お隣さんの協力
ブラックリバー伯爵夫人は、初出のキャラです。
私はブラックリバー伯爵の妻。
周囲からは、ブラックリバー伯爵夫人と呼ばれています。
我がブラックリバー伯爵家は、レイワイト王国を古くから支える家の一つ。
大きな領地と大きな責任を持っています。
そんな伯爵家に妻として入った私も、政務や社交で忙しく、王都にある邸宅と領地にある邸宅を行き来する生活でした。
夫は無理するなと言ってくれますが、そのときの私は役に立たなければと焦っていたのでしょう。
夫の言葉に耳を貸さず、邁進しました。
二回、過労で倒れて反省しました。
仕事はほどほどに。
息抜きも大事。
息子二人と娘を産んでからは余裕もでき、楽しく過ごしています。
さて、最近の私の楽しみは、レイワイト王国の王子たちに群がる貴族令嬢の競争を眺めること。
私の娘がその競争に参加していますが、私は口を出しません。
手も出しません。
眺めるだけです。
それだけで、十分に楽しめます。
まあ、娘からは協力不足だ、援護がほしいだの言ってきますが、甘えてはいけません。
私になにかを求めるのであれば、私に利を示してからです。
「お兄さまたちには甘いくせに」
認めましょう。
私は息子たちに甘いです。
ですが、息子たちはトラブルに見舞われなければ、どちらかが伯爵家を継ぎます。
継がなかったほうも、どこかの家に婿に行くか、分家を立てるでしょう。
老後の私の面倒を見てもらわなければならないのです。
打算的?
それのどこに問題が?
親子の愛情を信じないのか?
信じていますよ。
ですが、親子で争った家をいくつも知っていると、その愛情だけを頼りに寄りかかるのは怖いのです。
「私だって、王子と結ばれたらお母さまの生活の面倒をみれますよ」
残念ですが、それはありえません。
「そんなことは……」
貴女がいずれかの王子の誰かの第二夫人か、第三夫人になったとしましょう。
その立場の者が、家族だからと身内に利を与えれば争いになります。
「……」
第二夫人か、第三夫人になったら、私たちとは距離を置きなさい。
そうしなければ、貴女だけでなく貴女の子も危うくなります。
わかりましたね。
「…………わ、わかりました」
よろしい。
それで、なにか新しい話はないのですか?
最近の貴女の話は、資料館でアルフレートさまが作る料理の話ばかりですけど。
料理の話は興味深いですが、私が食べる機会がないので困ります。
「アルフレートさまの料理を出すお店ができるようです」
……
急ぎ、我が家の名前で予約を入れておきなさい。
「そのお店は貴族向けではなく、平民向けのようなのですが、かまいませんか?」
まったく問題はありません。
わかっていると思いますけど、我が家が行くからと貸し切りを強要したり、平民を追い出してはなりませんよ。
「もちろんです」
我がブラックリバー伯爵家は、平民に迷惑をかけたりはしないのです。
ある日、娘の変化に気づきました。
娘よ。
「どうしました?
お母さま?」
……今日の貴女の肌、いつもより滑らかですね。
「あ、わかりますか?
実はアルフレートさまから試供の美容品をいただきまして、それを試してみたのです」
……
持ってきなさい。
「え?」
ここに、それを、持って、きなさい。
私が調べます。
「ふ、蓋を開けてしまいましたが」
気にしません。
急ぎなさい。
娘から譲られた試供品……数々の美容品は、どれもすばらしい。
これまで私が使っていた美容品の一段、いえ、二段か三段は上の性能です。
体質に合う、合わないのチェックがあるのは面倒ですが、効能の強さを考えればそれも当然。
幸い、私の体質に合わない美容品はなかったので使わせてもらいましたが……
量が足りません。
これでは、三十日も使えばなくなってしまいます。
娘のことですから、まだいくらかは隠し持っているはずなので、それを譲ってもらうとして……
アルフレートさまと急ぎ、お話をしなければ。
でも、どうやって。
繋がりがありません。
不躾に誘うのは、憚られます。
ブラックリバー伯爵家の名に傷をつけるわけにはいけませんから。
娘に誘わせる。
さすがに、それはできません。
アルフレートさまは未婚。
未婚男性を娘から誘うのはふしだらです。
アルフレートさまが出席するパーティーに私が参加する……のは無理がありますね。
息子たちを参加させ、そこから顔を繋いで家に誘ってもらうのが無難でしょう。
時間はありませんが、動かねば。
駄目でした。
アルフレートさま、パーティーに顔を出しません。
困りました。
困ったところに、ゴドレイク伯爵夫人がアルフレートさまと接触したという話を聞きました。
普段は領地屋敷に篭っているゴドレイク伯爵夫人が?
こっちに来てたの?
そして、これは先を越されたようです。
あそこの娘のフォカ嬢も、うちの娘と同じように資料館で王子たちの事業を手伝い、アルフレートさまの近くにいます。
試供品として配られた例の美容品の話をするため、アルフレートさまに接触したに違いありません。
くっ。
私とゴドレイク伯爵夫人は、派閥が違います。
頼れません。
ぐぬぬぬ。
不躾でも、アルフレートさまを家に招くべきでした。
……
いまからでも遅くありません。
そうしましょう。
執事にお茶会の準備をさせようと呼ぶと、執事は手紙を持ってきました。
差出人は、ゴドレイク伯爵夫人です。
まさか、美容品を入手したことを自慢の手紙でしょうか?
