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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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平和な国の王の話


 私は少し前まで王であった。

 だが、息子の謀反によって退位。

 死を覚悟していたが、幽閉だけのようだ。

 だが、喜んだりはしない。

 私は十歳で王位を継ぎ、三十年以上も王位を守ってきたのだ。

 それが謀反とは。

 あの馬鹿息子を殴り倒してやりたい。

 だが、それ以上に怒りの矛先を向けたいのが家臣たち。

 どんな事情があるのか知らないが、馬鹿息子を支持するとは。

 これまでの私の苦労はなんだったのだ。

 ええい、腹立たしい。



 だが、三ヶ月も幽閉生活をしていると怒りも薄れる。

 幽閉といっても、屋敷から出られないだけで中ではそれなりに自由。

 また、公には出来ないが私に恩を感じている者から差し入れがあるので金にも食にも困らない。

 手に入らないのは情報だけ。

 息子が今、何をやっているかまるっきりわからない。

 これまで王として最新の情報を手にしていただけに喪失感が大きい。

 だが、それにも慣れた。

 気付けば寝不足、運動不足も解消され、身体の調子も良い。

 ある意味、王という重しがなくなったのは悪いことじゃないのかもしれない。

 そんな風に考えた。

 うむ。

 私は王に向いていなかったのだ。

 そう思えばいい。

 では、私に向いているのはなんだろう?

 ……

 それを探す為にも、幽閉されているわけにはいかんな。

 よし、脱走しよう。



 同行者は、五人。

 私が子供の頃から身の回りの世話をしてくれるジイと、護衛役の騎士が一人、それと侍女が三人。

 五人とも、息子よりも私を選んでくれた者たちだ。

 私の脱走計画を聞かされても、動揺せずに一礼し、準備を始めた。

 頼もしい。

 本来なら妻にも同行してもらいたいのだが、厳しい旅が想像される。

 残念だが妻とはお別れだ。

 私が出て行った後、残った者たちが罰せられないように立ち回ってもらいたい。

 妻の実家の力を考えれば、息子も妻を罰することはしないだろう。

 いや、あの馬鹿息子が妻に対して何かできるとは考え難い。

 そう考えて妻にお願いしたら殴られた。

 え?

 夫の横が妻の立ち位置だって……それは嬉しいが……

 妻が加わり、同行者が五十人ぐらいになった。

 私より妻の方が人望があるのではないだろうか?

 い、いや、私はこっそりと脱出しようとしたから人数を搾っただけで……この件に関しては、考えるのをやめよう。



 とりあえず、他国を目指す。

 国内では、面倒だしな。

 私の顔が知られている国も面倒だ。

 なのでかなり遠い国を目指すことになった。

 馬車の列、凄いなぁ。

 船、ほとんど貸切状態だけど?

 目立つなぁ。

 予想通り、追っ手が来た。

 えっと、追っ手に対して容赦なく反撃するのはどうかと。

 一応、息子の命令で追いかけてるだけだろ?

 私の国の連中だぞ。

 いや、幽閉生活に戻りたくはないが……

 そうだな。

 連れ戻されて死刑もあるか。

 よし、反撃。

 できるだけ手足を狙ってな。



 追っ手を振り払いながら、辿りついたのが魔王国。

 ここならさすがに追っ手もこれまい。

 なにせ大陸の雄、フルハルト王国と戦争中だからな。

 私の国にもフルハルト王国からの支援要請がきていた。

 支援要請は無視していたが、魔王国に味方したわけでもない。

 だから大丈夫だと思う。

 思いたい。

 大丈夫だといいな。

 よし。

 とりあえず、宿を確保しよう。

 資金は大丈夫か?

 豪邸を建てても大丈夫なぐらいある?

 では、頼んだぞ。

 食事は……人気の場所がある?

 妻よ、いつの間にそんな情報を……

 いや、頼もしいぞ。







-王子サイド-

 どうしてこうなった。

 俺はクーデターを成功させたのではなかったか。

 正論ばかり言い続ける父を排除し、王位に座った。

 家臣たちも喜んでくれた。

 そこまでは良かった。

 どこだ?

