竜族の話
ドラゴンにも色々ある。
まず、竜族の頂点に君臨するのが、神代竜族。
神によって生み出され、神の時代を生き、そして今まで血脈を受け継いでいる。
神話に出てくる竜は、全部これ。
ただ、神代竜族は十二の血統があったのだけど、今は半分も残っていないらしい。
現在、ヒイチロウ、ラナノーンを含めても世界で五十頭もいないそうだ。
「しかも、大半が爺、婆でな。
どこかに隠れて寝ておる」
そう説明してくれるのが神代竜族の長、ドース。
ヒイチロウを抱えて、ご満悦顔だ。
その神代竜族の下に、混代竜族。
神の時代の後に生まれた血統の竜族。
炎竜族、水竜族、氷竜族、風竜族、大地竜族などが有名。
種族ごとに得意不得意が明確にあり、縄張り意識も強い。
また、強い竜は神代竜族に匹敵するが、弱い竜は本当に弱い。
頭脳も個体によってまちまちで、賢く温和なのもいれば、馬鹿で乱暴者もいる。
そんな混代竜族が、世界に二百頭ぐらいいるそうだ。
そして、その混代竜族の大半が、神代竜族の下についている。
正確には、血統ではなく個人に。
例えば炎竜族はハクレンの妹のセキレン個人に従っている。
なので、ドースが命令しても炎竜族は言う事をきかない。
聞くのはセキレンからの命令だけだ。
まあ、命令じゃなくてお願いぐらいなら聞くこともあるそうだが。
他に、水竜族、氷竜族、風竜族はライメイレンに。
大地竜族はハクレンの妹のスイレンの旦那、マークスベルガークに従っているそうだ。
なるほど。
……
ドースに従うのはいないのか?
「ヒイチロウがいれば十分」
ムフーっと鼻息荒く言われても。
混代竜族が全部まとまってもドースには勝てないので、どうでもいいというのが本音らしい。
横にいるドライムがそう教えてくれた。
混代竜族を従える竜は、基本的には面倒見の良い竜が多いそうだ。
ライメイレン、セキレン、マークスベルガーク……
なるほど。
神代竜族、混代竜族以外に、有名なのが色竜族。
赤竜族、青竜族、黄竜族、緑竜族、黒竜族などがそれにあたる。
これは数えられないぐらいいる。
正確には、統制が取れていないので数えられない。
ドースたちも、特に興味はないので詳しくは知らないそうだ。
その程度の力しかないらしい。
一応、世界で一万頭~二万頭ぐらいかなと言われている。
群を作ったり、個々に活動したりと色々やっている。
神代竜族、混代竜族に従う種族もいれば、敵対する種族もいたりする。
本当に様々なので、色竜だからこうとは言えないらしい。
竜族という時、神代竜族、混代竜族、色竜族の三つをまとめて指す事が多い。
ただ、竜という名は力の象徴であり、強い種族にはよく付けられたりする。
ストーンドラゴン、ロックドラゴン、ニードルドラゴン、サークルドラゴン、シードラゴン……
その名前から、竜族と勘違いする例も多々あるそうだ。
大樹のダンジョンにいるダンジョンウォーカーも、一部地域では地竜と呼ばれるそうだしな。
俺だって、ワイバーンを竜族の一種と考えたこともある。
まあ、竜族は他の種族に竜の名が使われても気にしない。
本当に気にしない。
実害があれば滅ぼせば良いというスタイルらしい。
なので、実害がないなら放置が基本。
しかし、世の中には気にする者がいる。
それは竜族ではなく、竜族を信奉する者。
信奉対象に勝手に入られては困るということなのだろう。
過激な者は、エセ竜族を滅ぼせとばかりに行動する。
そんな行動も竜族はまったく気にしないのだが、今回は事情が違った。
事の発端は、アンダードラゴン。
話の流れからわかると思うが、このアンダードラゴンは、竜族とまるっきり関係がない。
一言であらわすなら、鱗の少ないリザードマン種で亜人の一種だ。
暴れ者で嫌われ者。
このアンダードラゴンが、赤竜族の子供をさらった。
目的は、信仰の対象とする為。
竜族の強さにあやかろうとしたのだ。
ブチ切れたのが、赤竜族と竜族を信奉する種族。
まず、竜族を信奉する種族が圧倒的多数でアンダードラゴンの集落を襲い、赤竜族の子供を救出した。
ここまではよかった。
悪かったのは、不運にも救出時に赤竜族の子が怪我をした。
子をさらわれた上に、怪我をさせられたとなって赤竜族はさらに激怒。
アンダードラゴンは当然として、救出した竜族を信奉する種族も滅ぼす勢いで暴れそうになった。
止めたのが近くにいた風竜の一頭。
しかし、赤竜族の怒りは収まりそうにない。
風竜なら赤竜族を滅ぼして終わらせることもできるが、事情が事情なのでと対策を考えた。
結果、ライメイレンが呼ばれた。
連絡方法は伝言ゲーム。
最終伝言者は悪魔族のグッチ。
ライメイレンとしては、そんなことよりも抱えているヒイチロウの方が大事なので無視したが……
グッチは頑張った。
本当に頑張った。
「ヒイチロウ様が大きくなった時、ライメイレン様の活躍を聞きたいと思うのですが?」
「私の活躍なら何百とある」
「いつの話をするつもりで?
