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デスボール



 森の中をゴロゴロと転がる一メートルぐらいの球。


 それが大体……百ぐらい?


 木は器用に避けるのに、魔物や魔獣には遠慮なく突進。


 というか魔物や魔獣に向かって突進しているようだ。


 そして正体が判明する。


 球が崩れたと思ったら、手足が飛び出し、突進によって倒れている魔物や魔獣を喰らっていた。


 それを見た俺の感想は……


 凶暴なアルマジロ?


 デスボールという名前の魔物らしい。


 彼らの進路は、大樹の村に向かっていた。


「このままの速度ですと三日後ぐらいに大樹の村に到達するかと」


 俺はグランマリアに抱えられ、上空からそれを観察していた。


 被害のメインは牙の生えた兎。


 デッカイ猪は突進に耐えているが……嫌がって逃げている。


「良く見つけられたな」


 場所は村の南東。


 グランマリアたちの警戒範囲の遥かに離れた場所だ。


「お祭りの後、ラミア族からデスボールが大量発生する予兆があるから注意するようにと警告されまして」


 ハーピー族に村の周辺警戒を任せ、グランマリアたちは遠方に偵察に出たと。


「魔物が逃げている様子を見て、その後ろにと考えたらアタリでした」


 なるほど。


「ラミア族は、デスボールをどうやって退治しているんだ?」


「ダンジョンの入り口を塞ぐそうです」


 ……


 確かに、そうやって通り過ぎるのを待てば良いのかもしれないが……


「食べられる部分が少ないので、危険なことはしないそうです」


 リスクに合わないってことか。


 だが、大樹の村はそうはいかない。


 このまま大樹の村にやってくれば、畑が全滅だ。


 ……


 許さん。



 俺はグランマリアに頼み、デスボールの最前列前に降ろしてもらう。


 そして【万能農具】を構える。


 悪いが、お前たちは害獣だ。



 デスボールは球状でも、獣状でも問題なく【万能農具】で肥料になった。


 さすがに全てが俺に向かったワケではなく、何体かは進路を変えて逃げた。


 まあ、少数なら見逃しても良いだろう。


 村にさえ近づかなければ。


「さすがですね。

 私の槍では貫くことができなかったのに……」


「外皮は硬そうだったからな」


 牙の生えた兎の攻撃は、まるっきり役立たずだった。


 しかし、問題は解決した。


 面倒な相手だった。


 などと思っているとクーデルが慌ててやってきた。


「デスボール、およそ二千を発見! ここから徒歩で五分の位置! こちらに向かってます!」


 ……


 ……二千?


 二百じゃなくて?


「およそ二千です。

 手でこうやって四角を作って、その中にいる数を数えて……この四角何個分かで」


「村長。

 戦で敵兵を数える時の方法です。

 間違いないかと」


 そうか。


 いや、疑ったわけじゃないが……


 二千はどうしようもない。


 さっき、百を相手にしてわかったのだが、あいつらは馬鹿じゃない。


 敵わないとわかると避けて進む。


 十も倒せば、俺には向かってこなくなったので追いかける必要があった。


 結構、大変だった。


 グランマリアに何度かデスボールの群れの先頭に運んでもらったぐらいだ。


 そして、百を倒すのに半日。


 俺がこのまま昼夜問わずに戦ったとしても……半数を潰せるかどうか。


 半数を潰された段階で進路を変えてくれるなら良いのだが……



 対処をミスったか。


 倒しに出ず、村の防御を固めるべきだった。


 いや、後悔よりも村人を避難させないと……


 くそ、そろそろ日が沈む。


 焦る俺をさらに焦らせるように、デスボールの大群が姿を見せた。


 もうここまで来ているのか。


「グランマリア、クーデル!

 村に避難命令!

 持てる物を持って……」


 俺の命令をさえぎるように、黒い影が森から飛び出した。


 村の方から来た?


 それはザブトンの子供たち。


 何十匹、いや何百匹?


