投石器
秋は何かと忙しい。
収穫が終わった後、冬に備えての準備があるからだ。
大樹の村では、武闘会の準備もある。
ケンタウロス族の新しい移住者たちの件もあるし。
つまり、忙しい。
しかし、忙しい時ほど余計なことに力を入れる。
そんな覚えはないだろうか?
現在、俺の目の前にはデッカイ投石器があった。
もちろん、俺と山エルフたちの自作だ。
きっかけは水車動力を上手く利用できないかの話し合い。
現在、水車は主に揚水と脱穀に使っているのだが、もう少し利用方法はないかと村人から要望されたのだ。
そして、水車動力を利用して空気を送り込む仕掛けを考えた段階で、休憩。
その時に暴走した。
どうして投石器の話になったかは覚えていないが、たぶん、遠方に荷物を運ぶにはどうすれば良いかなぁという話題が出た記憶があるからそれかもしれない。
投石器はすでに存在しており、形状は山エルフたちが知っていた。
だが、俺は投石器なんか見たこともなかった。
それが暴走の切っ掛けだったのかな?
全長はどこを計れば良いのはわからないけど、五メートルぐらいかな?
輸送を考え、車輪付き。
重りを利用した一般的な投石器スタイルらしい。
これが今、目の前にある。
使い道はないだろう。
ないだろうが、完成品があるのだから使ってみたい。
忙しいのはわかっている。
俺と山エルフは投石器を押して村の南側に移動。
競馬場に設置し、南の森の手前に的を置いて狙う。
「的まで約二百メートル。
当たるか?」
「当ててみせましょう」
山エルフの自信に溢れた顔。
頼もしい。
とりあえず、俺はクロの子供たちやザブトンの子供たちに通達。
事故は避ける。
ウルザほか、見学者たちも離れるように。
射線上は当然として後方も駄目だぞ。
投げるの失敗して後ろに飛ぶかもしれないんだから。
投石器だから岩を用意しなければいけないのだけど、木で代用。
一メートル四方のサイコロ状。
角を削って丸みを持たせておく。
……
サイコロ弾は、予備を含めて三発。
セットアップに意外と時間が掛かる。
投石器は簡単に説明すれば、支点位置がおかしいシーソー。
シーソーの短い方に重りを乗せると、シーソーの長い方が勢い良く上にあがる。
それを利用して投げたい物を長い方の先に載せておくのだ。
「いきますよー」
一発目。
放物線を描き……
的の斜め後ろ、十メートルぐらい先に着弾。
飛びすぎた。
しかし、見学者は大興奮。
駄目だぞ。
そこに乗ったら飛ぶからなー。
はい、二発目撃つから退避ー。
二発目。
微調整が成功したのか、的にカスッた。
歓声。
だが、山エルフたちは納得していない。
黙々と三発目の準備をする。
三発目。
的のど真ん中を撃ち抜いた。
山エルフたちが腕を突き上げ、喜ぶ。
的にしていたのは木の板だったが……粉砕された。
なかなかの威力だ。
満足。
だが、農家には必要が無さ過ぎる。
だって攻城兵器だしな。
売るのも気が引けるし、分解かなぁと思っていると、酒スライムがやってきた。
さすがに飛ばさないぞ。
ん?
そのままじゃなく?
……
放り投げたサイコロ弾を回収。
これにパラシュートをセットした。
酒スライムの言いたかったのはこういうことだろう。
高く放り投げることを目的にやってみた。
……
百メートルぐらい上空まで飛んだ後、落下。
パラシュートが開いた。
おおっ。
なんか楽しい。
楽しいけど、結構な勢いで飛んだぞ?
さすがに生き物を乗せるのは躊躇する。
なので酒スライム、諦めろ。
拗ねても駄目。
今度、ラスティに頼んで……天使族で大丈夫か。
見学に来ていたキアービットに、パラシュートを装着した酒スライムを上空まで運んでもらった。
楽しそうだ。
ああっ、風に流され森に……あ、ザブトンの子供が糸を結んでいた。
ひっぱる。
凧揚げの気分だな。
無事着地。
回収。
ウルザは駄目。
拗ねても駄目。
投石器の発射なら構わないから。
ウルザ以外にも希望者のために投石器の撃ちっ放しが始まった。
的に点数を描いて複数設置。
サイコロ弾も量産。
パラシュート付きサイコロ弾が、意外と命中率が良いな。
本当に何かの役に立たないだろうか?
例えば、遠方にいる者にお弁当を届けるとか……駄目だな。
山エルフたち、投石器の改良案を考えているみたいだけど作らないぞ。
それより先に水車動力の利用が先だぞ。
急に真面目に?
ははは。
向こうで文官娘衆が睨んでいるからな。
さあ、仕事に戻ろう!
え?
投石器を見なきゃ駄目?
確かにそうだな。
今、終わりと言っても楽しんでいる者たちが収まらないだろう。
かといって好きにさせるのは危険。
見張りは必要。
わかった。
仕事には俺一人で戻ろう。
後は頼んだ。
絶対に生きてる物は飛ばさないように。
あと、改良はほどほどに。
キアービット。
パラシュートは綺麗に畳まないと危ないからな。
興味があるのはわかるが、無茶はするなよ。
酒スライムは……あ、もう満足したのね。
夕食時、山エルフたちは投石器を何基用意すれば、城壁を攻略できるか検討していた。
城を攻める予定はないぞ。
ほれ、キノコ鍋を食え。
双子の天使族とキアービット
「キアービット様。
ここはいつも、こんな感じですか?」
「ええ。
こんな感じよ」
「急に投石器を持ち出して何事かと思いましたが……訓練ではなく遊びとは」
「侵攻先がないからね。
というか、投石器を使わなくてもあの槍でね」
「確かに。
クーデルがやたらと気に入ってますね」
「あの子だけ命中率が無茶苦茶だからね。
まあ……この村とだけは絶対に敵対したくないわね」
「え?
敵対する気だったのですか?
その時は精一杯、お相手しますね。
私はすでにこの村の住人ですから」
「た、例えばの話よ。
私だってこの村の住人なんだから」
「あははは。
ところでこのキノコ鍋……美味しいですね」
「美味しいわね。
作り方、教えてもらわなきゃ」
獣人族の息子と父親
「父ちゃん、ここっていつもこんな感じなのか?」
「こんな感じだな」
「まさか投石器を触ることになるとは思わなかった」
「どうだった?」
「狙った所に命中させるのは難しいな。
あと、魔法で作った水の玉を発射してみたんだけど駄目だった」
「盛大に水撒きをしてたヤツか。
弾は投石器の勢いに耐えられる強度が必要ってことだな」
「うん。
色々と勉強になる。
俺も投石器、作ってみたい」
「ははは。
城を攻める予定はないらしいけどな。
ま、やってみろ」
「いいのか?」
「ああ。
だが、ちゃんと仕事をしたうえでだぞ。
それと……いきなり本物は厳しいな。
ミニチュアを作って、村長や山エルフのヤーさんに見せて意見を聞いてみろ」
「わかった。
俺はやるぜ!」
「ははは。
ほれ、飯を食おう。
今日はキノコ鍋だぞ」
「うん」