夏の暑さに
09/14 最後、ちょっと修正しました。
夏。
暑くなってきた。
冬に作った雪山もかなり小さくなった。
でも、雪山の近くは涼しい。
だからだろう。
村の獣たちは雪山の近くによくいる。
まず山羊。
脱走してきたのか?
村の外に出る勇気はないのに、ここに来るのは大したものだ。
しかも群で。
ちゃんと夜になったら帰るんだぞ。
馬。
おいおい、一家で何をしているのかな?
暑いのはわかるが、勝手に出てきちゃ駄目だろ。
キリッとした顔をしても誤魔化されないぞ。
夜になったら帰るように。
クロの子供達。
……
非番なんだな。
ならばよし。
九尾狐のヨウコ。
なにやってるの?
「ここ、涼しいから」
ヨウコは狐の姿のまま、返事をする。
「屋敷に設置した、涼しい空気が出る場所は?」
「あそこは猫達が占領してる」
「ダンジョンは?
あそこも涼しいだろ?」
「できればあそこには行きたくない」
「えーっと……」
「夜、涼しくなったら森に行って狩りをする。
サボっているわけではない」
「いや、責めているわけじゃないんだけどな。
なるべく早く、涼しい空気が出る装置を増やすよ」
「頼む」
……
「まだ何かあるのか?」
「獣姿だからかもしれないが、外で仰向けはどうなんだろう?」
一瞬、死んでいるのかと思ってしまった。
ハンモックでも作ってやろうか?
いや、網に捉われてもがく姿しか思い浮かばない。
「失礼なことを考えていないか?」
「気のせいだ。
腹を冷やし過ぎるなよ」
俺は屋敷に戻る。
うん、確かに涼しい空気を出す装置の傍は、子猫達が占領している。
子狐のヒトエもいるな。
少し離れてクロとユキ。
そして猫と宝石猫のジュエル。
天井は……ザブトンの子供達が多いな。
えーっと。
ここ、俺の部屋なんだけど?
誰も気にしないようだ。
そうですか。
早くオンオフ機能をつけよう。
俺は屋敷の工房に向かう。
工房では、山エルフたちが涼しい空気を出す装置を作っていた。
熱気に溢れている。
暑い。
涼しい空気を出す装置を作っているのにな。
元はセナの頼みだった。
獣人族の赤ちゃんは、暑さにそれほど強くはない。
強くはないと言っても、この辺りの夏の暑さでどうこうなることはないのだが、セナは心配していた。
気持ちはわかるし、俺も万が一は嫌だ。
なので、エアコンを求めた。
が、原理を知ってても、そう簡単に作れるものではない。
仕方なく、ルーに氷と風の魔道具を作ってもらい、それを組み合わせた簡易なクーラー……いや、扇風機かな? を作った。
欠点、オンオフがない。
風力の調整もできない。
だが、山エルフたちの刺激にはなった。
山エルフたちの作った試作一号、オンオフ機能付き、風力調整可能なタイプはセナの家に取り付けられた。
あとはセナの反応を待ってからと思っていたのだが、希望が殺到。
量産を求められた。
ただ、装置は山エルフたちの頑張りで量産できても、動力である氷と風の魔道具作成はルーに頼るしかない。
現在、三日に一台が限界のようである。
三日に一台が限界なのに、山エルフたちはなにを熱心に作っているのだろうか?
もちろん、改良した装置。
改良に改良を重ね、初期タイプに比べてサイズが倍以上になっている。
昨日よりも大きくなっているな?
小型化とかは考えないのかな?
とりあえず、思いついた機能を詰め込むのは止めた方がいいと思うんだが……
いや、失敗してからが本番みたいな考え方は止めようよ。
これ、風を出す魔道具を三つも使うよな?
ルーが切れるぞ。
そこは俺に任せるって……
ルーが本気で怒ると怖いんだぞ。
本格的な暑さが来る前に、何台かは完成させたいところだ。
夜。
一人の鬼人族メイドがアンに怒られていた。
理由はシンプル。
俺の部屋で涼しい風に当たっているうちに寝てしまったのだ。
それで、少し風邪気味。
そりゃ怒られる。
俺もあの装置には注意している。
なにせずっと涼しい風が出てくるからな。
装置の角度を調整したり、寝る前には外に向けたりと色々やっている。
オンオフの機能はないけど、オフにすることはできる。
ただ、一度オフにすると再びオンにするのが面倒なのだ。
魔道具の稼動による魔石などの消費が気にならないレベルで。
おっと脱線。
アン。
怒るなら元気になってから。
とりあえず、寝かせてやれ。
ルーに薬草……ルーは魔道具に掛かりっきりか。
フローラに薬草を頼もう。
だから、大人しく寝るように。
他の者にうつすなよ。
看病は……俺がやると余計に怒られるな。
すまないが手の空いた者にお願いする。
……
考えてみれば、村で病人は初めてか?
いや、薬は消費されている。
大きい病気がないだけか。
あってもあの鬼人族メイド程度……
鬼人族メイドの大きなクシャミが聞こえた。
お大事に。