 おかしくなったのは。

 そうだ。

 あの時からおかしくなった。


「俺に反抗した貴族のリストを出せ」

「え?」

 俺の要求に、困った顔をする側近。

「おいおい、いつもの用意の良さはどうした?
 すでに用意していると思ったのに。
 お前もクーデターが成功した事で浮かれているのか?」

「いえ、あの、王子?
 反抗した貴族とは、どういった貴族を指し示すのでしょうか?」

「は?
 そんなの決まっている。
 俺が王位に就こうとするのを邪魔したヤツだ」

「それでしたら、いませんよ」

「は?」

「王子は第一王子ですよね?」

「う、うむ」

「他に王子はいませんよね?」

「そうだ」

「ですので、王位を王子が継ぐのは当然。
 大半の貴族たちは今回の件は、王家のお家騒動というか親子喧嘩であって、静観の構えでしたから」

「待て待て。
 王城で軍に抵抗されたが?」

「そりゃ、許可もなく軍を率いて城に攻めかかっていたらそうなるでしょう。
 しかも、開戦の宣誓がアレでしたから」

「アレって……かっこよかっただろう」

「自分の父をよくもまあ、あれだけ罵倒できましたね。
 みんな、引いてましたよ」

「えー……かっこいいと思ったのに」

「事実無根な内容が多数含まれていたので、王子の頭が疑われましたよ?」

「……ひょっとして俺の評判、落ちた?」

「ご安心を。
 落ちるほどありません」

「それで良かったと言うと思ったか!」

「怒鳴っても威厳はありません。
 それで、まとめますが、貴族たちは大半が不参加。
 城で抵抗した者たちも職務に忠実だっただけで、王子に反抗したわけではありません。
 ある意味、王子が反抗したのであって、それに従わなかったからと言われても困るでしょう」

「ごめん、ややこしい。
 もっとわかりやすく言ってくれ」

「王子に敵対したのではなく、王子の行動に正しく対応した結果です」

「誰も俺に逆らってないと?」

「そうです。
 それともなんですか?
 王子がやる事だから、全員が頭を下げて受け入れろと?
 王を守っている立場の者に、それは酷な仕打ちでしょう」

「む、むう」

「ご納得いただけたようで、感謝します」

「納得したわけではないがな。
 わかった……じゃあ、アレだ。
 不正を働いている貴族のリストだ。
 それを寄越せ」

「はっ」

「おお、これはちゃんと用意していたな。
 ……って、これは俺を支援してくれた貴族のリストだぞ?
 間違えるなんて疲れているのか?」

「間違えていません」

「……え?」

「え?
 じゃありませんよ。
 王を交代する事にメリットがある者って、そういった方々に決まっているじゃないですか」

「……」

 父は常に財政が危ないと言っていた。

 だが、俺には解決策があった。

 貴族から搾り取ることだ。

 いや、貴族を潰して財産を没収することだ。

 俺だって馬鹿じゃない。

 罪のない貴族を潰したりはしない。

 潰すのは罪ある貴族だ。

 何度も父に提案したが、受け入れてくれなかった。

 鼻で笑われた。

 だからクーデターを起こしたのに……

「えっと、現在の国の収支はどうなっているかな?」

「こちらに」

 見るのも嫌になるぐらいの書類が積まれていた。

「冗談だろ?」

「いえ、本気です。
 これでも選びましたよ」

「……ひ、一言で頼む」

「財政は苦しいです。
 王子の手腕に期待しております」


 それ以降、俺は書類に埋もれている。

 紙って貴重じゃなかったっけ?

 こんなにあると、貴重じゃないと思えるが……

 貴重なんだよな。

 その貴重な紙を使って、俺へのサインを求めてる。

 それだけの案件ということだ。

 だから俺は頑張る。

 しかし、処理しても処理した分以上の書類が運び込まれる。

 これはなんだ?

 父の嫌がらせか?

「先王は軽くこなしていましたよ」

 ……くっ。

「王になれば毎日パーティーに出るだけで楽しめると思ったのに」

「そんなワケないでしょうが……出なければいけないパーティーはあります。
 それまでにこの書類の山を崩してください」

「ぐぬぬぬぬ」

「読まずにサインは駄目ですよ。
 チェック用の書類を紛れ込ませていますからね」

「うぉいっ、俺の仕事を邪魔する気か?」

「いえ、私の休暇申請書です。
 一年ぐらい休む予定なので、よろしくお願いしますねー」

「ちょ、お、おまっ、今、お前がいなくなったら……」

「やれる、王子ならやれますよ!」

「やれねぇよ!
 つか、休んだらぶっ殺すからな!」

「はははははっ」

 くっ。

 側近が俺をいじめる。

 父もこうだったのだろうか。




「今、なんて?」

「先王が幽閉先から姿を消しました」

「見張りは何をしていた?
 一緒にいた母は?」

「えっと……その幽閉先にいた先王、先王妃を含め五十二人が一斉に姿を消しました」

 ……!

 ひょっとして、それは噂になった剣聖の村の事件と同じ?

