城主
ハクレンの背に乗って太陽城に。
同行者は第一制圧部隊の面々にウルザとグラル。
ラスティの背中には手土産代わりの食材が積み込まれている。
太陽城。
高い場所にあるので、寒いと思ったがそんなことはなかった。
風もほとんど感じない。
城全体を何か魔法的な物で囲っているのだろうか?
考えてみれば、そうでもなければ今よりも高い場所にはいけないか。
気温は春みたいな感じだな。
城は常にこの感じなのかな?
ハクレンは中庭のような場所に着地。
そこで俺が見たのは、とあるドラマだった。
「この子は大丈夫だから。
絶対にみんなに怪我をさせないから」
「それは魔物だ。
魔物は滅ぼさねばならん」
「嫌よ。
この子が何をしたって言うの!」
「気の毒だが……」
一人の少女に数人の大人が迫っている。
なんとなく事情を察する。
なんとなく察するが……このドラマ。
いつからやってた?
俺が来るタイミングに合わせて始めてないか?
でもって、大人たちの後方にクロの子供たちが数頭、待機してたりする。
アクビをしていることから、見張りではなく見物かな?
見物なんだろうな。
少女、チラチラと俺を見るな。
大人たちも。
魔物を助けるようなことを俺に言ってほしいのはわかったから。
……
「事情を聞こう」
察した通りだった。
太陽城にいた魔物の子供を少女が隠れて飼っていた。
これまでは特に問題はなかった……というか太陽城に閉じ込められている状況が問題だらけなので見逃されていた。
わざわざ敵対してない魔物を倒す必要を感じなかったのだろう。
魔物を手懐けることができれば、何かが変わるかもしれないとの打算もあったらしい。
だが、クロの子供たちが魔物や魔獣を殲滅して状況が変わった。
隠れて飼っている魔物をどうすべきか……
なんとか守ってあげたい気持ちは強いけど、魔物たちを殲滅した狼たちが見てるしなぁ。
ここは一つ、偉い人に頼ろう。
その結果が、あのドラマらしい。
いや、素直に言ってくれたら良いじゃないか?
少しでも同情が引けるように?
まあ、気持ちはわかるが……
ここで飼うなら、ここの代表者が許可すれば問題無いと思うが?
城の代表者ってクズデンだろ?
「それに関して、少々ご相談がありまして」
俺がクズデンに話を振ると、そのまま返された。
「登録?」
太陽城のコントロールはある程度、できるようになったらしい。
ただ、効率良くコントロールするためには城主登録が必要なのだそうだ。
ならばさっさと登録すれば良いだろうと言うと、俺は謁見の間らしい場所に連れていかれた。
謁見の間の玉座には……人間大のデッカイ水晶石が鎮座していた。
「待っていたぞ。
その者が我が主となる者か」
どこも動いていないが、水晶石が喋ったと理解できた。
「この城の制御を司る精霊のような存在です。
悪魔族や夢魔族では主と認められず、これまで太陽城をコントロールできなかったのです」
「じゃあ、クズデンは主と認められてないと?」
「はい」
「悪魔族や夢魔族以外なら良いのか?」
「いえ、それが……」
「我が仕えるのは神人族のみ」
「とのことでして」
「なるほど。
じゃあ、ティアかキアービット。
どちらか城主登録してくれないか?」
二人に加え、グランマリアたちも同行している。
「村長。
私は神人族ではありませんので」
「私も」
二人はそっぽ向きながら拒絶する。
グランマリアたちを見ても同様だ。
「おい、えーっと……名前は?」
俺は水晶石に話し掛ける。
「名を問うなら自分から名乗らんか」
「ああ、悪かった。
ヒラクだ。
お前の名前は?」
「お前?
それはひょっとして我のことかな?」
面倒臭いヤツだな。
だが、反発すると話が進まないので折れる。
「失礼しました。
お名前をお教え願えませんか?」
「我の名は太陽城。
栄光の太陽城である」
「栄光の太陽城様とお呼びしても?」
「え、栄光は自称だから……そこは省いて太陽城で構わない」
「そうですか。
では、太陽城様。
神人族という言い方を天使族は嫌うようなので、その辺りをお気遣いいただけると大変助かるのですが」
「神人族は神人族ではないか。
なにを馬鹿なことを」
水晶石がそう答えた瞬間、ティアとキアービットの打撃が炸裂した。
「神人族は死滅しました」
「私たちは姿が似ているだけの天使族です」
二人の打撃で水晶石の一部が砕けて落ちたが……大丈夫か?
「す、すみませんでした。
神人族と天使族を見間違えるなんて、我ってうっかり者」
大丈夫みたいだ。
あ、勝手に修復する。
なかなか便利だな。
話を戻して、ティアかキアービットに城主登録をお願いする。
だが、答えは拒否。
ティアは夫である俺を押し退けて城主にはなれないと。
キアービットも、遠慮しているワケではないが村でお世話になっている身なのに城主にはなれないと。
でも、両者共、城主代行なら引き受けても構わない。
つまり、俺に城主になれと言っていた。
反対者は俺と太陽城。
「おいおい、俺は城主なんて無理だぞ」
「さすがに神人……失礼。
天使族の推薦とはいえ、普通の人間を城主にはできません」
そうだよなと俺は水晶石と意気投合。
「ほう。
私の旦那様では不服と。
粉になっても同じことが言えますか?」
「どの辺りで意見が変わるか実験してみましょう」
だが、ティアとキアービットは違ったようだ。
仕方なく、俺が仲裁する。
「太陽城様。
誰なら良いですか?」
「んー……そうだな……」
太陽城は周囲にいるメンバーを確認する。
ハクレン、ルー、ティア、グランマリア、クーデル、コローネ、キアービット、ダガ、ガルフ、ヤー、ラスティ、ウルザ、グラル。
クロの子供が十数頭。
その他に、クズデン。
「あれ?