 しかし、無秩序ではない。


 四匹で一グループを作り、木に糸を引っ掛けて飛んでいる。


 一匹が俺に向かって足を上げて挨拶すると、そのままデスボールの大群に向かっていった。


 後は見ているだけでよかった。


 ザブトンの子供たちは、糸で即席の網を作ってデスボールを捕らえ、吊り上げていく。


 デスボールの硬い防御も、殺傷を考えなければ問題ないということだろう。




 日が沈み、また昇った。


 目の前には無数に……たぶん、二千……の木に吊られたデスボール。


 球状のまま動かないヤツ、獣状になって動くヤツ。


 奇妙な光景だ。


 これをどうするのかと思ったが、牙の生えた兎やデッカイ猪が食べてるな。


 その他、あまり見ない魔物や魔獣も食べてる。


 なるほど。


 転がらない状態なら、倒せるのか。


 さすがに、デスボールを捕らえたザブトンの子供たちの傍には近づこうともしないが……


「お前たちは食べないのか?」


 俺が近くのザブトンの子供の一匹に聞くと、ジャガイモの方が良いとジェスチャー。


 わかった。


 帰ったらジャガイモパーティーだ。



「グランマリア、クーデル。

 どうだった?」


 ザブトンの子供たちが来てくれたので村の避難命令はキャンセル。


 夜は俺の周辺護衛。


 今は他にデスボールがいないか見てもらった。


「大丈夫みたいです」


「逃げ延びた個体は見つけましたが村とは正反対の方向に移動しています」


 一応、槍で突いたけど無駄だったと悲しそうに槍を持ち上げる。


 とりあえず、これで解決かな。



 ザブトンの子供に頼み、デスボールを数体、絞めて持ち帰る。


 硬い外皮をなんとか利用できないかなぁという気持ちと、アルマジロって確か食用だったよなと。


 俺が見ていたアイドル農家番組を見終わると始まる次の番組で、世界中の変わった食べ物を紹介するコーナーがあり、アルマジロを食べていた。


 まあ、アルマジロ型であってアルマジロではないから味の保証はできないが……


 吊られた状態のデスボールに群がっている魔物や魔獣を見るに、味は悪くないのだろう。


 しかし、あれだけ群がられてもザブトンの子供たちの作った網は破れないんだな。




 村に帰り、状況説明。


 村人たちは特に心配してなかったようだが、もう少し危機感を持ってほしいなぁ。


 そう思っていると、クロの子供がやってきて持ち帰ったデスボールを一噛み。


 硬い外皮を貫いた。


 そして自慢気に俺に見せつけてくれる。


 ……


 なるほど。


 でもってラスティがデスボールの外皮を素手で引きちぎった。


 俺は心配し過ぎたようだった。


 で、素材になるかなぁと思った外皮はゴミになった。




 とりあえず、その日はザブトンの子供たちのためにジャガイモパーティー。


 生、かし、焼き、揚げ。


 色々用意した。


 密かにポテトサラダが人気。


 ジャガイモだけだと俺が寂しいので、サツマイモも投入。


 大学イモを作成。


 黒ゴマは塗さないのが俺流。


 メインは助けに来てくれたザブトンの子供たちだが、他の者たちに食べさせないなんてことはしない。


 徐々に人が増え、最終的には宴会っぽくなった。


 はい、お肉を焼きます。


 クロたちもお肉ね。


 ついでにデスボールの肉も使ってみるか。



 あー、ウルザ。


 一応、それはゴミだけど剣で切り刻むと片付けるのが面倒で……てか、剣を振り回すなってハクレンに怒られただろ。


 その剣、やたら切れ味が良いんだから。


 ちゃんと言われた場所に保管しておきなさい。


 返事は元気で良いけど、一晩寝たら忘れるのはどうにかならないか?


 はぁ。


 デスボールの外皮で何か……鎧とかを作れば丈夫かなと思ったが、あまり硬くないみたいだ。


 貫けないグランマリアたちの槍の方をなんとかした方がいいのかな?


 今度、考えてみよう。


 デスボールの外皮は……切り刻まれてしまったが、ボールにするには丁度良かった。


 クロたちの玩具だな。


 デスボールの肉は……あっさりしており、鶏肉みたいな感じだ。


 悪くない。


 ただ、量が少ない。


【万能農具】で狩ろうと思うと、デスボールはいささか小さい。


 デッカイ猪の方が狩りやすい。


 ……


 無理に狩らなくてもいいか。


 ラミア族の対処が正解か。


 昔から住んでいる者の知恵というヤツだな。


 今度、もう少し話を聞かせてもらおう。


 北のダンジョンに住む巨人族にも。




 夜。


 今回は俺の勇み足だったのかな?


 いや、俺だけでやろうとしたのが間違いだった。


 もう少し、他の住民たちと協力して対処しよう。


 反省しながら寝る。


 俺はウルザとは違う。


 寝ても覚えているはずだ。






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― 新着の感想 ―
ラスティ連れてって、ブレスで一閃! なんて、ジ●リの巨●兵みたいな事すれば、アッサリ片付いたかもしれんなw
2025/10/09 16:11 ななっしー
[一言] 最後何気に失礼なこと言ってるwww
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