いえ、ゴドレイク伯爵夫人はそういったことをする方ではありません。
あの人は、手紙ではなく直接、綺麗になった肌を見せてくる。
そういう女だ。
そんな女からの手紙の内容は……
アルフレートさまの美容品を扱う店を立ち上げるらしく、その協力要請でした。
これは……もう少し詳しく聞く必要がありますね。
私は屋敷の西側の塀に向かいました。
ゴドレイク伯爵邸はうちの西隣で、塀の向こうです。
お隣なのに派閥が違うのは、ゴドレイク伯爵夫人が領地屋敷のほうに篭っているからです。
もっと王都の屋敷にいれば、こっちの派閥に誘ったのに。
領地だとうちは南、ゴドレイク伯爵の領地は北とまったく別方向にあるから交流できないのです。
私は塀の近くに用意された台に乗って、堀を越えて顔を出して声をかけました。
「マテちゃーん、おはなししましょー」
マテはゴドレイク伯爵夫人の名です。
そのゴドレイク伯爵夫人は待っていたのでしょう。
すぐに顔を出して向こう側にある台に乗りました。
お久しぶりです。
手紙の件を詳しく。
「手紙に書いた通りです。
アルフレートさまの美容品を扱う店を用意します。
建物はゴドレイク伯爵家が担当しますので、なかで働く人をそちらにお願いしたいのです」
なぜ独占しないの?
「独占しても恨まれるだけですから。
それに、コーリン教の怖い人に叱られます」
フーシュさん、怖いからねー。
「それで、協力してくれますか?」
するけど、出資はしなくていいの?
「お金は広く集めるつもりです。
ああ、シルバーシルク伯爵夫人はがっつり巻き込みたいですね」
あそこ、派閥的に中立でどこにも属してないのに?
「あそこを混ぜたら、派閥は関係なしってアピールできるでしょ。
読み取れないところは放置します」
わかったわ。
こっちの派閥の取りまとめはまかせて。
上も下も黙らせるから。
「お願いしますね。
こちらの派閥は私か……上に任せて取りまとめますから」
抜からないようにね。
あと、ミシャの派閥と、アンナの派閥もしっかり関わらせなさい。
その二つは美容品関係の品を扱う商会を持ってるから、話を通しておかないと面倒になる。
「もちろんです」
店が用意できる時期は、どれぐらい?
「アルフレートさま次第ですが、すでに建物の建設は始まっています。
従業員は手癖の悪くない者を二十人ほどお願いします」
言われなくても優秀な者を用意するわ。
横流しされたら、問題だからね。
それで、王家のほうは?
「ふふ。
庶民の店に、王家がどう関わるのですか?」
あんた、コナ王妃のやったこと、まだ根に持っているの?
いや、根に持っているから、普段は領地屋敷に篭っているんでしょうけど。
フーシュさんから叱られないの?
派閥は関係なしなんでしょ?
「私たちは派閥に関係なく、王家に忠誠を誓う立場ですよね」(訳 王家に夫人の派閥、関係ないやん)
その言い訳、通用しないでしょ。
「……納得できる品が用意できたら渡します」(訳 半年遅れで渡す)
駄目。
絶対、揉めるから。
看板だけもらいなさい。(訳 関わらせて、王家の名を使わせてもらいましょう)
「……私は動きません。
あなたがやってください」
仕方がないわね。
やるから、私が主催するお茶会には来なさいよ。
黙ってお茶飲むだけでいいから。
「行けたら行きます」
それ来ないやつ。
来なかったら、この塀を壊して呼びに行くからね。
コナ王妃にやり返したいなら、別件でやるように。
「むう」
むう、じゃないの。
あの美容品を手に入れるために、全力を尽くしなさい。
「頑張ります」
よろしい。
ブラックリバー伯爵令嬢「美容品……調べると言って、母に奪われてしまった」
貴族令嬢A 「私もです。まだ若い肌には不要でしょって」
貴族令嬢B 「私は……急に母の記念日ができて、プレゼントとして持っていかれました」
貴族令嬢C 「あんなに怖い母は、初めてでした……敵にはまわせません」
ブラックリバー伯爵令嬢「まあ、いくつかは隠し持っているのですが」
貴族令嬢A 「ですよね」
貴族令嬢B 「いくら母でも、全部は渡せません」
貴族令嬢C 「バレなければ問題ないのです」
ブラックリバー伯爵夫人「なぜ、全力を尽くさないのか!」
ゴドレイク伯爵夫人たち「ど、どんと来い!」
ブラックリバー伯爵令嬢「全部、もってかれたー」
貴族令嬢A 「私もー」
貴族令嬢B 「あれは母ではなく、山賊でした」
貴族令嬢C 「もう母には逆らいません。隠し事もしません」




