色々ありました
「美味しい、もう一杯」
キアービットと数名の天使族は、夕食を楽しんでいた。
客の夕食には酒が出る。
酒が出れば宴会になる。
宴会になると住民たちも参加する……
それなりに賑やか。
ハーピーたちも参加している。
いい飲みっぷりだ。
そして酔ってるね。
キアービットがタップダンスらしきものを始めた。
軽快なリズムで、場が盛り上がってしまう。
ティアやヤーも踊りだした。
それは構わないが、俺を誘うのは止めてほしい。
あと、机の上で踊るのは勘弁してください。
「うう、頭が痛い……」
「これが試練……」
キアービットと数名の天使族、ハーピーたちは昼過ぎまで寝てた。
飲むのは構わないが、翌日に影響を残すのはよろしくないと思う。
「ここの酒は美味いからな。
初めての者は飲み過ぎても仕方がない」
ドノバンがフォローするが、連中は前に来た時に飲んでるぞ。
別に規制しないから、心配そうな顔をしないように。
ちなみに、ハーピーたち以外の住民で二日酔いになっている者はいない。
いつも通り、仕事に励んでいる。
影響という意味では、キアービットのタップダンスっぽいものがザブトンの子供たちの間で流行。
これまで無音だったのに、屋敷のあちこちでリズミカルな足音が聞こえるようになった。
練習場所と時間を決めてもらうよう、お願いする。
「できたわよ」
ルーとフローラが少し疲れた感じで、フーシュに薬を渡した。
二日酔いの薬ではなく、フーシュがこの村にいる理由。
とある病気の治療薬だ。
なんでも、フーシュの息子が難病に罹り、その治療薬の作成をルーとフローラが引き受けたらしい。
始祖さんが口添えしたから、断れなかったのだろう。
まあ、偉い人から「無理なら断っていいから」と言われて、本当に断るのは勇気がいる。
少しの苦労で偉い人の歓心を得られるならと、二人は頑張った。
俺は知らなかったが、薬学の世界ではルーとフローラはかなり有名なのだそうだ。
作成の腕に問題はない。
問題は薬の材料なのだが……全部、村の薬草畑にあった。
フーシュとしては、薬を作ってくれる人を確保してから材料集めに邁進する気だったので、かなり驚き、そして喜んでいた。
「後は始祖さんが迎えに来るのを待つだけか」
「薬の作成時間は伝えているから、遅くても二~三日後には来るんじゃないかな」
とか言ってたら、始祖さんが来た。
「少し早いと思ったけど、丁度良い感じだったね」
「宗主様。
わざわざ、申し訳ありません」
「いいのいいの。
どうせ暇してたしね。
さて、来たばかりだけど、早く帰りたいだろうから失礼しようか」
「はい。
よろしくお願いします」
フーシュは少量の荷物と大量のお土産を持って、始祖さんと共に帰っていった。
始祖さんの長距離の移動方法は、転移魔法みたいなもの。
転移魔法みたいなものというのは、普通の転移魔法とは違うからだ。
普通の転移魔法とされる魔法は、空間と空間を繋ぐ門を作るようなスタイル。
その門の大きさや通行させる量、そして距離で消費魔力が違うらしい。
さらに高度な魔法らしく、俺の知っている人で使えるのはビーゼルだけだ。
ドラゴンたちは使わないのかなと思ったが、魔力を大量に消費してまで転移魔法を使う理由はないそうだ。
翼があるので移動には困らないと胸を張られた。
使えないのではなく、使わない。
ここが大事だそうだ。
対して始祖さんの転移魔法は、物体を特定の場所に移動させるテレポート。
こっちの方が転移魔法と呼ぶのに相応しそうだが、使う人が始祖さんだけらしいのでどうでもいいそうだ。
「ただいま」
帰ったと思った始祖さんがすぐに戻ってきた。
「少しの間、のんびりさせてもらうよ」
手土産というか宿泊代なのだろうか、小さな盾を渡された。
「なんだこれ?」
「魔法の盾。
火に対しての守りが強いから、家に飾れば防火の効果があるよ」
「おおっ。
それは便利だな」
「ただ、台所の近くは避けた方が良いからね」
「ははは。
確かに」
屋敷の玄関に飾らせてもらうことにした。
「薬のお礼は、また別に用意させてもらうよ。
話を持ってきてなんだけど、薬の材料集めに手間取ると思っていたから用意が間に合わなかったんだよね」
「気にするな……と言いたいが、頑張ってくれたのはルーとフローラだからな。
頼むよ」
「期待しておいてよ」
「ははは。
でも、前に薬草畑を見てなかったか?」
「見てたけど、薬の知識じゃ彼女たちに敵わないからね」
「そうなのか?
始祖さんの資料をもとに、ルーたちは独学だったと言ってたけど?」
「それ、記憶を消す前の話。
その資料も、時の流れで薬草の生態が変わっちゃってるから、あまり役に立たないよ」
「へー。
話が変わるけど、フーシュさんとはどうやって知り合ったんだ?」
「コーリン教の司教ともなれば、自然と知り合うよ。
ちなみに、その時に私の正体を教えている」
「揉めないのか?」
「揉めないね。
みんな、なぜか納得した顔をする」
「色々と伝説があるからだろ」
「かもしれない」
始祖さんは笑いながら屋敷の客室に向かった。
と思ったらすぐに戻ってきた。
「像が光ってるんだけど」
それ、フーシュさんが原因。
「世話になったわね。
武闘会に興味はあるんだけど、そろそろ帰らないといけないのよ」
キアービットたちが帰るので挨拶に来た。
「残念だな。
まあ、近くを通る時にでも寄ってくれ。
ハーピーたちが喜ぶ」
「そうだと良いんだけどね」
キアービットたちもお土産をそれなりに抱えている。
「大丈夫なのか?」
「これぐらいならね。
それに途中まで送ってもらえるし」
キアービットたちは、西の魔王国の王都までラスティが送る。
フラウと文官娘衆の数人が、所用で戻るのに付き合うからだ。
それに便乗するらしい。
「転移魔法が使えたらって思うけど、あれって本当に難しいのよね」
「みたいだな」
俺には簡単な魔法も難しいが……
「転移魔法を封じた道具があるって噂もあるけど……実物を見た人はいないのよね。
きっと独り占めしてるのよ」
「ははは」
ドースか始祖さんなら知っているかな?
キアービットたちはラスティに乗って帰っていった。
次は武闘会か。
あ、いや、その前にリアたちの出産が先かな。
のんびりしたいけど、忙しくなりそうだ。