温泉調査隊再結成
グランマリアが連絡した天使族が来ない。
どうしたのだろう?
「本当にどうしたのでしょう」
グランマリアが少し心配している。
代わりにキアービットがよく遊びに来るのだが……
「キアービット、何か知っているか?」
「特には?
私が遊びに行くとは伝えたけど」
……
「グランマリア。
お前が声を掛けた天使族って、キアービットと仲が良いか?」
「良いとは……言い切れません」
キアービットがよく来るので、来難い、もしくは取り止めたのだろうか。
……
いつ来てもいいようにはしておこう。
大樹の村の一角で、大きな音が上がった。
「失敗だな」
「失敗ですね」
「残念です」
ドワーフ、山エルフ、鬼人族が揃って大きなため息を吐く。
彼らがやっているのは、圧力鍋の作成。
俺が料理の最中に圧力鍋のことを思い出し、その利便性と構造を教えた結果なのだが……
上手くいっていない。
俺の構造の知識が曖昧なところもあるが、空気を逃がさない鍋と蓋を作るのが難しいようだ。
熱せられた鉄の膨張でなんとかなるかと思ったが、そう簡単じゃないようだ。
ちなみに、魔法によって圧力鍋を使ったのと同じ効果を得ることには成功している。
それなのに圧力鍋を作り続けているのは、研究心の結果だろう。
忙しいこの時期に意地や暇潰しをやっているのではないと信じたい。
獣人族のガットと人族であるナーシィは、まず先に移住していたセナたちの手伝いから始めた。
セナとガットの兄妹仲は悪くないようだし、ガットが素直にセナの言うことに従っているので問題は起きていない。
「しばらくはガット一家を気にしてやってくれ」
「もとよりそのつもりです。
ご心配なく」
獣人族の世話役であるラムリアスも、ガット一家の受け入れに問題はない。
温厚な一家でよかった。
獣人族の男の子たちも、ガットとナーシィに懐き出しているし、二人の子のナートとも仲良くやっている。
将来的に、男の子の誰かと結ばれるかもしれないとか考える。
うん、未来は明るい。
始祖さん。
吸血鬼の始祖で、コーリン教のお偉いさんだが……
収穫の手伝いをし、さらに料理を振舞ってくれたり、小物作りを頑張ったりしてくれている。
そのうえで、朝、昼、晩とお風呂を楽しみ、合間に遊戯をして楽しんでいる。
特にミニボウリング、ダーツ、ゴルフの腕前はかなりのものだ。
感想としては、時間の使い方が上手い。
そして瞬間移動が便利だ。
「ちょっと特殊だけど、それほど難しくないよ。
記憶を消した後で、開発した魔法だしね」
「へぇ」
俺に魔法の才能があれば、教えてもらいたいところだ。
俺が感心していると、ルーがこっそり伝えてくれる。
「始祖様の難しくないは、一般人が一生を費やせばなんとか……のレベルよ」
なるほど。
「ところで村長。
フーシュが世話になった件のお礼なんだけど、次の春ぐらいには用意できそうだよ」
「そうか。
何かは知らないが、楽しみに待ってるよ」
「期待してていいよ。
ああ、もちろんルーとフローラも喜ぶだろうから」
ルーとフローラには苦労させたから、二人に喜んでもらえるならありがたい。
収穫が一段落すると、冬に向けた準備が行われる。
主に冬の間に消費する薪の確保、屋敷に篭って行う作業の材料集め。
そして保存食を作る。
保存食は、シンプルにお肉の燻製だ。
クロ達が捕まえてきた牙の生えた兎キラーラビットや、巨大な猪ゲートボアが主な材料。
そういえば昔、ゲートボアは俺に止めを刺させていたが……今ではその必要はない。
ウノのように単独でゲートボアを仕留める個体が増えたことと、数の暴力で対処可能らしい。
頼もしいが、怪我はしないでほしい。
そうやって冬の準備をし、ほどほどに余裕ができたところで俺は提案した。
「温泉調査隊を再結成しよう」
温泉。
北のダンジョンのさらに北にあるらしい温泉に行ってみたい。
前回は熱過ぎて入れないとのことだったが、俺がいれば川から水を引けるかもしれない。
もちろん、俺がリーダー。
いや、リーダーじゃなくても参加しないと意味がない気がする。
「それに、北のダンジョンにいる巨人たちに挨拶もしないと」
存在を知って長いが、未だに俺は北のダンジョンにいる巨人たちと会っていない。
色々と理由をつけて温泉調査隊の再結成と参加を表明したが、村の住人の抵抗は手強かった。
「まず、温泉調査隊の再結成に関しては構いません」
住民サイドの妥協。
「ですが、それに村長が参加するのは危険ですから、遠慮していただけると」
住民サイドの主張。
北はそんなに危険な地域なのだろうか?
