ヤメの有人島生活 その三
あーしの名はヤメ。
島の管理人なんだけど、やってることは鳥や鶏、インフェルノウルフたちの世話係。
まあ、不満はないけどね。
あーしは、宿の調理場でバーベキュー用のタレを作っている。
作り置きがなくなったから。
物を冷やす魔道具の箱があるとしても、肉などは早く食べたほうがいい。
だからって、ちょっとバーベキューの回数が多かった気がする。
人気だけどね。
あと、海の種族たちがやってきては、バーベキューを期待するから。
もっと、ほかの料理もあるのにねー。
ハイエルフたちは、燻製肉を作っている。
大きい燻製器を村長が置いていったから、それの有効利用。
本来、燻製肉は保存が利くのだけど、島の環境だとあまり長持ちしない。
そこで物を冷やす魔道具の箱。
入れるだけで大丈夫。
ほんとうに便利だ。
あーしが寝る前の時代は、いちいち魔法でなんとかしてたからね。
リザードマンたちは、いろいろな穀物を粉にし、混ぜて固めている。
これらは、鳥や鶏たちの飼料。
食べやすさと消化しやすさ、あとは栄養を考えて作ってくれている。
鳥や鶏が好む物だけを与えるのは、よくないからね。
ピーナッツとか。
最近は……村長が耕した畑で収穫できるコマツナを、喜んで食べてるかな。
なんにせよ、飼料を与えるようになってから、鳥たちの毛艶はよくなってるし、鶏たちは島に来た直後より大きくなってる。
ちゃんと卵も産んで、孵っているしね。
ヒヨコがピヨピヨかわいい。
鶏小屋の拡張を考えないといけないかもしれない。
島での食事はバーベキューが多いけど、カレーも人気。
カレー粉は缶に詰めたものを村長のところからもらっているけど、自作がむずかしいのが難点。
できないことはないのだけど、なかなか好みの味にならない。
そして、失敗したカレー粉を無駄にはできないから、好みじゃなくても食べないといけない。
ちょっと大変。
結局、村長のところのカレー粉が最適となる。
五村とかでは、アレンジされたカレーが出されたりしてたけどね。
島でしか味わえないカレーというのには魅力を感じるのだけど、すぐには無理そう。
まあ、気長に研究していきたい。
あーしの力が回復してきたのか、ちょっと飛べるようになった。
まあ、ほんの少しだけどね。
鶏の跳躍力に負ける程度。
でも、高い場所にあった木の実は触れた。
嬉しい。
でも、木の実を採るのはまた今度。
いまは食料に困ってないからね。
島のあちこちに、小さい洞窟がある。
これらは最近できた洞窟。
具体的に言うなら、村長が掘った。
急な雨を避けるために。
ただ、掘ったら掘ったでなにかに使わないともったいないと村長は考えた。
だから、そこを畑にしたみたい。
なにを言ってるかわからないけど、あーしもよくわかってない。
でも、村長だから。
それ以上、むずかしいことは考えない。
なので、島のあちこちにある小さい洞窟に入ると、なにかしらの食べ物が育っている。
キノコ類が多いけど、モヤシ……だったかな。
ひょろりとした芽みたいなのは、思ったよりも美味しかった。
あと、カイワレダイコン。
主食にはならないけど、食べ物のつけ合わせにいい。
カイワレダイコンって、ダイコンの育つ前の状態なのかな?
カイワレダイコンを育てたら、ダイコンになる?
それとも別の種類かな?
今度、村長に聞いておこう。
そして、適当に畑を作らないようにも言っておかないと。
現状、インフェルノウルフに案内してもらわないと場所がわからない。
あーしが覚えてるの、二ヵ所だけ。
しかも、あちこちにあるから細かく見に行けない。
それでは困る。
畑を作るなら、拠点に近い場所に。
いや、すでにそこは畑になっているか。
島に来客が来た。
魔王国のビーゼルだ。
彼の転移魔法は、行き先を視認する必要がある。
なので一度、村長に同行し、始祖さんの転移魔法で島にやってきている。
そういった準備をしていたから、いつか来るだろうなとは思っていたけど予想より早かった。
あーしになにか相談でもあるのかな?
それとも、ビーゼルが連れてきた男性が関係しているのかな?
知らない顔だけど?
とりあえず、砂浜に転移してきたビーゼルは、出迎えたあーしに果物を満載した篭を渡してくる。
「こちら、手土産となります。
急な訪問をお許しください」
あー、遠いところから来てくれたのに追い返したりしないよ。
手土産、ありがとうね。
えーっと、とりあえず宿のほうに行こうか。
自己紹介はそっちで。
「よろしいので?」
よろしいよろしい。
砂浜で長々と挨拶するには、ビーゼルも同行者もきっちりした格好をしているから辛いでしょ。
宿のなかは魔道具で涼しくなってるから。
ビーゼルは村長とのつき合いが長いと聞いている。
そのうえ、ビーゼルの娘が村長の妻の一人。
村長との関係は深い。
雑には扱わないし、扱えない。
そして、そのビーゼルがあーしに害意がある者を連れてくる理由もない。
なんか、ビーゼルはあーしに対して、腰が引けてるけど。
ビーゼルと同行者を拠点の宿に招待し、お茶を出す。
もちろん、お茶は大樹の村の茶葉を使っているので味はいいはず。
手土産の果実を適当に切って、皿に乗せて出す。
そして、自己紹介。
あーしはヤメ。
この島の管理人。
でもってビーゼルは知ってるから、一緒に来た男性は?
