帰り道その二
ラスティが燃やした場所で宿泊準備。
周囲の敵は退治したので問題なし。
同時に食料もゲット。
「魔法で村まで送るよ?」
「助かるけど、始祖さんの魔法に頼りっぱなしもな」
始祖さんには、イザという時に頼らせてもらいたいので、雑用には使いたくない。
嘘です。
まだまだキャンプ気分を満喫したい俺のわがままです。
旅の途中で家に帰るのは、邪道。
某劇場アニメで、家から通いでジャングル冒険してたのがあったけど、それは冒険とはいわないと思う。
冒険ゴッコだ!
……
まあ、子供向けアニメだからそれでいいのかもしれないけど。
一応だが、帰って子供たちの顔をみたいという気持ちもあるにはある。
また、ウルザを先に村に送るのもありかとも考えた。
ただ、そうするとウルザが懐いているアンも一緒に帰すことになり、なんだかんだとそのまま全員が帰る流れになりそうだったので頭の中で却下した。
ウルザがヘタっているなら考えるまでもないのだが、元気に暴れまわっているしな。
本当に俺のわがまま。
開放的になっているのかも。
いや、村での生活で色々と溜まっていたのかな。
ストレスのない生活をしていたつもりだったけど。
「私が個人的に戻るのは構わないだろう」
「それは構わないが、なにかあったのか?」
「調味料が足りないみたいなんだ」
始祖さんが、料理の準備をしている鬼人族メイドのアンや、悪魔族のブルガ、スティファノの方をみる。
頼まれたのだろう。
俺としても、料理は美味しい方が良い。
許可した。
まあ、俺の許可なんて不要なんだが……
料理は他の者たちに任せ、俺は【万能農具】のクワで耕した後、ハンマーで固めてテントを設置する場所を作る。
場所を作れば、後はハイエルフのリアを中心に、リザードマンのダガ、獣人族のガルフがテントの設置。
温泉地でも使っていた物なので、取り扱いは慣れたもの。
すぐに幾つものテントが張られる。
俺はテントから少し離れた場所にトイレを建設。
トイレの有無はアウトドアの最大の壁だからな。
気にするのは俺だけかもしれないが。
食事をするためのテーブルと椅子を作り、俺は食事ができるまで焼け跡を耕し続けた。
ルー、フローラ、ティア、グランマリア、キアービットは、クロたちと交代で周辺の偵察に出ている。
元々、アンデッドがいたらしいので逃さないためだ。
この辺りなら魔物や魔獣にすぐに狙われて数日も存在できないとのことだが、用心はしたい。
「アンデッドは発見できなかったわ」
「そうですね」
アンデッドはいないみたいだけど、見たことがない魔物や魔獣がいるらしい。
「大抵はクロさんたちでなんとかなっていますけど」
「もう少し活躍したいです」
「私よりは活躍してるでしょ」
ルー達は偵察以外に、水を運ぶ仕事も兼ねてもらっている。
魔法で川から大きな水の球を作り、運んでくる。
でっかいスライムみたいだ。
ウルザがそれを見て喜んでいる。
それはいいが、デカ過ぎじゃないか?
用意している樽に入りきらない分はどうするんだ?
ああ、そこらに撒くのね。
構わないけど。
ハクレンはウルザの面倒を見ている。
打ち解け始めてはいるようだが……
「そこに行くと泥が……」
「べー」
先は長そうだ。
ラスティは別行動。
周辺の魔物や魔獣を退治した後、巨人族のダンジョンに向かってもらった。
マクラと合流するためと、巨人族の者たちがアースラットのトンネルに入らないように連絡するためだ。
始祖さんの転移魔法に頼る案も出たが、アースラットの穴を塞ぐのに魔法を使うので遠慮したのだが……
調味料を取りに帰るぐらいに余裕があったなら、頼んでもよかったかな。
ラスティが積極的だったから、それはそれでいいか。
同行者にザブトンの子供たちが数匹。
ドラゴン姿のラスティの背中から、こちらに向けて足を一本、上げる姿は勇ましかった。
このドラゴン姿のラスティに、ウルザ大興奮。
ハクレンが対抗してドラゴン姿になったけど、見向きもされなかった。
……
ハクレンを慰めた。
食事。
始祖さんは、村から食料も持ち込んだようだ。
リンゴやナシ、ミカンなどがテーブルに並ぶ。
ウルザが喜んでいるからいいけど……
酒はどうなんだろう。
「しかも、これ。
ドノバンが隠していたヤツだろ?」
「親蜘蛛……ザブトン君が渡してくれたよ」
ドノバン、泣いてなきゃいいけど。
ウルザは駄目だぞ。
果実ジュースで我慢しなさい。
さて、一晩経過。
朝。
クロ達が交代で見張りをしてくれたので、安眠。
それなりの獲物が山になっているけど……
音もなく仕留めたのかな?
ひょっとして、寝ている俺たちに気を使わせてしまったのだろうか。
甘えてくるクロやユキを撫でると、列が作られのびていった。
寝てるのはわざわざ起きなくてもいいんじゃないかな。
朝食前には解放してほしい。
少し遅くなった朝食後、少しまったりした後で始祖さんが活動を開始。
トンネルを埋める作業をするらしい。
その前に穴の底にある黒い岩を確認する。
正直、俺が見てもどうしようもないが、変わった岩とのことなので見てみたい。
黒い岩だった。
うん、真っ黒。
加工して食器とかにしちゃ駄目かな?
岩を調べている始祖さんに言ってみたら笑われた。
「削れるなら構わないよ」
超硬いらしい。
なるほど。
俺は【万能農具】をノミにして構える。
ん?
……?
………………?
これは……ウルザに繋がっていたモヤの糸?
黒い岩の下から染み出すようにいくつも出ている。
先は……ないようだが、まるで触手のようだ。
気持ち悪い。
俺は【万能農具】をクワにして、糸を断ち切る。
ブッツンブッツン切れる。
いいね。
しかし、切っても切っても黒い岩の下から出てくる。
大元が岩の下にあるのだろうか?
……
「始祖さん、調べ終わった?」
「確認だけだからね」
「何かわかった?」
「何もわからないのがわかった」
「ははは」
「戻る?」
「その前に、この岩って加工してもいいかな?」
「んー、私の持ち物じゃないからね。
いいんじゃないかな?」
なるほど。
大きな黒い岩。
下から変なモヤの糸が出てくる。
岩を潰して、下の変なものを耕してしまうのが一番かもしれないけど……
耕しきれないと困る。
モヤの糸は気持ち悪いしな。
だから、俺はこうした。
「おおおっ!」
半日後、大きく黒い岩は創造神の姿になっていた。
接地している部分は弄らず土台にし、岩の上部を削って作った。
黒い色が似合わないかとも思ったが……創造神の姿になったところで黒い色がゆっくりと灰色に変化していった。
最終的に白になるかもしれない。
そして、岩の下から出ていたモヤの糸は霧散し、姿を見せない。
この空間の空気も綺麗になった気がする。
始祖さんが祈っているからかな?
そういえば、トンネルの先にもう一箇所、黒い岩があると言ってた。
そこからもモヤの糸が出ているかもしれない。
トンネルを埋める前に、もう一箇所も加工した方がいいかな。
始祖さんにそう言うと、これを埋めるのですかと泣きそうな顔をされた。
そんな顔されても、最後は埋めるよ。
そうしないと面倒な事が起きそうだから。
「やだやだやだ」
始祖さんの説得に、苦労した。