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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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ヴォルグラフ


 俺の名はヴォルグラフ。

 魔王国貴族であるゴフリル子爵家の嫡男。

 自慢ではないが次期当主だ。

 そして自慢ではないが、今のゴフリル家は俺で持っていると言っても過言ではない。

 父は無能ではないが優しすぎる。

 その欠点を補うのが俺。

 ゴフリル家の厳しさ担当。

 とはいえ嫡男。

 どうしても出れない会議やパーティーがあるのは仕方が無い。

 そこで父が変な約束とかしないように、会議やパーティーの前に注意するのが日課になっている。

 父は俺に家督を譲ろうかと言ってくれているが、父はまだまだ元気。

 流石にそれは気が引ける。

 一人、楽隠居なんかさせるかという気持ちが無いワケではない。

 俺はゴフリル家の厳しさ担当。



 ある日、父がかなり上機嫌で帰って来た。

 今日の予定は、クローム伯との会食。

 よほど良い物が出たのだろう。

 クローム伯との話より、アレが美味かったコレが美味かったと言っている。

 いや、嬉しいのはわかるが、ビーゼル卿とはちゃんと話をしたのか心配になってくる。

 あ、メモを取ってたのね。

 確認。

 ……それほどゴフリル家に不利な話ではない。

 一安心。

 だが、メモに一行、見逃せない部分があった。

「父上。
 これは?」

「おお、それか。
 それは向こうが是非にという話だ。
 一応、明言は避けたが……受けねばならんだろう」

「むう」

 俺は困った。

 話の内容は、見合い。

 俺の結婚相手に、とある娘はどうだという話。

 別にこの手の話は珍しい話じゃない。

 これまでもにも何回かあった。

 まとまらなかったけど。

 ただ、今回の話は少し困る。

 なにせ相手が魔王国四天王が一人、ランダン様の妹。

 ランダン様は庶民でありながら、実力で魔王国四天王の座に就いた英雄。

 魔王国の内政は彼で持っていると言っても良い。

 その彼の妹。

 お見合いをすれば、こちらから断れない。

 断る為には、それ相応の理由が必要とされる。

 貴族じゃないという理由はどうだろう?

 駄目だ。

 俺は前々からその辺りは気にしないと公言している。

 それに、ランダン様は庶民だが四天王位は公爵家扱い。

 四天王位を引いたとしても、元四天王なら侯爵ぐらいの扱いになる。

 その妹なら貴族じゃないとの言い訳は通用しない。

 では、年齢は?

 俺の年齢に対し、相手は三つ年上。

 これも駄目だ。

 前々から年上でも気にしませんとか言っちゃってる。

 くそう。

 ん?

 なんだメイド?

 結婚すれば良いじゃん?

 馬鹿を言うな。

 俺には心に決めた方がいるのだ!

 そう、俺の憧れの女性。

 それはクローム伯の娘であるフラウレム様。

 文武両道、才色兼備を体現した女性で、俺ぐらいの世代の男性の憧れ。

 急に学園を辞め、聞いた事もない場所に赴任したそうだが……

 結婚の噂もあるけど……

 俺は信じない!

 いつか俺がフラウレム様と!



 とりあえず、俺は逃げた。

 俺が居なければどうしようもあるまい。

 シャシャートの街でしばらくのんびりさせて貰おう。

 丁度、シャシャートの街で武闘会が行われる。

 部下の数人でも出場させれば、シャシャートに滞在する理由にはなるだろう。

 なんだ、メイド。

 その腐った物を見る目は?

 時間稼ぎにしかならない?

 先送りにしているだけ?

 ははは。

 お前にこの言葉を送ろう。

「今が良ければ全て良し!」



 シャシャートの街はここ数年でかなり発展している。

 ゴロウン商会が金をジャブジャブ投資しているからだ。

 羨ましい。

 我が領地にある街にも投資してもらえないだろうか?

 この街の十分の一でも構わないのだが……

 ……

 ごほん。

 羨んでも仕方が無い。

 ゴロウン商会にコネがあるワケでもないしな。

 しかし、ゴロウン商会の取り扱っている商品には興味がある。

 フラウレム様も絡んでいるとの噂もあるしな。

 まあ、慌てる必要もないだろう。

 宿を……

 安い宿は全部埋まっている?

