作戦
悩んだら、相談。
俺はガルフとダガを連れて大樹の村に戻り、手の空いている者に声を掛けて相談した。
どうにかしよう案、その一。
始祖さん、魔王に頼んで外圧の強化。
「さすがに厳しいかと」
始祖さんは、教会系には強くはあるがフルハルト王国に直接意見がいえる立場にない。
いや、行けばそれなりの扱いをされるはずだけど、意見を言っても無視される確率が高い。
フルハルト王国というかフルハルト王家と教会の仲は良いが、それは互いに不干渉だから。
勇者関連で珍しく協調はしているらしいけど、始祖さんが行ってもどうしようもないと思われる。
魔王にいたっては、戦争中の相手。
そこからの意見など、聞くはずもない。
いや、その話を進める上で戦略上の譲歩などを迫られたら、責任が持てない。
新たな火種になる可能性もある。
提案者、俺。
否定者、フラウ、文官娘衆、フラシアを可愛がりに来ていたビーゼル。
どうにかしよう案、その二。
始祖さんかビーゼルが道場に侵入、弟子たちを転移魔法で脱出させる。
「弟子は百人前後ですけど、配偶者や子供がいて全員で三百人になります。
全員が脱出で意思統一が出来たとしても、短時間では厳しいですね」
「潜入がバレるとかなりまずいかと。
コーリン教のトップか、魔王国の四天王の一人ですから」
提案者、フラウ。
否定者、ガルフ、ダガ、フラシアを可愛がりに来ていたビーゼル。
どうにかしよう案、その三。
ドラゴンが突っ込んでドーン。
「確実ですな」
「いいアイディアです」
「問題ありません」
提案者、ハクレン。
賛成者、多数。
賛成者多数だが、駄目だと思う。
今更、悪評の一つや二つが増えたところ困らないそうだが、さすがにそんな迷惑を掛けるワケにはいかない。
第一、万が一がありえる。
フルハルト王国には勇者が関わっていると、色々な人に聞かされているしな。
関わりたくない。
となれば、どうすれば良いのか?
もう少し、詳しい情報が必要だな。
俺とガルフとダガは五村に戻り、ピリカに話を……ピリカは?
ピリカの姿が見えない。
ピリカは一人、五村で休んでいる筈だが……
……!
まさか、俺達に迷惑をかけられないと一人で……
発見。
アラクネのアラコによって糸で簀巻きにされていた。
「えっと、これは?」
俺はアラコに事情を聞いた。
ピリカは建設の手伝いをしたいと申し出て来たのだけど、ザブトンの子供たちの姿を見て気絶。
目が覚めた後、斬りかかってきたので簀巻きに……わかった。
ザブトンの子供たちに怪我はないか?
アラコも?
よかった。
ピリカには、こっちには近付かないように言っていたのだけどな。
言い方が甘かったのかもしれない。
すまなかった。
とりあえず……簀巻き状態のピリカを建設現場から遠ざける。
そして……武器を取り上げてから、解放。
「あ、あ、あれは……」
わかりやすくパニックになっているな。
まずは落ち着かせて……
水でも飲め。
深呼吸。
「デーモンスパイダーの幼生体が群れていたのですが、あれはなんですか?」
「俺の家族だ」
「家族……ですか?」
「そうだ。
これまで、俺を色々と助けてくれた」
「し、しかし、あれは……」
興奮するピリカをガルフが抑えた。
「お前は今、死んでいるか?」
「え?」
「死んでいるか?」
「い、いえ、生きています」
「つまり、そういうことだ」
「……」
どういうことだ?
よくわからないが、ピリカは納得したようだ。
「村長さんのご家族に剣を向けてしまい、申し訳ありません」
「あ、いや、わかってもらえたらいい」
ピリカはそれから何度か俺に頭を下げた後、ガルフとダガと一緒にザブトンの子供たちに謝りにいった。
……
悪い子ではないのだろう。
まあ、ザブトンの子供たちは、見た目が蜘蛛だからな。
怖いと思う人には怖いか。
文官娘衆たちにも言われていた。
周りが怯えるから、連れて行かない方がいいと。
ちょっと反省。
ザブトンの子供たちに、怖い思いをさせてしまった。
今度、ジャガイモで何か作ってやろう。
ピリカから話を詳しく聞く。
道場で人質になっている弟子の数は、正確には百二人。
年齢が二十歳から四十歳ぐらいの男女。
十年ぐらい前から、ピリカと共に道場で修業を続けている。
道場は山奥にあり、ほぼ独立した村のような状態。
それゆえ、弟子の配偶者や子供たちも一緒に生活をしている。
なるほど。
「王国から脱出させることが可能になった場合、全員が賛同するか?」
「正直、半分ぐらいかと」
「そうなのか?」
進んで人質である道を選ぶのか?
「私も含め、道場では剣術を中心に学びます。
他にも色々とやっていますが……道場を出た後の生活の手段がないのです」
王国から生活費をもらっている状態だそうだ。
額は多くないが、それで生活を続けてきた。
「剣で稼ぐのは?」
剣を教えるとか、冒険者になるとか、色々あるように思えるが……
「何人かは可能だと思いますが……私もそうなのですが、対人に特化し過ぎていて」
そう言えば、シャシャートの街の武闘会で準優勝。
優勝者に負けたということだが……
「決勝の相手は剣と魔法の融合術でしたので」
剣と魔法の融合術?
よくわからない。
あとでガルフに聞こう。
とりあえず、話を色々聞いてまとめると……
脱出したいけど、脱出後の生活に不安があるので踏ん切りが付かない弟子が多い。
保護してくれそうな国に打診をしたけど、フルハルト王国との揉め事を嫌って手があがらない。
脱出するなら、道場で生活している全員で。
……
「そういや、強くならないといけないと言っていたが、何かあるのか?」
「詳しくはわからないのですが、急に力をつけろと言われまして……
外に出る許可と、二年の期間を」
「見張りとかは?」
「いえ、いません」
?
どういうことだ?
そんな風にいう王国なら、絶対に見張りを同行させると思うが?
いや、同行させずに見張る方法をとるかな。
となると……
俺はガルフをみた。
「見張りはいました。
五人ほど。
けど、ピリカがシャシャートの街の冒険者登録をしている時に、他の冒険者たちに絡まれて……船に無理矢理乗せられて帰ったかと」
「え?」
「新人のピリカにまとわりつく、変な人と思ったらしく。
ただ、それをやった冒険者たちが、ひょっとしてピリカを心配した親御さんの手配した護衛だった可能性に行き着き、俺に相談を」
それでピリカに声を掛けたのが切っ掛け。
さらにその後、武闘会で勇姿を見てと……
なるほど。
なるほどなるほど。
「ちょ、なにをニヤニヤしているんですか!」
「なんでもない。
だが、これは先輩としてのアドバイスだ。
夜は頑張れ。
そして公平にだ」
「え?
あ、そ、そんな気は欠片もないですから!
俺は一人で十分です」
ははは。
俺もそう言ったけど、いつの間にかなー。
ちょっとだけガルフをからかい、笑った。
しかし、本当にどうしたものか。