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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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異世界


 むう。

 どうしよう。

 健康になったのに、このままでは死んでしまう。

 まずは水、次に食料。
 その後に寝る場所。

 サバイバルの基本だ。

 まずは水を求めて移動……

 移動したいが、木々が邪魔だ。

 いや、移動は出来るだろうが、木が多過ぎて遠くを見通す事が出来ない。

 さらに木が太い。

 幹の直径一メートル超えクラスがそこらにある。

 でもって、どこもかしこも似たような感じ。

 今居る場所はなぜか開けているが、それでも遠方が見える程ではない。

 多分、このまま移動すれば迷う。

 まあ、迷ってもここに戻ってこられないだけなのだが……

 悩んでいても仕方が無い。

 とにかく、水だ。

 水を探さないと死ぬ。

 ここは……自分の聴覚を信じてみる。

 どこかで水の流れる音はしないか?

 ……

 駄目だ。

 不気味な風の音と、ヤバそうな獣の鳴き声しか聞こえない。

 しかも、その獣の鳴き声は悲鳴のように感じた。

 つまり……獣を襲う獣が居るという事だろう。

 深呼吸。

 とりあえず、一歩踏み出してみる。

 物凄い、違和感を覚えた。

 それは地面を踏む足の感覚。

 先ほどまで居る開けた場所は、俺の知る普通の地面だった。

 しかし、木々の生い茂る今の場所の地面は硬い。

 固いではなく、硬い。

 硬過ぎる。

 地面が一枚の岩かと思えるほど硬い。

 そんな場所にぶっとい根を生やした太い木や背の高い草が生えているのは凄いと思う。

 感動すべき植物の生命力。

 しかし、この硬い地面はマズイ。

 若返った自分の体力がどうなっているか判らないが、硬い地面の上を延々と歩く事になれば足を痛めるだろう。

 意外と地面の硬さは油断ならないのだ。

 そして、さらなる疑問。

 俺はこの硬い大地を相手に農業をするのか?

 硬いのはこの森だけで、他の場所は大丈夫なんだよな。

 ……

 俺はクワの形の【万能農具】を構え、振り下ろしてみた。

 サクッ。

 クワの先は、驚くほど軽く深々と地面に入った。

 引き抜き、繰り返す。

 サクッサクッサクッ……

 簡単に地面が耕されていく。

 おおっ。

 なんだか楽しい。

 サクッサクッサクッサクッサクッサクッ……あっ。

 ヤバイと思った。

 調子に乗って振り下ろした先に太い木の根が横たわっていた。

 腕に来る衝撃を覚悟したが、なかった。

 それどころか、手応えは変わらずにサクッだった。

 見ると、木の根は耕されていた。

 クワが入った部分の手前が、おが屑になっていた。

 いや、おが屑ではなく、土か?

 見た感じ、良い肥料に見える。

 えっと……

 俺はそのまま、クワを振り続けた。

 太い木の根は完全に地面に同化し、残ったのは耕された地面だけだった。

 おおっ。

 そして、自分でも驚くほど疲れていない。

 ひょっとしてこの【万能農具】を使っている間は、疲れないのではないか?

 流石は神様のくれた道具。

 ピンっとひらめく俺。

 耕しながら移動すれば、疲れないのではないか?

 ……

 やってみた。

 その通りだった。

 ありがとう神様。

 転移先に食料も水も無いから、凄い放置プレイだなとか思いましたが、ちゃんと考えていてくれたんですね。

 改めて感謝しつつ、俺はクワを振り続けた。

 とりあえず、どこか飲料水を確保できる場所を見つけねば。

 耕しながらの移動なので、移動速度は遅い。

 しかも、最初は自分が移動できる幅があれば良いと思ったが、耕した場所は平らになるし、木の根どころか木も構わずに耕せてしまうので視界を確保する為にも五メートルぐらいの幅を確保している。

 だからだろうか、一時間で五十メートルも進んでいない。

 ヤバいかな?

 今が何時かわからないが、日が暮れたらどうしよう。

 疲れない事を良い事に、視界なんて気にするべきじゃなかったか。

 いやいや、森から獣が出て来るかもしれないんだから視界確保は大事だ。

 むうっ……

 神様助けて!

