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ドマイムとクォン



 村にやってきたドマイムは人の姿になって俺に挨拶した後、宿に部屋をキープ。


 その後、ハクレンを呼んで宿の食堂で酒を飲み始めた。


 宿に泊まる客には酒が出される。


「聞いてください姉上。

 本当に酷いんですよ」


 ドマイムが来た理由。


 それは逃亡。


 なんでも結婚を強要されようとしているので、逃げてきたとのこと。


 ちなみに、なぜか俺も宿にいる。


 逆に宿に泊まっている二村三村の駐在員は、俺の家の方に避難している。


 なぜか?


 ハクレンが俺を無理やり連れてきたからだ。


「料理番?」


 俺はハクレンとドマイムのために料理を作り、並べる。


 飲みたいらしいので、お酒に合う料理を出していく。


 本来なら、宿の客でも冬の間は食べ放題というわけではない。


 だが、ドマイムはきっちりと食料を手土産として持ってきているのでセーフだ。


 存分に食べてほしい。


 そして、その料理をしたり運んだりしながら耳に入った情報を整理すると……



 嫁候補は、顔見知りのドラゴン。


 顔見知りというか、従姉弟。


 ドマイムより強いらしい。


 顔を見れば苛められていたので、そんなのを嫁にするのは嫌だ。


 嫁候補の弟をドマイムの姉のセキレンが狙っており、嫁候補の味方になった。


 ドースとライメイレンは結婚推進派。


 家に味方はいない。


 絶望したので逃げてきた。



 ということらしい。


 うん、なるほど。


 そして、今現在。


 その嫁候補さんが人の姿で、テーブルを挟んでドマイムの前に座っている。


「村長さんですか?

 ご挨拶が遅くなりました。

 クォンと申します。

 父がライメイレン様の弟で、その縁でドマイム様の妻となることになりました。

 どうぞ、よろしくお願いします」


 着ている服装はドレス。


 整えた黒髪ロングは和風を感じさせる女性だ。


 ドラゴン姿は見ていないが西洋のドラゴンではなく、東洋のドラゴンでも驚かない。


「村長のヒラクです。

 よろしく」


 ちなみに、来訪時に負傷者は居ない。


 見回りをしていたクーデルの誘導に従い、静かに村にやってきたそうだ。


 宿に居る俺に挨拶をするためにやってきたら、ドマイムが居たので席に座ったと。


 現在、ドマイムは硬直状態で身動きをしていない。


「ドマイム様?

 どうされたのですか?

 緊張でもしているのですか?

 ふふ。

 おかしな方ですね」


「……」


「ドマイム様。

 返事」


「あ、う、うん」


 搾り出すような声。


「私に会えて嬉しいですよね」


「う、うん、嬉しい」


「私と結婚できることになって嬉しいですよね」


「…………」


「ドマイム様。

 返事」


「ま、ま、前から、言ってるけど、僕は……」


「他に好きな女でもいるのですか?」


 宿の食堂に殺気が満ちる。


「こらこら、クォン。

 弟を苛めないの」


「ハクレンお姉様。

 私はドマイム様を苛めてません。

 逆に苛められている側ですよ」


「そうなの?」


「はい。

 一緒に遊びに行く約束をしたのに平気ですっぽかしたのですよ。

 私がワザワザ迎えに行ったら、居留守を使うし」


「あー……それはドマイムが悪いわね」


 ドマイムは首を横に振っている。


 うん、わかった。


 放置したいが、同じ男として放置はできない。


「ハクレン。

 すまないがクォンと少し話をしていてくれ。

 俺はドマイムと話がある」


「あら?

 お話ならここですればよろしいのでは?」


 クォンが引き止めようとするが、俺はドマイムを先に外に行かせてクォンに囁く。


「お前との結婚に前向きになるように説得するから、少し時間をくれ」


「……承知しましたわ。

 さすがはハクレンお姉様が認めた方ですね」


 俺は急いでドマイムを追った。


 ドマイムがそのまま逃げると思ったからだ。


 実際に、逃げようとしていた。


「待て待て」


 逃げようとするドマイムを引き止める。


「なにか?」


「逃げても追われる。

 そしたら終わりだぞ」


「うっ」


「まあまあ。

 ここは落ち着いてだな。

 少し話をしよう」


「話?」


「まあ、そのなんだ。

 今さっき会ったばっかりだが……あのクォンはヤバい空気がある」


「……わかりますか?」


「ああ」


「よ、よかった。

 本当によかった。

 僕の気持ちをわかってくれる人がいて」


「泣くな。

 そしてこれから言うことに正直に答えてくれ」


「なんでしょう?」


「クォンとの結婚に関してだが、お前の条件はなんだ?」


「え?」


「クォンと結婚するとしてだ。

 お前が相手に求める条件だ」


「いや、その、そもそも結婚相手として……」


「そこは諦めろ」


「諦めろって……」


「ヤバい空気があると言っただろ。

 あれからは逃げられん。

 多分、今からドースやライメイレンが結婚に反対したとしても、クォンは諦めない。

 知り合ったのが運の尽きだ」


「知り合ったって……彼女、僕が生まれる瞬間に立ち会っているんですけど!」


「なら運命だ。

 諦めろ」


「そ、そんなぁ」


「結婚は諦めたとして、絶望するにはまだ早い」


「……と言いますと?」


「だから条件だ。

 相手の嫌な部分があるんだろ。

 そこを改善してもらおう。

 そうしたら結婚してもいいと思えるようになるんじゃないかな」


「そんな、聞いてもらえるとは思えません」


「そうなのか?

