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今年のお祭り



 これまで麻雀のチャンピオンはハイエルフのリゼだったが、そのリゼが妊娠中で参加を見合わせている間にトップに立ったのがフラウ。


 圧倒的な読みの鋭さで鉄壁を誇り、大きく負けず勝ちを積み上げていった。


 その牙城を崩そうとしているのが、ロナーナに会いに来ていた魔王国四天王の一人、グラッツ。


 変則的な打牌で他者を翻弄しながらも、手役は高い。


 一撃で相手を沈めるスタイルで対抗していた。


 巻き添えを食らったのが他二名。


 俺と悪魔族のブルガ。


「何を捨てても当たる気がする……」


「ですね。

 現物以外は駄目っぽいです……通してください」


「ごめんなさい。

 ロンです」


「俺もロンだ。

 ダブロンはありだったな」


「うがぁっ、なぜその捨て牌でその待ちにっ!」


 ブルガが最下位に落ちたので、俺がなんとか三位になった。


 そしてそのまま終了。


 良かった。


 俺の連続最下位の記録が止まった。


「ふふふ。

 なかなか面白い遊具だ。

 できれば一セット、売ってほしいのだが」


「構わないけど、囲む相手が居ないだろ?

 ルール覚えるの大変だぞ」


「あー……確かに」


「グラッツ様。

 魔王様と王姫様、それにお父様ならできますよ」


「そうなのか?」


「ええ、こちらに来ていた時に遊んでいましたから」


 そういえば武闘会をやった時にドースたちと遊んでいたな。


「なら問題なし。

 一セット、頼む」


「承りました。

 で、ロナーナを放って遊んでいていいのか?」


「ロナーナとは十分に話をしている。

 それに、ロナーナは仕事だろう。

 邪魔はできん」


 ロナーナは、クロの子供たちの護衛を引き連れ、二村に向かっている。


 いざと言う時、一人でも二村に行く練習だ。


 前々から予定されており、出発する前日にビーゼルに連れられてグラッツが来たのだからタイミングが悪かった。


「一応、ロナーナに急がなくても良いぞとは言ったんだけどな」


「その辺りも聞いているから大丈夫だ。

 恨んだりしないさ」


「それは良かった。

 っと、ビーゼルが来たみたいだぞ」


「遅かったな」


「こちらに戻ってくる直前に、北方で怪しい動きがあると連絡を受けまして。

 その対策です。

 あと、フラウレム。

 学友を鍛え過ぎだ。

 連れ帰れば、すぐに城で働けるぞ」


「現場研修……いえ、すでに現場に出ているようなものですから。

 本人たちが希望すれば、送り返しますよ」


「何人かに声を掛けたが、断られた」


「おいおい、俺の目の前で村人を引き抜かないでほしいんだが」


「ははは。

 失礼しました。

 では、グラッツ。

 そろそろ戻りましょうか」


「わかった。

 村長、牌はすぐに持っていけるか?」


「ええ。

 すぐに」


 俺は麻雀セットを一組、渡す。


 前にドースたちが来た時に求められ、同じことがあるかもと用意していた物だ。


「この折り畳めるテーブルも、なかなかの技巧だ。

 ビーゼル、戻ったら相手を頼むぞ」


「構いませんが、時間を決めてくださいよ。

 あと、魔王様を誘う時はスケジュールをチェックしてからですからね」


「その辺りは任せる」


「私にだけ任せないでくださいと言ってるんです」


 賑やかな来客だった。





 お祭りの季節がやってきた。


 武闘会は独立したので別のことをする。


 長く会議をやっても結論が出ないので、今年もクジに任せることにした。


 クジを箱に入れる前に内容をチェックしようか悩んだが、選別が難しいのでノーチェック。


 代わりに、俺が考える無難なお祭り内容を大量に投入した。


 みんなで騒げれば良い。


 ただ、危なくなければ!


「では、お願いします」


 文官娘衆に促がされ、クジの入った箱から一枚を取り出す。


「今年のお祭りは……」


 ……


 滑走?


 …………なに、これ?


