ユーリが五村に来た直後に提案されていた。
広い世界を見せた方がいいと。
年齢的にも学園に行ってもおかしくない歳らしい。
また、能力的にも問題ないと。
一応、勝手に決めずに本人に相談した。
しばらく悩んでいたが、ガルフの息子が許婚者を大樹の村に連れて来た時に決めたらしい。
この村だと、結婚相手に困ると。
……
ウルザはどうだ?
首を思いっきり横に振られた。
じゃあ、ナートは?
あれも怖いところがある。
そうなのか。
グラルは……ヒイチロウを狙っているしな。
ティゼル?
ティゼルはやらん。
わかった。
奥さんを探しに行くといい。
……
学園に行く理由がそれでいいのだろうか?
そういえば、ユーリ。
獣人族の男の子たちは、どこの学園に行くんだ?
ユーリやフラウが通っていた学園?
そこって、貴族が通う学園じゃなかったか?
普通の学園より自由に休めるし、融通が利くからって……
本当に大丈夫か?
礼儀作法とか、色々と大変じゃないか?
その辺りは入学までに、フラウと文官娘衆とで叩き込む?
……
わかった。
やってくれ。
しかし、そうか。
あの小さかった獣人族の男の子たちが、学園に入学か。
感慨深いな。
しっかりと学んでくるんだぞ。
獣人族の男の子たち三人は、転移門で五村に移動。
五村出身として、魔王国の学園に向かった。
「ハクレン先生。
気持ちは嬉しいけど、ドラゴンに乗って学園に行くのは駄目だと思うんだ」
ハクレンによる輸送は、当人の希望で途中で終わった。




