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 俺の名は……ない。


 普通の牧場で生まれた普通の馬だ。


 自慢ではないが、その年で生まれた中では一番の期待の馬と言われて育ってきた。


 その期待に応えるべく、俺は頑張った。


 主に食事と運動と睡眠。


 俺の体格は大きくなり、どんな荷物でも運んでやると自信を付けつつあった。


 転機はある日。


 普段は威張っている牧場主がペコペコと頭を下げる商人がやってきて、俺を買ったことだ。


 金を持っていそうな迫力のある商人だ。


 悪い所に買われたわけじゃないだろうと、俺は覚悟を決めた。


 一緒に牝馬も買っていた。


 わざわざ俺の性別を知った後、牝馬を買ったのだから……ひょっとして俺の繁殖相手?


 ……マジか。


 前々から良いなぁと思っていた相手なんだけど……


 いやいや、慌てるな。


 繁殖相手と決まったワケじゃないんだ。


 いや、しかし……


 き、期待してはいけない。




 ドラゴンに縛られ、空を飛んだ。


 ……


 そっかー、俺はドラゴンのエサだったのかー……


 お持ち帰り用のお土産ね。


 ははは。


 短い馬生だった……


 などと思っていたら、とある村の牧場らしき場所で放された。


 ……


 程よく柔らかい地面。


 柵から考えて広いとは言えないが狭くはない。


 生えている草は美味い。


 馬小屋は新築。


 山羊たちも同じ場所にいるが、体格差から近寄ってこないので気にならない。


 つまり、悪くない。


 いや、良い。


 良い場所だ。


 でもって、横に並ぶ牝馬……


 俺の繁殖相手だった。


 いえいっ、やったね!


 おっと、露骨に喜んではいけない。


 クールに。


 そう、クールに接しなければ。


 大事なのはファーストコンタクト。


 ここで失敗すると、色々と大変だ。


 だから、考えに考え抜いて……声を掛ける。


「子供は何頭欲しい?」


 ……


 先走ったぁぁぁぁぁっ!


 ちが、ちょ、待って、今の無し!




 距離を取られた。


 ううっ……




 なんとか仲良くならないとなーと思っていたら、ここの主がやってきた。


 人間だ。


 この俺に乗りたいと?


 ふふ。


 いいだろう。


 俺の乗り心地に満足するがいい。


 ……


 乗せ心地が悪い。


 馬に乗ったことがないな。


 指示の仕方も悪い。


 たぶん、筋も悪いな。


 結論、この主は馬の乗り手としては失格だ。


 ついでに、連れてきた狼が怖い。


 脅さないでほしい。




 時々、主以外の者が俺に乗りに来る。


 耳の長い娘と、獣みたいな耳の娘だ。


 どちらも主以上に馬の扱いが上手い。


 気持ちよく走れる。


 だから主、恨めしそうに見ないでほしい。



 ある日、スライムが俺に乗りに来た。


 おいおい、スライムがこの俺に乗りたいって……


 いや、乗せず嫌いは駄目だな。


 いいだろう。


 乗せて走ってみる。


 おお、なかなか良いじゃないか。


 まるで何も乗せてないかのような感覚。


 ……


 スライムは落馬していた。


 すまない、次はもう少しゆっくり走ろう。


 え?


 今ので良いからもう一回?


 構わないが……


 俺はスライムに付き合い、走り続けた。


 スライムは努力のおとこだ。(雄雌があるかは知らないが)



 スライムが狼に乗ってた。


 ショック……


 ええ、俺よりも狼の方が良いのー。


 不貞寝。


 寝転びながら草を食う。


 もう何もやる気にならない。




 スライムが俺に乗りに来た。


 へっ、俺よりも狼の方が速いんじゃないですかねー。


 ……


 ちょ、そ、そこまで言われちゃ、し、仕方ないなぁ。


 ちょっとだけだぞ。


 ふふ。


 狼より俺の方が乗り心地が優雅だなんて、そんなわかってることを……




 ライバルが登場した。


 ケンタウロスとかいうヤツだ。


 くっ。


 主を乗せて走りおって……


 その主は俺の主だぞ。


 主、主、俺の方にも乗るべきではないか?


 この際、多少下手でも我慢しよう。


 乗り手の不足は、俺が補う。


 ……


 補えるレベルを超えられると困る。


 だが、ケンタウロスなんぞには負けん。


 あれに負けちゃ駄目な気がする。


 って、こらー!


 俺の妻に色目を使うんじゃないっ!


 子供だと思って油断していた。


 子供でもケンタウロスはケンタウロス。


 雄は雄だ。


 え?


 いつ私が俺の妻になったって?


 おいおいハニー。


 今更じゃないか。


 発情期に負けた春を思い出す。


 ぽっこりお腹で、そろそろ出産だ。


 村に人が増えて色々と忙しいみたいだが、耳の長い娘と獣みたいな耳の娘が世話をしてくれる。


 頼んだぞ。



 息子誕生。


 おおっ……


 感動。


 スクスク育つんだぞー。


 妻も頑張った。






 俺の名はベルフォード。


 主はどこかの有名な馬の名を付けてくれたのだが、しっくり来なかった。


 あの時は妻との距離感に悩んでいた頃だったからかもしれん。


 ベルフォードは獣耳の娘が付けてくれた名だが、しっくり来た。


 妻と仲良くなっていた頃だったからかもしれん。


 ともかく、俺はこの村で最速の馬としてこれからも頑張っていこうと思う。


 息子よ、俺の勇姿を見るがいい。


 今日はケンタウロスたちとのレースの日。


 この日のために、練習もした。




 レースの結果は気にしてはいけない。


 うん、時の運だ。


 勝ち負けに拘るようでは駄目だぞー。


 今日は父さん、拗ねて寝るけどなー。




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― 新着の感想 ―
馬で思い出した。 小学生の頃に家族で北海道旅行に行った時 乗馬体験をしていて 乗馬しながら集合写真を撮ろうとしたら 父が乗っていた黒馬が大きなうん○をしだして・・・ というイベントを思い出した。
[一言] 酒スライムちゃんと乗馬の練習してたのか。偉い! 馬もこんなこと考えてたのか(苦笑
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