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揉め事? いえ、食事会です。


 人が集まれば、仲良くなることもあれば、対立したり喧嘩したりすることもある。


 大樹の村でもそれは同じだ。


 基本的には仲が良いとは思うが、稀に喧嘩が発生する。


 しかし、暴力は駄目。


 俺がそう決めた。


 なので、揉め事の決着方法は、暴力以外になる。


 最近の主流は、腕相撲、相撲、チェス。


 後は、競走、どっちが大きい獲物を狩るか、懸垂など。


 一時、大食い、大飲みで決着をつけようとした者が出たが、さすがに食料を無駄にするのは駄目。


 街のイベントでやる大食い大会などを批判する気はないが、村では食料を大事にしてほしい。


 大飲みに関しては、酒じゃなく水でやったらと言ったら喧嘩していたはずのドワーフ二人が、揃って不満そうだったのは笑った。


 しかし、無駄に飲むのはよろしくない。


 急性アルコール中毒とかの危険もあるしな。


 お酒は美味しく飲もう。






 さて、場所が変われば風習も変わる。


 揉め事の決着方法も色々だ。


 今回、シャシャートの街の漁師と海の種族が揉めた。


 海の種族とは、海を主な生活の場とする種族のことだ。


 代表例が人魚。



 シャシャートの街は海に面しているので、当然ながら港がある。


 その港や船で働くのは、人間や魔族が中心。


 海の種族の姿はあまり見ない。


 ただ、海産物を得るためには海の種族の協力は必須だ。


 例えば魚を獲る場合、人間や魔族は漁船に乗って出港。


 海の種族に魚のいる場所を聞き、魚の追い込みの手伝いをしてもらう。


 さらに、海に住む魔物や魔魚などの接近をいち早く知らせてもらい、難を逃れる。


 魚を獲った人間や魔族は、代金として海の種族が求める物を渡す。


 求める物はお金の時もあれば、鳥や豚、山羊、牛など陸の家畜、後は陸で取れる薬草など。


 大体が月毎に定めており、これまであまり揉めたことはなかった。


 しかし、今回は揉めた。


 海の種族が求める物が、渡せなかったからだ。




「カレーを欲しがっている?」


「どうも港で働く者が噂していたのを聞いていたらしくて……」


 しかし、ビッグルーフ・シャシャートの中にあるカレー屋マルーラはお持ち帰りはやっていない。


 持ち帰ったカレーが原因で食中毒など起こされては困ると、俺が駄目だと指示しているからだ。


 海の種族にそれを説明し、食べにいくなら問題ないと伝えたらしい。


 しかし、食べに行くには海の種族にしては街の中過ぎる。


 歩けないこともないが、海の種族は基本的には身体が乾くのを好まないそうだ。


 だったら自分たちで作るからレシピや調味料や原材料となったのだが……


 レシピは論外。


 調味料や原材料は値が張る。


 カレー屋マルーラだからこそあの値段なのだ。


 釣り合いが取れないと、漁師たちが難色を示して揉めていると。


 その話が大樹の村の俺に届いたのは、揉めてから数日が経過してからだった。


 連絡は小型ワイバーン便で、揉め事が決着するまで海産物が手に入らなくなったと知らされた。


 ゴロウン商会の海産物も、漁師を通して海の種族にお願いしている。


 特に昆布やカニは海の種族が獲ってくれているのだ。


 本来なら、俺の出る幕などないのだろうが……


 海産物の供給が絶たれた現状は見過ごせない。


 いや、正直に言おう。


 揉め事の決着方法に興味があった。





 俺はシャシャートの街にやってきた。


 ドラゴン姿のハクレンの背に乗っての移動。


 同行者は獣人族のガルフ。


 それと、ルーとティア。


 ガルフはやはりシャシャートの街に慣れているから。


 ルーとティアは、俺が誘った。


 前回、俺だけ行ったのは少し心苦しかったからな。


 次の機会には、リアやアンたちを連れていきたい。




 ドラゴン姿で来訪すると街がパニックになるらしいので、かなり離れた場所に着地。


 事前に連絡しておいたので、迎えに来てくれたゴロウン商会の馬車に乗って街に。


 マイケルさんが用意してくれた宿屋に泊まりつつ、揉め事が決着する日を待った。


 その間、ルーやティア、ハクレンとデートっぽいことをしつつ、ビッグルーフ・シャシャートのお手伝い。


 んー……


 ルーやティアはこの街に来たことがないのに、俺より詳しくないか?


