雛
早朝。
創造神と農業神の像のある社。
最初に見た時の感想は、太った鳥だった。
雛らしさのない、ただ丸々と太った鳥。
バレーボールぐらいの大きさだ。
本当に孵ったばかりなのだろうか?
そうなのだろうな。
傍には、砕けた卵の殻がある。
赤、白、オレンジ、ピンクのマーブル模様だから、間違いない。
これがフェニックスの卵から孵った雛なのだろう。
縁起物として飾っていただけなのに、ちゃんと孵るとはたくましい……
だが、フェニックス?
俺のイメージとは全然違うな。
毛の色もピンクだし。
……
まあ、とりあえず農業神の像の上から降りるように。
そこで糞をしたら怒るからな。
俺の言葉を聞いて、雛は農業神の頭の上で一鳴き。
そして、その場から動かずに小さい翼を広げて俺に見せた。
……
それは絶対に降りないという意思表明かな?
……
なるほど。
なるほどなるほど。
俺は両手で雛を持ち上げ、地面に降ろす。
はははは。
なかなか雄々しかったが、もう少し力をつけてからだな。
悔しそうな雛の鳴き声を聞きながら、俺は農業神の像に汚れがないかチェック。
問題なさそう。
孵ったばかりだから、糞とかしないのかな?
というか、孵ったばかりなのにどうやってこの像の上に登ったんだ?
あ、飛べるのね。
速度は遅いけど。
あー、登らない登らない。
専用の止まり木を作ってやるから。
雛を連れて屋敷に戻ると、驚かれた。
だろうな。
孵ったことにも驚いたが、これがフェニックスの雛とは思えないもんな。
アルフレートとティゼルが触りたがったが、その前にフェニックスの雛の成育に関してルーに確認。
「フェニックスは勝手に育つわよ」
フェニックスは生命力が強く、百年ぐらい絶食しても平気、再生能力もある。
特に世話をしなくても育つらしい。
……
世話、いらないか?
俺がそう目で聞くと、雛は急に可愛らしく鳴いて媚びてきた。
先ほどの雄々しさはどうした?
そんなものより食事が大事。
そうか。
孵ったばかりなのに、悟っているんだな。
いや、本能に忠実ってことかな?
とりあえず、アルフレートとティゼルに雛をパス。
俺は雛の食べそうな物を探してくる。
世話いらずという意味がなんとなくわかった。
雛はなんでも食べた。
一応、好みはある?
収穫前の米ね。
雀っぽい。
怒るな怒るな。
ちゃんと用意してやるから。
ただ、畑に直接手を出したら、怒るからな。
理解したか?
よろしい。
ん?
なんだ?
ザブトンの子供が集団でやってきたと思ったら、一匹が雛の前に出た。
雛も何かを察したのか、翼を広げてザブトンの子供の前で威嚇。
そして、雛とザブトンの子供のファイトが始まった。
急にどうしたと思ったが、気付いた。
鳥って虫を食べるよな。
……
うおおおいっ!
ちょっと待てぇ!
俺のストップは遅かった。
糸でグルグル巻きにされた雛の上で、ザブトンの子供が勝利のポーズを取っていた。
あー、えーっと……凄いぞ。
そして、雛を解放してやってくれ。
雛よ。
忠告だ。
ザブトンの子供を狙うのは許さない。
米ならいくらでも用意してやるから。
ザブトンの子供たちも、狙われたら遠慮なく反撃していい。
ただ、お前たちから攻撃するのは止めてやってくれ。
ザブトンの子供たちは足を振って、了解を示してくれた。
よしよし。
雛は?
不貞腐れない。
ほら、キャベツの葉だ。
好きだろ……俺の手ごと突っつかない。
まったく。
まあ、雛も了解したようだ。
仲良くやっていくように。
数時間後。
子猫たちに追いかけられる雛の姿があった。
あー……
待てといって待つ子猫たちじゃないか。
アン、頼む。
止めた後、雛を襲わないように言ってやってくれ。
フェニックスの雛の名前が決められた。
アイギス。
俺は雛子とか、フェニ子、フェニ太郎と提案したのだが、雛は気に入らなかったようだ。
アルフレートが提案したアイギスに決まった。
名前の元ネタは、始祖さんのお話かららしい。
神様の名前かな?
そう言えば、このアイギスは雄なのだろうか、雌なのだろうか?
誰も見分け方を知らないようだ。
「もう少し成長すれば、特徴が出るかと」
なるほど。
アルフレートより、ティゼルの方にばかり擦り寄っているな。
でもって、俺よりもルーやティアの方に……
……
正確にわかるまでは、雄ということで。
余談。
俺がアイギスの為の鳥小屋を作っている時、ルーが耳打ちしてきた。
「フェニックスの羽って、高級素材なのよ。
雛の羽でも大丈夫だから、掃除の時に落ちてても捨てないでね」
……
自分の食い扶持を自分で稼いでいる鳥と考えよう。
うん。