え?
えーっと……ごめん。
クズさん、クズさん。
ちょっと、いいかな?」
「どうした?」
「ここにいるメンバーって城に巣食ってた魔物や魔獣を駆逐した人たち?」
「うん。
あ、村長とあっちの小さい娘たちは違うけどね」
「そ、そっか……この城の下にこびり付いてた大岩を破壊したのは?」
「それは村長。
凄いよな」
「村長って……前後の会話からヒラクのこと?」
「そう」
「……」
太陽城は少し考え、結論を出した。
「新しい城主はクズさん、クズデンに決定しました!
はい、登録完了。
もう変更できません!」
「え?
いいのか?
悪魔族だろ?」
「種族に拘るなんて愚か者の考えだと到りました。
これまでの無礼。
大変、申し訳ありません。
あ、ヒラク様。
椅子もお出しせずに申し訳ない。
クズさん、椅子」
城主になったクズデンが椅子を運んで並べる。
いいんだろうか。
一人じゃ大変そうなので手伝う。
ウルザやグラルも手伝ってくれるか。
悪いな。
結局、全員で椅子とテーブルを運んだ。
小さい子にだけ運ばせるワケにはいかないか。
謁見の間に椅子が並べられる。
「クズさんは我の傍で。
場所はそこじゃなくて……そう、そこ。
我の前に。
いいのいいの。
城主なんだから。
我の前にいてほしい。
お願いします」
クズデンが椅子をもってウロウロしている時、俺も似たような感じになっていた。
「さすがに村長だからって、この並びは無いんじゃないか?」
俺一人飛び出し、残りは後ろに横一列。
クロの子供たちは後ろの列の間に各自待機。
正直、心細い。
となって、俺の左右にルーとティア、ハクレンが並ぶ。
ハクレンがそこに行くと、ウルザも横に並び、グラルも……
結局、全員が横並びで一列になった。
クロの子供たちは各椅子の間に。
俺が真ん中なのは変わらなかった。
まあ、代表だしな。
「城主が決まったなら、先に少女が庇っていた魔物の子供を飼う許可を貰いたい」
俺はクズデンに提案。
「え?
じゃあOKで」
はい、解決。
ガルフが話し合いの場にいてもあまり役に立たないからと、連絡に向かってくれる。
「じゃあ、後は太陽城の今後だな。
太陽城様は何か契約か何かで村に進路を取ったという話だったが?」
「ヒラク様。
我に様は不要です。
太陽城と呼び捨ててください。
なんでしたら石でも構いません」
「急に卑屈になったな?」
「いえいえ、主に仕える身となりましたからには我の無礼は主の無礼。
主に迷惑をかけるワケには参りません」
「そ、そうか?
じゃあ、太陽城。
村に来た理由はなんだ?」
「古の契約です」
「内容を聞いても?」
「竜族が十頭以上集まる場所があったらそこに行って人間の味方をするようにと」
竜族が十頭以上……この前の武闘会かな?
ヒイチロウが生まれたから、勢ぞろいしたんだよな。
でも、どうして人間?
「竜族がそれだけ集まる時、絶対に中心になる人間がいるからと」
確かにそうだが……
え?
それ、俺のこと?
いや、ヒイチロウのことかな?
「今から千二百年前に定められた最上位契約です。
絶対に発動しないと思っていたのですが、契約条件を満たしたので移動を開始。
残念ながら城の下部に重しがあったので速度が出ず……時間が掛かってしまいました」
なるほど。
「竜族と接触したことにより、その契約は停止中です。
まあ、時代が違いますからね。
今更、人間に味方して魔族と戦っても……」
太陽城の説明に、クズデンが後ろを見る。
「おいおい。
人間に味方して俺たちを滅ぼすってメチャクチャ脅しただろう。
忘れたのか?」
「愚かな過去の我の所業です。
お忘れください」
「あれを真に受けたからワザワザ通話したんだぞ。
俺、あれが原因で寒い中で土下座することになったんだからな」
「大変、申し訳ありません。
謝罪は後でいくらでもしますので、今は主としてお客様のお相手をお願いします」
「お相手ってお前が話のメインだぞ。
俺だってほとんど何も知らないし……」
「いいですから。
貴方がそこに居るだけで我の心が落ち着くのです。
しっかりと盾に……失礼。
しっかりとお客様のお相手をお願いしますよ」
「おま、盾って言った。
盾って言ったな!」
「主。
ストップ、お客様の前で暴れるのはよろしくありません」
「ぐぎぎぎっ」
……
えーっと……話、続けていいかな?