秋の収穫となんやかんや
秋になった。
収穫だ。
これまでは作物を全部収穫して、残った部分を【万能農具】で耕して全て土にし、新たな畑を作った。
冬が近い秋の収穫の場合でも、土にしている。
しかし、今回はいつもと違って注意する必要がある。
それは、二村三村で通常の農業をしてもらうからだ。
種用として残さなければいけない。
いけないのだが……
明確に種があるのはいいが、ないヤツはどうすればいいのだろう?
根野菜系は、確かそのまま放置でよかったと思うが……
色々やって、確かめていくしかないだろう。
元から種無し品種だったら……困るなぁ。
バナナは種無しだから、そういったのがいくつか混じっていても不思議じゃない。
【万能農具】で耕す時、種有りを意識すれば大丈夫かな。
手段としては、余所から種や苗を購入する方法もある。
別にここしか農業をしていないわけじゃない。
各地で普通に農業をしている。
農業経験のあるミノタウロスたちには、そっちの方がいいかもしれないなぁ。
しかし、今は全力でやることをするだけ。
「つまり……大樹の村の収穫はいつも通りで、二村三村は考えながらと」
「それで」
文官娘衆の一人がまとめてくれたので、乗っかっておく。
「ワインなんだが、皮を取ることで渋みの少ないワインになるらしい」
ドワーフのドノバンがそう言ってきた。
造りたいのだろう。
「別に造ってもいいが、どうして俺の許可を?」
俺の許可など取らずに作っていると思うが……
「いや、それなんだが……ブドウの皮を取り除くのに人手がな」
「なるほど。
誰かに目を付けているのか?」
「頼むなら手先の器用さで獣人族の娘たちなんだが、連中はこの時期、忙しいからな」
「確かに。
油を絞ったり、加工品を作ったりしてもらっているからな」
「ハイエルフや山エルフたちも冬仕度に忙しいし、リザードマンたちもだ」
「この時期に手が空いているヤツの方が珍しいだろう」
お祭りや武闘会を秋の収穫後にしないのは、忙しいからだ。
「それで、誰かいないかと探した結果……ラミア族が稼ぎたいと言ってきてな。
彼女たちを雇いたい」
それで俺の許可を求めて来たのか。
「構わないが、報酬は?」
「村に滞在している間の食事と宿、後は作物を現物で欲しいそうだ」
「わかった。
問題ないだろう。
渡す作物の種類と量はドノバンが決めてくれ」
「わかった。
任せてくれ」
こうしてラミア族が数人……六人だった。
ラミア族が酒造りの手伝いとして村に滞在し、ブドウの皮を剥き、潰していた。
うん、平和な光景。
収穫が終わると、ハウリン村との交易という名の物々交換。
今回はダガが代表者。
武闘会を終えて帰る時、向こうで手合わせをする約束をしたらしい。
それは構わないが、役目を忘れないように。
計算できる文官娘衆が二人、同行する。
力仕事に関しては、向こうで雇うことになった。
これまでの実績と、ハウリン村が少しでも稼ぎたい事情の結果だ。
相変わらず、人間の村と揉め続けているらしい。
首を突っ込む気はないが、そろそろなんとかならないものか?
ハウリン村も揉めている人間の村も魔王国の領内だから、魔王やビーゼルに相談すればなんとかなるかな?
あー、でも、ガルフが武闘会に来た時、魔王やビーゼルを見てるよな。
魔王やビーゼルでなんとかなるなら、その時に言ってるかな。
……
ハウリン村から相談されたら、考えることにしよう。
相談された。
「え?
俺が魔王に?」
ハウリン村から帰ってきたダガに、ガルフが同行してきた。
そして詳細説明。
色々と限界に近く、村を捨てることを視野に入れつつあるらしい。
本来、村が困ったらその村を治めている村長が代表者となり、領主に訴えればいいのだが……
訴えれば、その件を領主に預けることになるので、その後の裁定がどうでても従わなければならない。
どうも領主は人間の村寄りらしく、ハウリン村としては領主に不信感があって訴えられないらしい。
そこで領主に命令を出せる立場。
魔王への直訴を考えたのだが……
「魔王様への口利きを頼む」
「口利きって……要は、魔王にハウリン村の話を聞いてやってくれと言えばいいんだよな」
「ああ」
「武闘会の時に言えたんじゃないのか?」
「そんな恐れ多い」
「……えっと」
俺とガルフが困っていると、いつの間にいたのかフラウがコッソリと教えてくれる。
「あの、魔王様は魔王国の一番偉い方ですから。
領民が直接言葉を交わすことなんてありません」
「子供の名前、考えてくれたけど」
「普通はありえません」
「つまり」
「村長なら魔王様にお話しすることは可能かと」
「そうだろうけど……とりあえず、揉めている原因を聞かせてもらおう」
ないとは思うが、ハウリン村の方が悪い可能性もあるのだから。
ハウリン村と揉めている人間の村の名は、ヒュマ村。
揉め事の原因は、ヒュマ村からハウリン村に嫁いだ娘が出戻ったことが発端らしい。
その後、なぜかハウリン村との取引が不平等なものになり、周辺にも圧力をかけられた。
ハウリン村も黙ってやられてはおらず、周辺の村に状況の推移を訴えた。
ハウリン村としては、周囲の村から言われたらさすがに折れるだろうと思っていたが、ヒュマ村は取引停止を選択。
現在に到る。
「ハウリン村としては、その出戻った娘がヒュマ村であることないことを訴えたのではないかと考えている」
「なるほど。
その出戻った理由は?
夫婦仲が悪かったのか?」
「いや、夫婦仲は悪くなかった。
それに娘も良くできた娘だった。
ただ、山での暮らしに馴染めず体調を崩してな。
娘は残りたいと必死だったが、ヒュマ村からわざわざ嫁いできて早々に死なれてはと……」
「返したと」
「ああ」
話がハウリン村側の視点だからかもしれないが、ハウリン村に悪い点が見当たらない。
武力を持ち出さないだけ、ハウリン村が冷静な対処だと思う。
「領主はどうしてヒュマ村寄りなんだ?」
「領主は人間だ。
それに、ハウリン村よりヒュマ村の方が領主の屋敷に近い。
ハウリン村に領主が来たことはないが、ヒュマ村には領主が何度も滞在している」
領主としては、世話になっている村の後押しをしているだけか?
「一応、俺と村長が領主に現状を話しに行ったことはあるんだ。
ただ、ハウリン村が悪いとのヒュマ村の主張を受け入れてな。
話の流れではそのまま訴えようと狙っていたのだが、駄目だと思って引き下がった」
ふーむ。
やっぱりヒュマ村の方が悪いのか?
ヒュマ村の主張を聞きたいが……
考えているとフラウが後ろから合図をしてきた。
「確認してほしいことがあるのですが……」
「ん?」
俺はフラウの話を聞き、ガルフに質問する。
「その出戻った娘は、ヒュマ村の有力者の娘なのか?」
「ヒュマ村の村長の親戚だと聞いている」
「ハウリン村の夫は?」
「村長の息子だ。
セナの兄になる」
「夫婦になる切っ掛けは?」
「親同士の決め事だ。
ヒュマ村から出た話で、ハウリンと友好を固めたいからと」
「その結婚を祝う式とかしたか?」
「ああ。
ヒュマ村で盛大にな。
領主も参加したぞ」
俺は質問を終え、フラウを見たら……
フラウが頭を抱えていた。
「どうした?」
「どうしたもなにも、それ、完全にハウリン村が悪いです!」
「え?」
世の中、よく解らないルールがあるらしい。
文化の違いかな。