「いえ、違います。
 書置きが残されていました。
 自由の為に旅立つので、あとは任せたと」

「父の字か?」

「はい。
 間違いありません。
 いかが致しましょう?」

「……追え」

「え?」

「追って連れ戻せ!
 父だけ自由になるなんて許さん!」




「先王一行は魔王国へ入国しました。
 軍による追跡は不可能と判断し、密偵を送り込みました。
 これは一ヶ月前の情報です」

「くっ。
 なぜ、そんなやっかいな場所に」

「王子の手から逃れるには最善の場所です。
 さすがは不敗王」

「父をその名で呼ぶな。
 戦わぬ腰抜けなだけだ」

「はいはい。
 わかりましたよ。
 それで、密偵からの連絡ですが……現在、先王一向はシャシャートの街に拠点を構えたようです」

「最近、食べ物が美味しいと評判になっている街だったな」

「はい。
 そこで……えっと、猛虎魔王軍に入団」

「魔王軍に入ったのか!」

「いえ、野球なる球技のチームのようです」

「球技?」

「はい。
 一チーム九人で行う球技で、シャシャートの街で人気でいくつもチームができているそうです。
 猛虎魔王軍も、そのチームの一つです」

「なるほど」

「そこで先王はキャッチャーで四番打者だそうです」

「……それは凄いのか?」

「キャッチャーは守備のかなめとなるポジションのようですね。
 四番打者は……攻撃の要でいいのでしょうか?
 どの試合でも大活躍だそうです」

「つまり、遊びにきょうじていると?」

「そうとも言えませんね。
 そのチームの監督、魔王ですから」

「……え?」

「国政で忙しいので十日に一回ぐらいしか参加できないようですが、魔王が監督です」

「監督というのは……つまり?」

「チームを指揮する者ですね」

「わけがわからない」

「私もです。
 あと、他国のリタイヤ組の姿が多数確認できたそうです」

「リタイヤ組?」

「先王のように強制的に退位させられた者や、王位継承争いで敗れた王子などですね」

「それらが魔王の指揮するチームにいると?」

「いえ、大半が他チームのようです。
 魚介カレー軍とピザ至高軍に多いみたいですね」

「……」

「あ、あと、先の王妃様は……なんでも舞台に夢中だそうです」

「舞台?
 そう言えば、母は演劇を見るのが好きだったな。
 また資金支援でもしているのか?」

「いえ、自分で出演しているようです。
 近隣のご婦人方に混じって……」

「……」

「どうします?」

「どうしますとは?」

「いえ、その、見張りを続けますか?」

「当然だ。
 そして、この手紙を届けてもらおう」

「手紙?
 内容は?」

「俺からの謝罪と、王位に復帰して欲しいとお願いする内容だ」

「さすがにそれで帰ってくるほど、先王もお人よしではないかと……
 普通、罠を疑いますよ」

「僅かだろうとも、これに賭ける!
 でなければ、国が、国が維持できん!」

「王が仕事を頑張ればいいだけですよ。
 さあ、頑張って!」

「うぐぐっ。
 そうだ!
 俺の子がいた!
 今年で十歳のはずだ!」

「……まさか?」

「父が王位を継いだのもその歳と聞いている。
 ふふふ」

「王、ご乱心!
 衛兵、殴って止めろ!
 遠慮はいらん。
 そうだ。
 右フック、右フック!
 いいぞ、そこで左だ!」

「なめるなぁっ!
 うおっ、馬鹿なっ、ふぐっ、ぐへぇぇっ!」

「はい。
 ご苦労様。
 衛兵、下がってよし。
 そして王。
 残念ですがあと十年は頑張ってください」

「ううっ……遠慮なく殴られた。
 王なのに」

「王ですよね。
 王子に放り投げないように」

「……ひょっとしてお前、クーデターの時、相談しなかったのをまだ怒っているのか?」

「ははは。
 当日に聞かされましたからね。
 先王に頭を下げられていなかったら、ここにいませんよ」

「父がお前に?」

「ええ。
 ですから、ここにいます。
 頑張ってください」

「ちなみにだが、先に相談していたらどうしてた?」

「先王のところに駆け込んで密告します。
 こうなるのが目に見えてましたから」

「なるほど。
 だから、貴族連中がお前には相談するなって言ったのか」

「忠告は、言った者の真意まで見抜いてから従うようにしてください。
 あと、来週から私は休暇に入ります。
 先王に挨拶に行きますから、謝罪の手紙は私から渡しましょう」

「え?
 休暇って……」

「サイン、ありがとうございます。
 ご安心を。
 たった一ヶ月ほどですから」

「待て待て待て!
 俺が悪かったからぁ!」



 平和な国の王の話。



クリスマスにちなんだ話にしようとして、駄目だった……すまぬ。
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