 今まで、そういった意見を言ったことがあるのか?」


「あ……いえ、言ったことはありませんが……」


「だったら言ってみろ」


「あ……う……」


「大丈夫だ!

 俺の見立てでは、確実に言うことを聞いてくれる!」


「ほ、本当ですか?」


「ああ。

 だが、そのためにはお前がしっかりと言うことが大事だ」


「でも、僕。

 彼女の前に出ると上手く喋れなくて……」


「わかった。

 紙に書こう」


「え?」


「紙に書くのは大丈夫だろう。

 頑張って書いてみよう。

 あと、外は寒いから一旦、部屋に戻るぞ」


「う、うん」


 俺は食堂にいるハクレン、クォンに手を振ってドマイムと共に彼の泊まる部屋に戻った。


 そこに紙とペンを用意し、ドマイムに渡す。


「さあ。

 相手への要求を思いっきり書くんだ!

 細かい部分も忘れるな!

 書いたら書いただけ、相手が変わると思え!

 あのクォンをお前の好みの女になるように、書き殴れ!」


「は、はいっ!」


 俺は一心不乱に紙に向き合うドマイムを残し、食堂に戻った。


「ドマイム様は納得していただけましたか?」


「その話の前に、クォンに聞きたいことがある」


「なんでしょう?」


「ドマイムとの結婚には賛成か?」


「当然です」


「相手がドマイムで良いのか?」


「はい。

 ドマイム様が良いのです」


「わかった。

 今、ドマイムは結婚するにあたって、未来の妻に対する希望を紙に書いてもらっている」


「未来の妻……つまり」


「クォン宛だ。

 多分、お前のことだから全て受け入れるだろう」


 僅かしか会っていないが、なぜか理解できてしまう。


「ええ。

 ドマイム様の希望ですから、全て叶えて差し上げなければ」


「理想の妻だな」


「ありがとうございます」


「だが、それでは結婚生活は上手くいかない」


「……どういうことですか?」


「偉そうに語れる立場にないが……言わせてほしい。

 結婚とは、互いに相手を認め合うことが大事だ」


「互いに……」


「一方が圧倒的強者であってはいけない!

 また、片方が服従するのもよろしくない!

 夫婦になるということは子を成すだけでなく、両者が協力して家庭を作っていくものだ!

 クォン!

 お前にそれができるのか!」


「も、もちろんですわ!

 ドマイム様と幸せな家庭を築き上げてみせます!」


「よし。

 では、お前もこの紙にドマイムに対する希望を書け」


 俺はクォンに紙とペンを差し出した。


「え?」


「ドマイムにしてほしいこととかだ。

 あるだろ?」


「え、ええ、ですが……」


「向こうが要求するんだ。

 お前も要求して当然。

 遠慮するな。

 全部書け」


「……わかりました」


 クォンのために部屋を用意し、そこで書いてもらうことにした。




 残された俺とハクレン。


「村長。

 ずいぶんと世話を焼くのね。

 そんなキャラだった?」


「ドマイムはお前の弟だろ」


「私の弟が関わっているから?」


「ああ」


「村長」


「なに?」


「私も村長に要求したいことがあるんだけどー」


「ははは。

 奇遇だな。

 俺もお前に対して要求することがあるぞー」


 ちょっとだけイチャイチャしながら、俺とハクレンは残った酒と料理を楽しんだ。




 翌日。


 超大作を手にするドマイムと、二十枚ぐらいを手にするクォンがテーブルを挟んで座った。


「では、互いに交換」


「え?

 あの、その前に添削とか?」


「お前の気持ちに削る部分などない!」


 躊躇するドマイムを一喝。


 交換。


「そして、部屋に戻って全て読め!

 全部だぞ!

 一字一句、見逃すな!」


 二人を部屋に戻す。


「これで大丈夫なの?」


「わからない。

 が……互いの気持ちをぶつけ合うんだ。

 今の関係よりは一歩、進むだろう」


「なるほどねー」



 俺の予想通りになったかどうかは知らないが、ドマイムとクォンが村から帰る時は、二人揃ってだった。


 ドマイムの顔が少しスッキリしていたように見えたので、大丈夫だろう。



 問題が来て、去った。


「ハクレンお姉様だけ、村長と……ズルイ」


 ラスティが少し拗ねた。



「私たちは互いを理解できているということかな?」


「きっとそうでしょう」


「なら、旦那様は私たちの希望もわかっていると?」


「きっとそうです」


 ルー、ティア、リア、リゼ、ラファ、そしてアンとイチャイチャしながら互いの理解を再確認した。



 そして……


「お願いします。

 私とクォルンとの仲を……」


 ドマイムとクォンの仲を進展させた奇跡の相談相手として讃えられた俺の前に、セキレンがいたりする。





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― 新着の感想 ―
ドラゴンってけっこう近親になっているけど、大丈夫かな? ま、そこはファンタジーだから大丈夫かな!
[一言] ヤンデレドラゴンとかいうどちゃくそヤバイ存在なんてなかったッ!!!!───いいね?(激圧)
[良い点] 村長、グッジョブ!! [一言] 村長、おつかれ〜
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