冬の温泉地の様子
昼だけど、温泉に入る。
……
ふひぃ~。
寒い冬に入る温泉は、芯から温まる。
目の前には、ライオンの家族。
ここは男湯のはずだけど、雄雌は気にしないようだ。
俺はライオンの子供の背中を撫でる。
出会った時は小さかったのに、今はほぼ親と同じぐらいになっている。
タテガミがないから雌なのだろう。
ああ、はいはい。
お前たちもね。
他のライオンの子が、私も背中を撫でて欲しいと寄ってくる。
構わないが、やっぱりでかくなったな。
なかなかの圧迫感。
一頭ずつだぞ。
俺も休みに来ているんだから。
子ライオンの背中を撫でている俺の横には、リラックスした死霊騎士がゆったりと湯船に浸かっている。
頭の上にタオルを乗せるのは、誰に教えてもらったのだろうか?
少し離れた場所で、全長三メートルぐらいになった地竜ことダンジョンウォーカーが潜っていたりする。
息が続くのかなと心配したけど、数日間潜っていても大丈夫らしい。
亀みたいな感じなのかな?
ダンジョン内にずっといるものだと思っていたら、時々、温泉地に来て潜っているそうだ。
一応、引率としてアラクネのアラコが同行。
普段は一緒に入っているらしいけど、今は俺がいるのでアラコは女湯に。
というか、それなら地竜も女湯にいけば良いのでは?
この地竜が雄か雌か知らないけど?
気にしないでくださいとアラコが言っていたので、気にしないけど。
ん?
地竜が頭だけだして……きょろきょろ。
アラコを探しているのかな?
俺が女湯の方を指差すと、理解したのかそっちに向かって泳いでいった。
なかなか速い。
地竜がいなくなった場所に、クロの子供が飛び込んだ。
一頭が飛び込むと、次々に入ってくる。
こらこら。
プールじゃないんだから、静かに入りなさい。
泳がない。
子ライオンの列に割り込まない。
順番を守るように。
お前達が一番だから。
拗ねないの。
温泉に飛び込んで来たのは今年生まれのクロの子供たち。
生まれた時にくらべれば身体はかなり大きくなったが、心はまだまだ子供。
やんちゃで暴れたい盛り。
さっきまで、温泉地周辺で大人に混じって狩りをしていた。
温泉地に来たということは、一段落したのかな?
俺のいる男湯に飛び込む前に、ライオン用に作った身体を洗う為の湯に入って、泥は落としてきているみたいだ。
お湯は綺麗にしないとな。
少し遅れて、子供たちを引率していたクロの子供たちがやってきた。
うん、お前達は静かに入るな。
よしよし。
そして、ご苦労様。
獲物は狩れたか?
……
パニックカリブーを一頭、仕留めた?
よくやった。
後で褒めてやろう。
今は子ライオンを撫でているからな。
お前たちは賢いな。
黙って列を作るか。
だが、わざわざ温泉の中で並ぶ必要はないんだぞ。
そこ、深いだろ?
ほら、鼻先しか出てないじゃないか。
耳にお湯が入るの、苦手だろ?
無理しなくていいから。
わかった。
並ぶならこっち側で……
子ライオンを撫でた後、クロの子供たちを撫でてやった。
俺は頑張った。
ん?
ああ、お前がパニックカリブーを見つけたのか?
今年生まれの子供の一頭が自慢気な顔をしている。
わかったわかった。
お腹をワシャワシャしてやろう。
……
もう一回、列が形成されてしまった。
えーっと……
わかった。
期待した目で見ないでくれ。
頑張るから。
こっちに来ている数が少なくてよかった。
……
子ライオンはわかるけど、死霊騎士たちは並んでどうする気だ?
