太陽村
太陽城から戻った俺たちは、種族代表者たちを集めて会議を行なった。
議題は、太陽城の受け入れに関して。
元々、クズデンたちは太陽城さえ無事なら、大樹の村と交易しながら細々とやっていければなぁという方向だった。
しかし、ゴウ、ベルを交えて太陽城の現状を再確認し、太陽城だけでの自立が難しいとの結論に達した。
自立が難しい最大の理由。
それは金がないこと。
現金は当然として、金になる物がない。
ダンジョンイモの生産をしているが、美味い食べ物ではないので価値を見出し難い。
となると、太陽城にあるアイテム類や技術を切り売りするしかないのだが……
アイテム類は有限だし、すでに一部は食料と交換してしまっている。
技術の切り売りは自分たちの地位を危うくする。
無論、太陽城に閉じこもって、ダンジョンイモだけの生活をすることは可能だろう。
しかし、それは太陽城が無限に飛んでいる前提の話だ。
太陽城の燃料は尽きかけており、補充できなければ太陽城は地上に降りることになる。
飛行状態を基本とした設計の太陽城は、地上での防御力は皆無。
また燃料が尽きるとゴウやベルの活動にも支障が出るらしい。
クズデンたちがゴウの知恵を借りずにやっていけるとは思えない。
ある意味、今まで引き篭もっていたようなものだしな。
ともかく、その他に色々と理由はあるが、クズデンは太陽城に住んでいる悪魔族、夢魔族、それにゴウとベルの合意を得て、大樹の村に臣従を申し出てきた。
悪魔族、夢魔族の者たちは、太陽城の燃料切れによってこれまで世話になったゴウが動かなくなることを回避したい。
ゴウは悪魔族、夢魔族を守りたい。
ベルは太陽城を飛ばし続けたい。
三者三様の理由で。
「臣従ということは、部下になるということですか?」
フラウが手を挙げ確認する。
「色々と言葉を飾っていたが……簡単に翻訳すると、太陽城をまるごと差し出すので、生活の面倒を見てください。
ということだな。
まあ、村ごと移住してきたと考えればいいかと」
「では、これまでの移住者たちと同じ扱いで問題なかろう?」
ドワーフのドノバンが、ダンジョンイモを見ながら言う。
酒にしてみるそうだ。
「そうなんだが……問題は太陽城だ」
そう。
俺が即断を避けた理由。
それが太陽城。
「あの城の所有権は現在、誰にあるんだ?」
ゴウの話によれば、天使族に売却されたとの記録があるので、所有権は天使族が持っているのではないだろうか?
その後、戦争でクズデンたちの曽祖父たちが占領したそうだが、それだとその曽祖父たちのいた軍の所有になったりしないか?
何も気にせず、城を受け取ったとしてその後に揉め事にならないか?
俺一人の責任で済むならかまわないが、それによって他の住人に迷惑を掛けたくはない。
俺は自分の疑念を素直に話をした。
……
全員、黙った。
あれ?
活発な意見が交わされると思ったのに……俺以外の者たちで顔を合わせては無言で頷いている。
そして全員の視線がルーに集まり、ルーが仕方が無いわねと立ち上がった。
「貴方……いえ、村長。
難しく考え過ぎ!」
え?
「私たちがあの城を占領した。
だからそこに居る者たちの面倒を見る。
それで良いじゃない」
……
「後で文句を言われたり……」
「これまで放置されていたのに、誰が文句を言うの?
天使族?
あの城は神人族の物でしょ?
神人族は……」
「滅びました」
ティアが言葉を続けた。
そして、これ以上、神人族の話題はしないようにと。
なるほど。
「万が一、どこかから文句を言われたら、こう言ってやればいいわ。
文句があるなら掛かってこいって」
ルーの一刀両断。
これで太陽城を受け入れる方向で決まった。
「太陽城の名を改め、四村と名付ける。
ただし、これまでの歴史を考慮し、太陽城、太陽村と呼称することを特別に許可する」
太陽城の謁見の間で、俺が高い場所に立ってクズデンに臣従の受け入れを伝えた。
その証として、名称を変更。
これが一般的だとルーやティアの言葉に従ったのだが、事前通達の段階でベルが絶望した顔をしていたので一文が追加された。
名前とか大事にする人には大事だからな。
ともかく、文官娘衆が用意した書類を俺の前で片膝を突いているクズデンに渡す。
クズデンを代表として認める証明書みたいなものらしい。
これ、一村や二村、三村にも渡さないと駄目じゃない?
用意しているから、後で渡せば良いと言われた。
うん、そうする。
なんにせよ、こういったセレモニーは大事らしい。
村の各種族代表者が揃い、ゴウは動けないが、クズデンの後ろに悪魔族、夢魔族、そしてベルが見守っている。
「四村村長代行の地位、拝命しました。
以後はヒラク様に絶対の忠誠を」
あ、いや、別に俺のためじゃなくてみんなのために働いてくれたら良いんだけど……
そんなことが言えない空気で、場が盛り上がっていた。
みんな、不安だったのかな?