 と、いきなり他力本願でも駄目か。

 ……

 俺は自分の手にある【万能農具】を見る。

 今の形状はクワだ。

 効果は、耕した場所が土になっていく。

 そう言えば、他の形になると言っていた。

 例えば……ノコギリ。

 俺は【万能農具】をノコギリの形にして、近くの木に当ててみた。

 いや、木を切るのはノコギリじゃないな。

 ノコギリは木材の加工に使う物で、木を切るのは斧だ。

 俺は【万能農具】を斧の形にして、近くの木に振りかぶってみた。

 木を豆腐のようにスパッと切り裂いた。

 おおっ……

 しかも、クワの時と違って木が木のまま残っている。

 俺は倒れる木を見ながら、考えた。

 俺のする事は、水を探す事ではなく、この【万能農具】を使いこなす事ではないだろうか。

 例えば……

 直径が十メートルを超える大木の幹に、ドリルに変形させた【万能農具】を押し当てた。

 ドリルはドリドリッと大木の幹に穴を開ける。

 五分もしないうちに、入り口の大きさは一メートルぐらい、中に高さ二メートル、広さが四メートル四方ぐらいのスペースを造る事が出来た。

 内部がささくれ立っていたので、【万能農具】をヤスリに変形させて内部を整える。

 ヤスリは一度擦れば、綺麗に均されていた。

 巨大なリスの巣だなと思いながら木屑を外に捨て、これで寝床の確保が出来た。

 次に水……

 俺は【万能農具】をショベルに変え、地面を掘った。

 川を探すのではなく、井戸を掘る。

 普通なら川を探す方が圧倒的に労力は少ないだろうが、【万能農具】を持つ俺の場合は違う。

 サクサク掘れる。

 掘りに掘りまくる。

 真っ直ぐ下に。

 ……

 五メートルぐらい掘ってから、掘った土が外に出せなくなった。

 あと、どうやって穴から出るのだろうとか思ってしまった。

 出る時は斜めに掘る必要があるな。

 いや、待て待て。

 縦の穴。

 酸素はどうなっている?

 ヤバイ、死ぬ?

 俺は慌てて斜め上に向かって穴を掘り、脱出する。

 反省。

 次は空気の通り道を考えながら、掘ってみた。

 基本、斜め掘り。

 時々、空気穴を掘って酸素を確保。

 要は空気が流れれば良い。

 俺の中のイメージの井戸とは全然違うが、下に向かって掘っていれば問題は無いだろう。

 推定深度、十メートルぐらいで水が出た。

 よしよし。

 狙い通り。

 しかも、地面が硬い所為か、水が染み出る感じではなく、湧き水のように穴の横からチョロチョロと流れ出し、穴の底に水を貯め始めている。

 問題は飲めるか……

 飲むしかないよな。

 とりあえず、すぐには飲まず、しばらく放置する。

【万能農具】を使っているから、喉の渇きはまだ無いし、さすがに硬い地面とは言え、掘った直後の為に水が汚れているからだ。

 これで寝る場所と、未確定だが水はなんとかなった。

 後は食料だが……

 森から聞こえた獣の声の主を狙う?

 無理無理。

 狩りなんてした事がない。

 それに、なんだかんだで日が暮れ始めている。

 ……しまった!

 火を忘れていた。

 火をどうやって起こす?

 木と木を擦り合わせる?

 そんなの素人の俺がやっても、上手く行くとは思えない。

【万能農具】で……ランプ?

 ライト、電灯……駄目だ。

 変わらない。

【万能農具】は、農具の名前に拘らずに何にでも変形する。

 実際、ドリルやヤスリが農具かと問われたら、普通は違うと答えるだろう。

 だが、変形した。

 ハサミやスプーンにもなった。

 しかし、木を切る為にチェーンソーをイメージしたが駄目だった。

 発動機類や、電動草刈機なども駄目だった。

 機械関係は駄目……ここから推測するに、パーツが少なければOKなのだろう。

 そこから火を生み出す道具。

 ……

 虫眼鏡!

 成功!

 これで火を起こせる!

 日が暮れ始める前ならば。

 ……

 俺は色々諦め、寝床として作った木の穴に潜り込み、日が昇るまで【万能農具】を小刀に変形させ小物を作る事にした。

 とりあえず、コップとお皿、お盆。

 それに、ナイフやフォーク、お箸だ。

 材料は、斧で倒した木を使う。

 狙い通り【万能農具】を使っている間は、喉も渇かず、腹も減らず、そして眠気もなかった。

 しかし、火が無いので月明かりで作る事になった。

 やはりここは異世界なんだな。

 月が二つもある。


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