「北のダンジョンにいる巨人たちとの挨拶が必要でしたら、ここに呼びましょう」
「え?
いや、それはさすがに失礼じゃ?」
「力関係的には大丈夫です。
逆に、これまで挨拶に来ていないのが問題視されても仕方がないかと」
「いやいや、まてまて」
別に友好的な種族なのだろう?
そんな挨拶に来るとか呼びつけるとかしなくても……
「こちらから挨拶にうかがうほど、世話になっていません」
「それなりに世話になっているだろう。
えーっと……ほら、去年。
新しく来た住人の家が間に合わなかった時、受け入れてもらう約束とかしたし」
「相応の物資を渡しています。
また、彼らを困らせていたブラッディバイパーの多くを退治したのもハクレンさん、ラスティさんですから」
話し合いの流れは北のダンジョンの巨人たちを呼びつけるべしという方向に向かった。
いつもの俺なら流されていただろう。
だが、今日の俺は違う。
「いや、俺が行く」
何が俺をここまで強固にさせるのか。
温泉?
いや、違う。
見知らぬ北のダンジョンの巨人を呼びつけるということを、なんとか避けたい気持ちだ。
向こうから用事があるならともかく、呼びつけてどうしろというのだ。
それなら触らずにそっとしておいてあげたい。
そして、話がズレているが、俺は温泉調査隊に参加しないと温泉が作れないのではないか?
「危ないと俺が思ったら、その場で引き返すから」
周囲の反応から危険な場所のようだが、そんな場所に住民たちだけを送り込んで俺だけ安全な場所にいることにも抵抗がある。
俺は押し切った。
温泉調査隊、再結成。
リーダー! 俺!
メンバー!
吸血鬼のルー、フローラ。
天使族のティア、グランマリア。
ハイエルフのリア。
鬼人族のアン。
リザードマンのダガ。
悪魔族のブルガ、スティファノ。
ドラゴンのハクレン、ラスティ。
インフェルノウルフのクロ、ユキ、他五十頭。
ザブトンの子、マクラ、他百匹。
そして始祖さんと天使族のキアービット、獣人族のガルフがついてくる。
……
「調査隊というより、侵攻軍みたいな感じですね」
見送りのフラウが呟いた。
「大袈裟な。
まあ、確かに人数が予想より多いけど……」
これにハイエルフや山エルフ、リザードマンがさらについてこようとしたのだが遠慮してもらった。
残って大樹の村を守ってほしい。
「留守はお任せを」
留守はフラウと山エルフのヤー、ドワーフのドノバンに頼む。
もちろん、ザブトンや残ってくれるクロの子供たちにも頼んだ。
「では、行ってくる」
俺は荷物を背負い……背負う荷物はクロの子供たちが持ってくれた。
手ぶら。
少し寂しいので、落ちている木の枝……落ちてない。
……
【万能農具】をクワの形にし、構えた。
「よし、行くぞ!」
そう宣言した俺に、始祖さんが近寄ってきた。
「あの、魔法で送るけど」
……
始祖さんはそれが嫌だったらとハクレンとラスティをみる。
うん、歩いていく必要はないよね。