 なぜだ?

 あ、武闘会の所為ね。

 なるほど。

 仕方が無い。

 我がゴフリル家は貧乏ではないが、決して裕福でもない。

 今回の滞在費は全部俺のお小遣い。

 無駄使いは出来ないが……宿は必須。

 多少、高めでも……うぬ。

 この値段だとお前達メイドや従者の寝る部屋が取れない。

 流石にお前達を馬小屋に寝かせるワケにはいかん。

 え?

 ここに親戚の家がある?

 ……他の者も?

 あ、そういうメンバーで構成したと。

 なるほど。

 試合に出る部下はどうする?

 ……出場者専用の宿が格安で用意されている?

 親切な大会だな。

 助かる。

 しかし、そこに俺が行くのは……流石に駄目だよな。

 お前達の親戚の家も……

 そうなると宿で俺一人になるんだけど?

 だ、大丈夫だ!

 一人でなんとかなる!



 くっ。

 なんともならなかった。

 服なんぞ畳んだ事もない。

 従者やメイド達は日中は居てくれるが、夜は居ない。

 不便だ。

 だが、これぐらいの試練は耐えてみせる。

 大丈夫だ。

 ひ、一人で寝れる。



 食事をどこで食べると聞かれたので、食堂でと答えた。

 部屋に持って来て貰うと、少し値段が上がるからだ。

 こういった部分はケチっていこう。

 一応、武闘会に部下を出す事で賞金が期待できるが……絶対ではないからな。

 おおっと。

 部下の賞金を奪うケチな男と思わないように。

 出場する部下達の衣食住はちゃんと面倒みているし、武具防具も揃えた。

 賞金も全額寄越せというワケではなく、半額だ。

 ちゃんとこの辺りは話をして、互いに納得済みの契約だ。

 何も問題が無い。


 食事は文句無く美味かった。

 こんなに美味い料理は初めてだ。

 少し前までの俺なら、料理なんぞ口に入れば良いと言っていたのだが、それを聞いた料理人達が俺にはカチカチに焼いたパンしか出さなくなった事件を経て、俺は成長したのだ。

 料理、大事。

 マナーを守ってしっかり食べる。

 んー……

 なんだ、あいつは?

 隣のテーブルのヤツに何かを強請っているな。

 みっともない。

 ……

 あれ?

 見覚えがあるな?

 確か、男爵家の息子だ。

 爵位は父より下だが、金持ち具合は向こうの圧勝。

 それなのに横のテーブルの者……見た感じ、知り合いではなさそうだな。

 ラフな格好の獣人族の男。

 武闘会の見学者か?

 いや、そんな者がこの宿にいる筈がないな。

 ならば出場者か。

 仕え先を探しているなら、相手が貴族では断れないか。

 仕方が無い。

 俺が言って止めさせてやろう。

 有能であるなら、我が家で雇ってやってもいい。

 ……

 やめた。

 あの獣人族、めちゃくちゃ良い料理を食ってた。

 たぶん、この宿の最上級。

 くっそー。



 シャシャートの街の武闘会が始まった。

 誤算だった。

 今回の大会は年に一回の特別大会。

 魔王様も注目している。

 だからだろう。

 ランダン様が来ていた。

 まずい。

 顔を合わせたら、見合いの話が出る。

 そうなると見合いまで一直線。

 逃げる?