「お、お初にお目にかかります。
私の名はプギャル。
ワトガング=プギャル。
魔王国の伯爵です」
ふむ。
そのプギャル伯爵が、なぜあーしのところに?
ひょっとして、この島の領有に関して一言あるのかな?
「いえいえいえいえいえ、まったくもってそういった目的ではありません」
それじゃー、目的は?
「まずは友誼を。
仲よくしましょう!」
え?
……あー、うん、そうだね。
仲が悪いよりは、いいほうがいい。
べつに、あーしはプギャル伯爵になにか思うところは……
プギャル伯爵?
プギャル?
ひょっとして、あの剛腕プギャルの子孫っ!
「そ、その剛腕プギャルが、テオドール=プギャルのことであるなら、その通りです」
おおっ。
どこか覚えがあった。
うん、雰囲気が似ている。
あれには何度か殴られた。
そうか、子孫ね。
……
いやいや、怯える必要はないから。
剛腕プギャルとあんたが別人というのは理解しているよ。
……あれ?
思い出せば、剛腕プギャルはいきなりあーしを殴ってきた。
あーしは、なにもしてないのに。
いろいろ悪行を並べたてられたけど、それらはあーしじゃなくてグッチとかブルガとかスティファノがやったことだし。
なんか知らない悪魔族がやったことも、全部あーしのせいにしてきた。
ちょっと腹立ってきた。
あ、大丈夫だから。
腹が立っても、さすがに殴ったりしないから。
いまのあーしが殴ったところで、たいしてダメージを与えられないだろうし。
「ははは。
ご冗談を」
冗談だったら、いいんだけどねー。
あーしは手土産の果実を食べる。
甘くて美味しい。
それで、友誼を結びにきただけかな?
それなら、歓迎するよ。
「ありがとうございます。
友誼の証と言ってはなんなのですが、行動で示させていただきます」
行動で?
例えば?
「この島に当家の船を寄港させます」
……それはありがたいけど、こっちに取引できる物がないよ?
食料も船に積み込む分となると足りないし、できるのって水の補給ぐらいになるけど?
船が寄港するメリットがみつからない。
「理解しております。
ゆえに、友誼の証でございます」
つまり、あーしと仲よくするために、無駄に船をこの島に寄越すってこと?
「しばらくはそうなりますが、将来的には寄港によって有益な取引ができると期待しております」
それはプレッシャーだね。
「まあまあ、最初のころはこちらからの投資と思っていただければ。
転移魔法では運びにくい、重量のあるものや大きいものを船で届けます。
もちろん、運び出すことも」
それは助かる。
毎回、始祖さんやラナさん、ビーゼルの転移魔法に頼るのも悪いしね。
ただ、あーしは管理人として、この島に関しての決定権を持ってるけど、船の寄港は外との関わりになるから村長に話は通すよ。
大丈夫?
「もちろんでございます」
まあ、村長は断らないと思うけど……
村長からの返事は、ビーゼルにお願いするかな。
「はっ。
お任せを」
いやいや、ビーゼル。
ビーゼルはあーしの部下じゃないんだから、もっと砕けていいから。
あと、プギャル。
船を寄越すのは港が完成してからにしてね。
「承知しました。
港の完成、楽しみにしております」
うんうん。
プギャル「クローム伯……いや、ビーゼル。頼みがある」
ビーゼル「ど、どうしました?」
プギャル「悪魔帝国の初代、いや、初代さまのところに、連れて行ってくれ」
ビーゼル「な、なぜ、わざわざ危険な場所に?」
プギャル「将来の危険を避けるためだ」
ビーゼル「しかし」
プギャル「プギャル家、悪魔帝国の初代さまと因縁があるみたいで……」
ビーゼル「……」
プギャル「俺が安眠するためにも頼む。あ、手土産はこっちで用意するから」
ビーゼル「揉めたら置いて逃げますからね」
プギャル「大丈夫だ。絶対に揉めん。なんとしても謝る!」
プギャル「船を寄港させます」
ビーゼル「(ず、ずるい、こっちも寄港したい。でも、言いだせない)」
プギャル「(そっちの船も俺の関係者ってことにすればいい)」
ビーゼル「(プギャル……)」
プギャル「(転移魔法で世話になっているからな)」
プギャル「初代さま」
ヤメ 「ヤメでいーよ」
プギャル「ははは、ありがとうございます。では、ヤメさまで」
ヤメ 「呼び捨てでもいーのに」
プギャル「無茶を言わないでください(貴女を慕う者たちに狙われるのはごめんだ)」