聞く話が全て生まれる前ではヒイチロウ様も実感しにくいでしょう。
それよりも、ヒイチロウ様が一歳の時、こんな事があったのよ、と話される方が喜ばれるのではないかと」
なんとか説得。
ただし、ライメイレンが出発したのはドースとドライムを呼び寄せ、ヒイチロウを万全の体制で守ってから。
えっと……本当の母親であるハクレンが近くにいるんだけど?
まあ、ドースが喜んでいるからいいか。
ドライムの方は、ラスティとラナノーンの方が気になっているみたいだけど。
ということで、今はライメイレンの代わりにドースとドライムがいる。
ドースがかなりヒイチロウを甘やかしているが……
ライメイレンが帰ってきた時に揉めないよな。
頼むぞ。
ああ、忘れていた。
ドースに頼みがあるんだが、いいか?
実は少し前から、ライメイレンがヒイチロウの世話をする時に凄く若い姿になる。
外見年齢が自由自在なのはわかっている。
そこに驚いたりはしない。
最初見た時、誰だって思ったけど。
ただ、どうも“ばーば”ではなく、“かーたん”と呼ばせようと狙っているようなんだ。
ハクレンが気付く前に止めさせ……なぜ、その手があったかみたいな顔をしている。
あ、こら、若い姿になるんじゃない!
くっ、腹立たしいほどのイケメン!
だが、ヒイチロウの“とーたん”は俺だぞ!
余談だが、炎竜族がセキレンに従っていることを一般人は知らない。
なので、一般人はセキレンのことを炎竜族の最上位個体として認識。
セキレンは火炎竜と呼ばれているそうだ。
ちなみに、当人はそう呼ばれている事に関して、特に気にしていない。
もう一つ、余談。
色竜族に、白竜族はいない。
遥か昔、白い神代竜によって、紛らわしいと滅ぼされたそうだ。
その白い神代竜の血統の末に、ドライムの奥さんであるグラッファルーンがいる。
彼女は白竜姫と呼ばれているそうだ。
ライメイレンが帰ってきた後、ドースと一戦あった。
平和的にとお願いしたので、被害は少ない。
だが、その戦いをウルザとグラルがめっちゃ喜んでいた。
教育に悪いなぁ。
あー興奮し過ぎないように。
家に戻るぞ。
もうすぐ夕食だからな。
戦いの練習なら、明日にでもガルフとかダガに頼んだらいいんじゃないかな。
わかった。
俺も参加するから。
今日は大人しく家に戻るんだ。
これ以上抵抗するならハクレンに……
ハクレンの名を出すと素直だな。
複雑な気分だぞ。
夕食後。
ションボリするドースを宥めつつ、ラスティ、ラナノーンとドライムの間を取り持つ。
ラスティも俺が言えば、ラナノーンをドライムに預けてくれる。
……待て、ドライム。
持ち方。
大丈夫か?
ラスティの時、どうしていたんだ?
ある程度大きくなるまで、任せてもらえなかったと……
なるほど。
ラスティがラナノーン関連で、ドライムを邪険にするのもその辺りか。
あー……俺もあまり威張れないが、小さい子の抱き方はだな……
親子の交流だった。
ん?
ドースもラナノーンを抱っこしたいのか?
構わないが、ラナノーンに対してはヒイチロウほど執着していないよな?
孫には遠慮しないけど、曾孫には遠慮があるとかそんな感じか?
そんな感じらしい。
あと、ラスティが怖い?
こんなに可愛いのに?
そう言ったら、ラスティに叩かれた。