 そんなことはない。


 そうか。


 ビッグルーフ・シャシャートは……従業員、増えたなぁ。






 そして、その日が来た。


 場所は海辺。


 砂浜だな。


 陸側にシャシャートの街の漁師や商人たちが並び、海側に海の種族が並んでいる。


 見物客は、少し離れて見守っているのかと思ったが、意外と近い距離までやってきている。


 まあ、殴り合うワケじゃないからな。



 海の種族は上半身人間で下半身魚の人魚以外に、上半身魚で下半身人間のサハギン。


 珊瑚のような外見の生物は、ニュニュダフネの海生種。


 その横にリザードマンっぽいのがいるなぁと思っていたら、そのままリザードマンだそうだ。


 ただ、海生種なので村にいるリザードマンとは全然違う種族といってもいいらしい。


 この辺りはルーやティアが説明してくれた。



 俺たちは、漁師や商人たちのいる側にいる。


 ただ、俺とガルフは参加するが、ルーやティア、ハクレンは不参加だ。




「では、始めようか」


 海の種族の代表者っぽい老齢の男の人魚が宣言した。


 そして、即座に用意されるテーブル。


 席は十。


 漁師が五人、前に出て座り。


 商人たちからゴロウン商会の仕入れ担当のランディと他二人が前に出て座る。


 残った二つの席に、俺とガルフが座る。


「これより古の定めに従い、我らと街の揉め事を解決する」


 老齢の男の人魚が大袈裟な身振り手振りで周囲に宣言していく。


「お主らが試練を乗り越えたなら、我らは街に従おう」


 これに漁師たちが大きく歓声を上げる。


「試練を乗り越えられぬ場合は、街は我らに従うように」


 これに海の種族たちが大きく歓声を上げた。


 まあ、従うといっても従属ではなく、要求を通すという意味合いだ。



「では、一品目!

 前へ!」


 そして着席した十人の前に並べられる料理。


 そう、海の種族の試練とは、海の種族が出す海産物を食べればいいだけだ。


 なぜこれが試練なのか?


 疑問に思いつつ、変わった海産物が出るとの話なので見物に来たら……漁師側のメンバーが集まらなかったので俺が出ることにした。


 余程のゲテモノが出るのだろうか?


 味の好みがあるので、調味料を使って良いルールなのは助かる。



 まず一品目。


 綺麗な赤身のマグロの切り身。


 ドーンと厚く切られ、三切れ。


 うん、美味い。


 醤油やワサビがなくてもいける。


 おかわりが欲しい。


 いやいや、次の皿があるから腹いっぱいになるのはマズいな。


 ははは。


 さあ、次の皿だと思っていたのだが、周囲の様子がおかしい。


 まず、俺以外の九人。


 漁師五人とランディと商人二人とガルフ。


 震えていた。


「ば、馬鹿な……いきなり生魚って反則だろうが」


「前回は最後の最後に出てきたヤツじゃないか」


 商人二人は切り身を睨んだまま、動かない。


 ランディは思い切って一切れを掴み……荒い呼吸のまま口に運んだ……が、駄目。


 失格。


 ガルフは、泣きそうな顔で俺を見ていた。


 生魚って、そんなに駄目なのか?


 ガルフは自分の切り身を俺に差し出し、失格。


 漁師五人は……二人はなんとか食べた。


 残り三人は、俺に期待する目を見せている。


 うん、俺が頑張るからギブアップでいいぞ。


 商人二人も。


 無理するな。


 美味しい物を美味しそうに食べないのは食に対する冒涜だぞ。


 あー、でも食習慣は難しいか。


 俺だって、食べ慣れていない物を美味しそうに食べろと言われても困るしな。




「ふふふ。

 三人残ったか。

 だが、それも次で終わりよ」


 男の人魚は悪役っぽい事を言いながら、次の皿を出すように指示した。




 二品目。


 生きてるシラス。


 醤油を少々で……うん、ご飯が欲しくなる。


 漁師二人も頑張った。




 三品目。


 ウニ。


 殻は食べなくても良いよな。


 ここで漁師二人がギブアップ。


 残るのは俺だけになった。




 四品目。


 フグ。


「毒は駄目だぞ。

 ちゃんと毒のない場所を出してくれ」


「お主……おくさないのか?」


「フグを断る馬鹿はいない」


 俺がフグを食べると、海の種族たちからも感嘆の声があがる。


「すごい」


「あの魚は私たちだって嫌がるのに……」


 逆に味方であるはずの漁師や商人から悲鳴に近い声があがる。


 なぜだ。




 五品目。


 カニ。


 うん、カニのお刺身、美味い。


 見学していた漁師に気絶者が出たのが納得できない。




「つ、次の皿からは、そちらの希望する調理法で出そう」


「ん?