その場の盛り上がりのまま、宴会になった。
料理は俺たちに同行している鬼人族メイドたち。
食材の輸送や人員の移動だなんだでハクレンとラスティには頑張ってもらった。
感謝だ。
四村の代表となる四村村長代行にクズデン。
補佐にゴウとベル。
ゴウとベルは種族的にはマーキュリーというらしい。
ベルの見た目は人間と同じだが、本質的には水晶石のゴウのほうが近いらしい。
食事をしなくても活動できるが、それは太陽城からエネルギーを供給されているため。
太陽城の燃料問題が解決すれば、ゴウも人間の姿で動けるそうだ。
また、他にも十四人ほどいるらしい。
早く燃料をなんとかしてやりたい。
現在、燃料の元となる保温石の採掘のために、温泉地の上空に向かっているが……まだ掛かりそうだ。
思った以上に移動速度が遅い。
燃料が少ないからと思ったけど、そうではないようだ。
元々が別荘目的で建造され、浮遊していることが重要。
移動力は二の次だったらしい。
なるほど。
四村……名付けておいてなんだが、太陽村のほうが呼びやすいな。
でも太陽村って言うとベルが悲しそうな顔をするから、太陽城と呼ぶ。
まず、太陽城に必要な物!
全部!
家がない、食料がない、産物がない!
ダンジョンイモだけがある!
うん、悪い食材じゃないんだろうけどな。
美味しい調理法を探そう。
当初の約束通り、ダンジョンイモや魔道具との交換で食料を運び込んでいる。
食事が豊かになるだろう。
しかし、太陽城の気温は常に春のようで冬を忘れさせてくれる。
さすがは別荘地。
冬場はここに退避するのも手だなとか考えてしまう。
さすがに大樹の村の村長として、それは駄目だなと自己却下する。
さて。
冬場だからと言って、仕事がないわけじゃない。
太陽城の技術取得のために山エルフやハイエルフの数名が残っているが、大半が大樹の村に戻った。
俺もまだ残っている。
村作りのために。
とりあえずは……家かな。
悪魔族、夢魔族はこれまで城内に住んでいたのだけど……城内には畑もあり、人数に対してプライバシーが守られる空間ではなかった。
なので家を建てたい。
場所は市街区。
廃墟になっているから、まずは全てを更地にして再建だな。
【万能農具】が大活躍。
まあ、いきなり全部は無理なので、家を建てるスペースだけ更地に。
次に家の建材だが……
ハクレン、ラスティに頼むとしても量を考えると面倒。
悪魔族、夢魔族が飛べるので太陽城の高度を可能な限り落としてもらって運ぶか?
まあ、なんにせよ冬場の今は駄目だな。
太陽城から離れると風がキツいし寒い。
いっそ、建材となる木を育てるほうがいいかな?
家の建設は中断。
次は畑かな。
ベルが城内の畑を外に出したい意向を見せている。
もっともな意見だ。
城に入っていきなり畑だもんな。
あぜ道を通って、謁見の間に行くのはなんだかなぁと思う。
外に畑を作るのは協力できるが、畑にされた城内はどうしようもないと思うが……
太陽城の燃料が補充されれば、なんとかなるそうだ。
北西の森林区の大穴も、塞ぐことが可能だそうだ。
凄いな。
まあ、俺はクズデンと相談しながら畑の場所を決定する。
城の南の市街区に家を建てるので、その左右。
南西、南東の市街区を畑にする。
廃墟も廃材も何もかも全て【万能農具】で耕す。
「貴方は神ですか?」
作業中、ベルにそう質問されたが、ただの農夫だと答えておいた。
俺を神様と間違えるとは、神様に失礼なことを言ってはいけない。
あ、ここにも創造神様と農業神様の像を置かせてもらえるかな?
宗教的に問題がなければ良いが……
問題は無かった。
城の一番良い部屋に置いてもらえるそうだ。
でも、そこって城主の部屋じゃ……気にしなくていい?
でもクズデンが……問題なさそうだな。
大事にしてもらえそうで嬉しい。
枯れている森林部は、生き残っているものはそのまま残し、新たに果実系の木を育てる。
収穫にはしばらく掛かるだろうが、収穫できるようになればかなり食事事情が改善されるだろう。
クズデンはパイナップルを好んでいたな。
ゴウやベルは食事は不要らしいが、人間姿なら食事もできるらしい。
ベルはカレーを食べて感激していたな。
調味料系も育てたほうが良いかな。
作業をしていると、ベルから温泉地に到着したと連絡を受けた。
うん、下を見せてもらうと確かに温泉地。
死霊騎士がこっちを見ているな。
どういった理屈で見ているのか知らないが、よく見える。
下への移動は……
ハクレン、ラスティは大樹の村に戻っているので……困った。
悪魔族、夢魔族は俺を運ぶのは……無理?
そうか。
連絡方法、考えないといけないな。
……
通信できるんだった。
大樹の村に連絡し、誰か来てもらう。
誰が来るかな……
グランマリアだった。
寒い中、ありがとう。