 馬鹿を言うな。

 ここまでの宿代やその他諸々を回収しなければ、俺は何も出来ない。

 出場する部下は三名。

 誰でも良いから準決勝まで行ってくれればなんとかなる。

 しかし、優勝すると困る。

 優勝すればランダン様が賞品や賞金を授与するのだ。

「貴殿のような優秀な人材、どうだろう?
 俺に仕えないか?」

 そう言われたら、部下達はこう返すしかない。

「私はすでにゴフリル家に仕えています。
 今回の大会も我が主のご子息が……」

 俺が居る事がバレる。

 バレたら、どうして挨拶に来なかったとなる。

 どうしよう。

 ワザと負けさせるのは部下達に悪いしな。



 心配する必要はなかった。

 俺の部下達は、全員がすぐにやられた。

 信じられない。

 部下達は絶対に強い。

 ゴフリル家でも有数だ。

 俺は優勝を疑っていなかったのに……

 強い者はいくらでもいると考えを改めさせられる。

 世の中は広い。

 本当に広い……

 俺の部下に勝った猛者を、木剣で軽くあしらっているヤツがいる。

 しかも防具を装着していない。

 試合に挑むというより、ブラリと散歩に来たといった感じ。

 それなのに、赤子の手を捻るという表現が正しいのだろう。

 攻撃をかわし、相手の防具がある場所に一撃。

 それで終わり。

 わざわざ防具のある場所を攻撃するのは、必要以上に怪我をさせない為だろう。

 高そうな防具が砕けて、経済的には涙目だろうが……

 その男は同じような調子で優勝した。

 獣人族の男。

 宿で最上級の料理を食っていたヤツだ。

 くう、俺にあの強さがあれば、フラウレム様だって……


 油断した。

 ランダン様に見つかった。

 逃げられない。

 優勝者に見惚みとれていたのが悪かった。

 ランダン様が近づいてくる。

 優勝者を伴なって……親しい感じだが知り合いなのか?

 予想通り、見合いの話が出た。

 仕方が無い。

 見合いを受ける事は確定。

 後は……相手が俺を嫌う可能性に賭ける。

「見合いの席では最高の料理を用意しよう。
 ガルフ、お前、醤油と味噌、あとマヨネーズを持ってるよな。
 半分寄越せ」

「ちょ、おま」

「俺、魔王国のお偉いさんだぞ。
 断るのか?」

「マイケルに頼めば手に入るだろ?」

「予約で一杯なんだよ。
 三分の一でも良いから。
 妹の幸せを願う兄の気持ちをんでくれ」

「くっ。
 ……四分の一だけなら」

「感謝する。
 代金は金貨で良いか?」

「別にいらねぇよ。
 元が貰い物だからな」

 俺の目の前で広げられる交渉。

 この優勝者が良い食材でも持っているのだろうか?

 興味はある。

 料理は大事だからな。

 憂鬱な見合いだが、楽しみな点が出来たのは嬉しい。





 後日。

 俺の結婚が決まった。

 見合いの席で出た料理を食った瞬間、意識を完全に持っていかれた。

 あんな美味い料理が存在するとは思わなかった。

 夢中で食べていたら、いつの間にか話がまとまっていた。


 お見合い後、自宅に戻った俺は膝から崩れ落ちた。

 まあ、フラウレム様とは叶わぬ恋だと思っていたけど……

 もう少し、夢を見たかった。

 ううっ。

 だが、決まってしまったものは仕方が無い。

 仕方が無いというか……あの美味い料理はランダン様の妹の手作りとは……

 光栄な事なのではないだろうか?

 俺にはもったいない?

 ……

 いや、大丈夫。

 俺はビッグになる!

 そして、彼女に相応しい夫になるのだ!

 頑張ろう。

 とりあえず、結婚は俺が学園を卒業してからだ。

 まだ五年ある。


 俺の名はヴォルグラフ=ゴフリル。

 今年で十二歳。

 ゴフリル家の厳しさ担当。

 魔王国の未来を担う男だ。






おまけ

「賞金はなしか……お小遣いが消えてしまった……」

「あれ?
 賭けてなかったのですか?」

「ん?
 何を言ってる。
 もちろん、賭けていたぞ。
 だからお小遣いが消えたんだ」

「いや、だからガルフさんに……私、言いませんでしたか?」

「聞いてない」

「……そうですか。
 すみません。
 この件は忘れてください」

「待て。
 何を俺に伝えたつもりだったんだ?」

「あはは……
 優勝したガルフさん、ゴロウン商会の推薦枠で出場した方なんですよ。
 でもってゴロウン商会の会頭さんが優勝候補筆頭だから賭けるなら彼にと」

「よくそんな情報が手に入ったな?」

「私の兄がゴロウン商会に勤めていますから」

「そうなのか?」

「はい。
 本店勤めで頑張っています。
 ですので、商会をご利用の際は私に声を掛けください。
 ちょっと安くなりますよ」

「覚えておこう。
 ところで、お前は賭けたのか?
 その笑顔……う、羨ましい」

「あはは。
 しばらく、おやつ代は私が出しますから」


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