 普通に走る競技じゃないよね。


「滑走は、坂を全力で走る競技です。

 ブルガン地方のお祭りとして有名ですね。

 十人ぐらいで一斉に走って、一番の者に賞品が出るんです」


「坂を全力で……走る」


「もちろん、降り坂です」


「あ、うん。

 そうだよね。

 ……危ないんじゃないか?」


「魔法で防御しますので、それほどでもありませんよ」


「そうなのか?」


「はい。

 ただ、この村で滑走をしようと思うと……坂がありませんね」


「そうだな。

 大体、どれぐらいの坂なんだ?」


「傾斜は地域で違いますが、高さは二十メートルぐらいですね」


「二十メートル。

 この辺りには無いし、土を積んで作るにしても大変だよな」


「大変ですね」


「よし、却下」


「えー」


「えーと言われても、労力的に無理だろう」


「わかりました。

 では、この滑走のクジを箱に戻し、もう一度引いたら滑走でお願いしますね」


「ははは。

 いいだろう」


 俺は馬鹿なようだ。


「さあ、頑張りましょう!」


 今年のお祭りは、滑走になった。




「小山を作る必要がありますね」


「穴を掘った土で横に山を作れば、高低差ができるから半分で済みますが……」


「穴は新しい池にするとしても、山はその後の活用が難しいわね」


「その土で村を囲う壁を作るとかは?」


「なんにせよ十人が一斉に走る幅の小山は厳しい。

 三人ぐらいにならないか?」


「速さがわかれば、一人ずつでも構わないと思うが……」


「ならば速さがわかるように……こうして……」


「いや、これだと滑走じゃないんじゃないか?」


「個人差が出過ぎる」


「だから、ここをこうして……」


「滑走の原型がありませんよ」


「面白ければ良いんじゃないか?」


 計画はできた。


 とりあえず、俺が【万能農具】を全力で使わなければならないのは理解できた。


 頑張ろうと思う。




 ミノタウロスたちが住む二村から来ている駐在員二人。


 ロナーナとミルア。


 二人共、当然ながらミノタウロスの女性だ。


 冬前に選ばれてから、基本的に大樹の村に駐在している。


 たまに二村に帰るが、向こうで長々と滞在はしない。


 長くて一泊ぐらいでこちらに戻ってくる。



 ケンタウロスたちが住む三村から来ている駐在員二人。


 二人共、当然ケンタウロス。


 ただ、二村の駐在員とは違い、入れ替わりが激しい。


 最初の頃は三日ぐらいで入れ替わっていた。


 今もよく替わっている。


 なぜだろう?


 ケンタウロス達の世話役のラッシャーシに聞いてみた。


「駐在員のポジションが魅力的に感じるので、希望者が殺到した結果です」


「魅力的?」


「はい」


「どの辺りが?

 食事か?」


「いえ、村長の傍で働けるということです」


「えーっと……」


「元々が領主に仕える者たちですから、権力者の傍で働けるのは喜ばしいのです」


「権力者って……俺が?」


「村長以外に誰がいるのですか?」


「あー……」


「しかも、移動の時に乗せることがあるとなれば……」


 そういえば、俺が村の外に出ようとするとケンタウロスたちがソワソワしていた。


「まあ、理解した」


「そうですか。

 では、そのうえで一つご相談が」


「なんだ?」


「グルーワルドは三村の村長を任せていますので、駐在員になれません」


「えっと……俺にどうしろと?」


 三村に行って、グルーワルドに乗って散歩した。


「これで良いのか?」


「お手数をお掛けしました」




 現在、村には世話役が四人いる。


 獣人族担当のラムリアス。


 ミノタウロス族担当のナーフ。


 ケンタウロス族担当のラッシャーシ。


 ニュニュダフネ族担当のマム。


 世話役ではあるが、基本的には大樹の村で生活をしている。


 常に管理監督するわけではない。


 助けを求められた時、相談に乗るのが世話役の仕事だ。


 なので、暇な時は暇だが、忙しい時は忙しい。


 常時、安定して忙しいのはラムリアス。


 獣人族の男の子が村に来た時よりは大きくなっているが、まだまだ小さいからだ。


 保母さんと小学校の先生みたいな感じで頑張ってくれている。


 ナーフとラッシャーシは、駐在員として来ている者たちの相談役としてなんだかんだと忙しい。


 で、ニュニュダフネ担当のマムだが……


「私ってそんなに頼りないでしょうか」


 ニュニュダフネはある意味自由にやれるので手間が掛からない。


 それゆえ、向こうからの相談があまりない。


 ほぼゼロ。


 こちらからの伝達事項を伝えるぐらい。


「もっと頼られたいです!」


 手間が掛かるのも問題だが、掛からないのも問題なのだろうか。


 今度、ニュニュダフネたちにマムに何か相談するように言っておこう。




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― 新着の感想 ―
[一言] ブルガと違ってプラーダなら、麻雀もだいぶ違ってたかもしれませんね その場合、ライバルは、イースリーとなりますね
[良い点] 麻雀。  プラーダの南場4局。目に見える…。 [気になる点] ラムリアス。 >現在、村には世話役が四人いる。 >獣人族担当のラムリアス。  十七年目の冬現在。獣人族とラムリアス個人の付き合…
[良い点] >>そういえば、俺が村の外に出ようとするとケンタウロスたちがソワソワしていた。 ケンタウロス可愛い
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