お前たちのあばら骨をワシャワシャするのは嫌だぞ。
俺が温泉地に来た目的は、温泉に入る事だけではない。
いや、ライオン一家に野菜を渡したり、温泉地の施設の補修などあるが、今回の本命は温泉地で転移門の管理をしているアサ=フォーグマ。
彼と話をすることだ。
話の内容は、簡単に言えば転移門の管理の期間に関して。
俺としては、一つの仕事を専門にお願いするのが喜ばれるかと思っていたのだが、どうもベルやゴウと話をするとそうではないらしい。
ミヨに話を聞いても、色々とやれる方が良いとのこと。
そんな話の中で、アサは大丈夫なのかという話になった。
とりあえず、当人抜きで話し合っても無益だったので、話を聞きにきたのだ。
結論。
特に問題はないとのこと。
転移門の管理者といっても転移門に張り付いているワケではない。
定期的に転移門がちゃんと動いているかどうかのチェック。
初めて使用する者に対してのルールやマナーの説明。
転移門使用者の通行記録。
上記の三つさえやってくれたら、後は自由だ。
ライオン一家や死霊騎士も協力しているので、比較的楽にやれているそうだ。
転移門小屋に併設されたアサの自室を見て納得。
趣味満載の部屋だ。
今は釣りに嵌っているみたいだ。
手作りの竿が何本もある。
釣りをしている最中も、子ライオンか、この温泉地を警備しているクロの子供たちが一緒なので安全と。
「転移門を使えば、大樹の村や五村にすぐに行けますので、困ることはありません。
お気遣い、ありがとうございます」
なるほど。
「私より、フタの方が少し心配です」
「ん?」
「五村では、ヒー、ロク、ナナが村長代行の下で精力的に働いていると聞いています。
転移門の管理だけのフタが、不満ではないかと」
「ああ、それは大丈夫だ。
本人から進言された」
「本人から?
フタが失礼しました。
申し訳ありません」
「気にするな。
不満を持って仕事をされるより良い」
「そうですか。
それで、どうなったのですか?」
「ミヨが笑顔で書類仕事を手伝わせている。
転移門の管理も同時にさせながら」
「……」
「書類仕事に対して人手が足りないのは、俺の不手際だ。
ビッグルーフ・シャシャートと五村が俺の予想を遥かに超えて書類仕事を生み出していた。
対策を講じているから、春ぐらいからは楽になるはずだ。
フタもその頃には解放されるだろう」
多分。
「そうですか。
喜ばしいことです。
……ごほん。
話は変わりますが、ゴウとホリー様の仲に関して、情報があればいただけると」
「ゴウの恋路に興味があるのか?」
それとも、アサもホリーを狙っていたとか?
「素敵な女性ですが、邪魔はしません。
素直にゴウの幸せを願ってですよ。
ホリー様が絡むと、ゴウの口がどうにも堅くて」
「確かにな。
しかし、それはホリーも同じでな。
文通みたいなことをやっているようではあるのだが……」
「文通。
それは聞いていない話です。
ベルに見張るようにお願いしておきましょう」
「盗み読みは駄目だぞ」
「もちろんです。
先ほども言いましたが、素直にゴウの幸せを願ってです」
「本音は?」
「ははは。
んー……何をのろのろと、もっと積極的になれ!
と言いたくはありますが、恋の速度は個人で違いますから。
見守りますよ」
ただ、アドバイスをさせてくれたらなぁと呟くアサだった。
恋愛話とか好きなのだろうか?
ゴウの奥手ぶりの例をあげ、嘆いている。
いや、実年齢は知らないが、見た目が年配者のカップルなんだから、生々しいのはどうかと思うぞ。
「ああ、そうでした。
村長はベルのことをどう思っています?」
いかん、矛先がこっちに向いた。
即時撤退。
夕食の準備をしよう。
もちろん、パニックカリブーの角を使った料理だ。
独り占めなんかはしないぞ。
夕食のタイミングで、女性陣が温泉地に来る予定。
それなりに賑やかな夕食を温泉地で楽しんだ。




