新しい住人達 第一グループ
第一グループ。
ドライムのツテで集まった移住者たち。
移動方法はドライム、ハクレン、ラスティたちによる空中輸送。
そのために、少し前に用意されたのが巨大な四足テーブル。
ドラゴンの姿になった時に、そのテーブルを背負う形で移動することで、輸送量を増やそうと考えられた。
四つの足があるのは、背負っていたドラゴンが人間の姿になった後でもちゃんと立つようにだ。
ドライムたちがドラゴンの姿になっていなくても荷物の積み降ろしができるので、利便性が高くて好評。
今回はその巨大な四足テーブルの上面にロープを垂らし、移動中に落下し難いように工夫した。
そんなテーブルを背負った三匹のドラゴンが編隊を組んで村に向かってくる姿はワイバーンを思い出して少し怖かった。
総勢七十二名。
全員、ミノタウロスと呼ばれる種族だ。
俺の知っているミノタウロスは頭が牛の巨人だが、目の前に居るミノタウロスは普通の人間の顔だ。
ただ、頭に水牛のような大きな二本の角がある。
そして、俺の知っているミノタウロスは男性のみの種族……というか単一の男なのだが、目の前に居るミノタウロスたちには女性もしっかりいた。
まあ、ここは俺の居た世界とは違う異世界。
細かいことは気にしない。
ドライムに運んでくれたお礼を何かと思ったが、その分をミノタウロスたちに回してくれと言って辞退した。
ドライムは村人集めでトラブルを出したことを気にしているのだろうか。
こちらから頼んだことだから、気にしなくてもいいのに……
ハクレン、ラスティは遠慮無くお礼を求めてきたしな。
ともかく運んでもらえて助かった。
ドライムはこの後、少しの間だけだが運んできたミノタウロスと共にいるらしい。
「さすがに、運んで終わりというのは無責任だ。
連中も不安であろう」
「代表のゴードンだ。
よろしく頼む」
挨拶しながら、俺は目の前に居る者たちのことを考える。
ミノタウロスたちは男二十八人、女四十四人。
その内、明らかな子供は男八人、女十五人。
その他の四十九人はすぐに労働可能だとのことだが……
労働可能な者たちは全員、ガリガリに痩せていた。
一目でここしばらくロクに食べていないことがわかる。
子供はそれほどでもないから、食べ物を子供に譲っていたのだろう。
そんな状態で、とても労働可能には見えない。
「とりあえず、食事でもどうですか?
今、準備しますから」
ミノタウロスたちには、武闘会をやった場所周辺にまとまってもらった。
そこで鬼人族メイドたちに食事を用意してもらい、配る。
できるだけ胃に優しそうな料理をと思うが……種族的にタブーとかあるのだろうか?
その辺りは鬼人族メイドが問題無くやりますと言ってくれたので任せた。
後、ルーやティア、フローラに治癒が必要な者がいないか見てもらおう。
これで大丈夫か?
いや、世話役が決まっていなかった。
何かある度に俺の許可や判断を待っていたら、物事の進みが遅くなり過ぎるので用意されたポジション。
要は村の生活の指導役。
獣人族の時は鬼人族のラムリアスに頼み、今も頑張ってもらっている。
ミノタウロスたちのための指導役は……誰に任せよう。
考えてなかった。
「村長。
俺に彼らの世話役をお命じいただけませんか?」
リザードマンの一人が希望してきた。
「いいのか?」
「はい。
彼らではありませんが、ミノタウロスと交流を持ったことがあります。
他にミノタウロスのことを知っている者が居ないなら」
周囲を見ても首を横に振るし、自分から希望するならやる気も十分ということだろう。
「リザードマンのナーフ」
最初の頃は見分けがつかなかったが、なんだかんだと長い付き合いだ。
見分けはなんとかできるようになっている。
まだ生まれた子供たちの見分けは難しいけど。
「ミノタウロスたちの世話係を任せる」
「ありがとうございます」
ミノタウロスたちはナーフに任せ、俺は家に集められる者を集めて相談する。
「新しい村に、新たな問題だな」
「ですね」
俺とハイエルフたちは頭を悩ませる。
「すみません。
私は新しい村に行ってないのでわからないのですが、どういった問題が出たのですか?」
大樹の村で水車作りに励んでいる山エルフが手を挙げて質問し、それにハイエルフの一人が答える。
「新しい村は、百人ほど受け入れられるように作りました」
うん、最初は五十人だったのを倍にした。
したのだが……
「それが問題ですか?
数は足りているように思えますが?」
「普通の人間サイズを基準にしてです」
「あっ」
盲点だった。
完全に、その辺りを考えていなかった。
これまで村に来た者達で、極端に身体が大きいのは居なかった。
しかし、村に来たミノタウロスたちはガリガリに痩せていても大きかった。
子供はともかく、成人しているであろう者は全て二メートル超え。
大きい者なら三メートル近い。
それと衣服の問題。
何があったのか全員、着ている物がボロボロの布切れのようだった。
「ザブトンに頼んで、急いで作ってもらおう」
俺は傍に居たザブトンの子供を見ると、ザブトンの子供は片足を上げて了解を示して、ザブトンのもとに向かった。
「一番の問題は、当面の寝床だな」
「ですね。
雨が降らないことを祈って、しばらくは野宿で凌いでもらいますか?」
「そうお願いしたいが……」
もうすぐ秋の収穫時期。
新しい村作りを一時中断しようと考え始めていたところだった。
……
冬のことを考えると食料の確保は必須だ。
収穫をしないという選択はできない。
だから収穫優先。
彼らの家作りが遅れる。
彼らに収穫や家作りの手伝いをしてもらうとしても、冬を前にしていると考えると怪しい。
「あの。
家が間に合わないなら、冬の間は北のダンジョンで生活してもらうのはどうですか?
あそこなら元々、巨人が住んでいますので広さがありますし、スペースも十分あります」
北のダンジョンに調査に行った者が、そう提案してくれる。
「悪くないアイディアだが、巨人は受け入れてくれるのか?」
「私が会った感じでは、とても友好的でした。
大丈夫だと思います。
ただ、お礼は出さなければなりませんし、冬の間の燃料や食料は持ち込まないといけないかと」
「そうだな。
できるだけこちらでなんとかしたいが、最悪の場合には備えたい。
誰か事前交渉に向かわせよう」
「わかりました。
候補者を選んでおきます」
「頼んだ。
それと……」
食料。
「村のお金で、マイケルさんから食料を買おう。
あと、道具とかも」
見た感じ、ミノタウロスたちに私財っぽい物はなかった。
何人かが、ボロい剣や槍を持っていた程度だ。
「武器とかも用意した方が良いかな?」
俺が疑問を出し、周りの者が意見を出していく。
「しかし、食料も着ている物も持っている物もなし……
彼らに何があったのでしょう?」
「ナーフがその辺りを聞き込んでくれている。
もう少ししたらわかるだろう。
それよりも、当面の食事に関してだが……」
話し合うべきことは多い。
そんな中、新たな問題がやってきた。
「村長。
ビーゼル様が案内する一団が到着するとのことです」
少し、クラッとした。