 いいのか?」


「残念ながら、我が種族でもそのまま食べる者は少ないからな」


「なるほど」


 なかなかのフェア精神。




 六品目。


 イクラ。


 ……


 これをどう調理するんだ?


 フェア精神だと思ったのに。


 醤油を少したらして、そのまま頂く。


 やはり、ご飯が欲しくなる。




 七品目。


 サザエ。


 これは壷焼きで。


 ……


 あれ?


 これはシャシャートの街の屋台で焼いているのを見た気がするが……


「海の種族は、サザエを食べないのか?」


「いや、見た目がグロいから……」


 あー、そう言われるとそうか?


 美味いぞ。




 八品目。


 アワビ。


 一度、干してから戻すともっと美味いんだけどなぁ。


 焼いて食べる。




 九品目。


 ウツボ。


 煮込んでもらった。


 うん、悪くない。




「な、なかなかの猛者であるな」


 いや、食べてるだけだけどな。


「次の皿が最後となるが……さすがのお主でも、これは無理であろう」


 男の人魚が食材の名を告げると、周囲から大きな悲鳴があがった。


 海の種族も嫌がっている者が多い。




 十品目。


 タコ。


「足の一本は刺身で頂こう。

 他の足は揚げ物で。

 頭は……ワタを抜いてから焼いてくれ」


 とても美味しかった。






 こうしてシャシャートの街の漁師と、海の種族の揉め事は決着した。


 前回と同じ内容で、今月も取り引きとなった。


 まあ、ここで試練を乗り越えたからと暴利を貪ると、来月も同じことになると考えたからだろう。


 海の種族がカレーを食べたがった件に関しては、月に一回程度、海辺に出店でみせをすることで決着した。


 これはマルコスとポーラの提案。


 なんでも、海辺だけでなく他の場所でも出店の話があり、今後を考えてやってみたいとのことだ。


 従業員たちの今後も考えているのかな。



 海の種族との揉め事を解決した俺への礼として、漁師や商人たちが金を出し合って海辺に簡単なお店を建ててくれるらしい。


 ありがたいことだ。


 しかし、あの調子でこれまでは大丈夫だったのか?


 悪食あくじきの漁師がいたけど、寿命で……


 なるほど。


 あと、悪食とか言わないように。




 海の種族も、迷惑を掛けたと頭を下げてきた。


 出店費用の話をしてくれたが、それは断って俺は商談を持ちかける。


 もちろん、ゴロウン商会を通してだ。


「出てきた海産物。

 あれを定期的に欲しい。

 シラス、イクラは……まあ、時期があえば。

 ウツボは無理しなくていい。

 マグロ、カニ、サザエ、アワビ、タコはできるだけ。

 フグは……調理できるのがいるかな。

 毒の部分だけ削除できれば……あ、ルーができる?

 魔法がある?

 なるほど。

 じゃあフグも」


 他にイカやトビウオとかあれば嬉しいんだけど。


 え?


 イカは普通に食べるから、漁師たちが獲ってる?


 それなのにタコは駄目なのか?


 うーん、食文化。


 なんにせよ、収獲の多い旅になった。




 後日。


 俺と同じくなんでも食べられるのは、ザブトンとウルザと猫だけだった。


 いや、無理に食べろとは言わないけど……


 特にタコが嫌われているなぁ。


 だが、タコ唐の美味さを知ったらどうかな。


 ふふふ。


 あ、無理はしなくていいぞ。


 興味があったらで構わないからな。





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― 新着の感想 ―
↓「ブブル」だね。しかし海の種族、タチの悪いクレーマーみたいな連中だね。
サザエはなんか違う名前で出てなかったっけ?
シラスは御飯にかけて食べるのが最高! 酢の物に入れても美味いし
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