戻ってきたラナさん
村でラナさんの家の建設が始まったが、その完成を待たずにラナさんが帰ることになった。
温泉でかなり体調は回復したみたいだけど、まだドラゴンの姿で飛ぶことはできない。
ただ、さすがに長居しすぎだろうとの判断だ。
子供たちが残念がっている。
かなり懐いていたからな。
あと、文官娘衆たちも。
もっと話が聞きたそうだった。
そして、ラナさんが帰ることでウルザも行ってしまうから、ハクレンとザブトンが残念がっている。
ウルザを引き止めるのは駄目だぞ。
寂しいのはわかるけどな。
ウルザとラナさん二人は転移門を使って五村に移動し、五村から飛行船に乗る……と思っていたのだけど、ラナさんの転移魔法での移動となった。
五村のヨウコから、ラナさんが来るのは遠慮してほしいとの要請があったからだ。
それはいいが……その、転移魔法を使うなら、長居とか気にせずに、ここから通えばと思ってしまう。
ドースたちから、転移魔法を使うのを反対されているのは知っているけど。
「世話になった」
ラナさんのシンプルな挨拶とともに、ウルザたちは旅立った。
ウルザの旅立ちにアイスは同行せず、素直に見送っていた。
ついていかなくていいのだろうか?
戻る場所を守るのも仕事と。
そうか。
それじゃあこれからも、よろしく頼むぞ。
そして、ラナさんがいなくなって喜ぶと思ったドースとギラルは神妙な顔をしている。
もう少し、ラナさんに優しく接すればよかったと反省しているのかな?
そう思ったけど、ライメイレンによると違うらしい。
油断したときに戻ってくるのがラナさん。
それを警戒しているだけだそうだ。
用心しすぎだと思うけどなぁ。
そう呟いた日の夜。
ラナさんがこっそりと転移魔法で戻ってきた。
忘れ物があったらしい。
「転移魔法を使ったことは、ドースの坊やたちには内緒だぞ」
もちろんです。
それで……リアたちが急に寝たのはラナさんの仕業ですか?
俺の部屋にいたリアたちハイエルフや、クロの子供たちが寝息を立てている。
ゆすっても起きない。
「うむ、そうだ。
ああ、範囲はこの部屋だけだ。
敵意があるわけではないから、ぶっそうな槍はしまってくれ」
……
俺は手にしていた【万能農具】の槍をしまう。
「すまぬな」
転移魔法を使ったことをごまかすにしては、少しやりすぎだと思うけど?
それに……
「それに?」
誰だ?
ラナさんだけど、ラナさんじゃないな?
首から俺の渡した名札を下げているが、雰囲気が違いすぎる。
「それに気づきながら、槍をしまうか。
豪胆だな」
敵意がないのも感じたからな。
あと、天井の梁にいるザブトンの子供たちが動いていない。
見守りモードだ。
「それはよかった。
あやつらは面倒だからな」
それで、その姿は?
「まだ少し記憶が混濁しておるが……私はラナノーンの別の人格のようなものだ」
二重人格みたいなものか?
「そういった大げさなものではなく……あー、別の人格という言い方が悪かったな。
着飾っているときと、着飾っていないときぐらいの差だ」
仕事と私用ぐらいの差かな?
「それぐらいの認識でかまわん。
もちろん、私が仕事だぞ」
それは雰囲気でわかる。
「私が出るのは戦闘で負けそうなときと、名を三度、続けて間違われたとき。
あとは……気分が乗ったときでな。
なかなか出られんのだが、温泉が思ったよりよかったようだ」
来た目的は?
「言ったであろう。
忘れ物だ。
お主に、これを渡すのを忘れていた」
そう言ってラナさんが放り投げてきたのは……
手のひらサイズの、装飾の施された棒?
「ギグラントの宝物庫の鍵だ。
場所はドースの坊やが知っておる」
なぜこれを?
「この村に多目的人型機動重機があったからな」
?
「ギグラントは、多目的人型機動重機を弄るのが趣味でな。
これでもかと集めておった。
宝物庫には、多目的人型機動重機や関連品が山のようにあるはずだ」
いいのか?
形見だろ?
「しまい込まれるよりは、使ったほうが道具も喜ぶであろう」
そうかもしれないが……
「ギグラントも使いたがったが、竜王になってしまったがゆえに軽々に使えんでな。
宝物庫に泣く泣くしまい込んだ」
あー。
「使ってやってくれ。
劣化しないように魔法をかけておるから、動くはずだ」
……わかった。
大事にするよ。
「道具に気を使うな。
ほどほどでよい」
ラナさんはそう言って、部屋の窓から月をみた。
寂しそうな目だ。
ライメイレンからは、ラナさんが眠りについたのは夫を失くしたからだと聞いている。
思い出しているのかもしれないな。
「あ、いや、私が眠りについたのは、腰をやったからだ。
あれで急に歳を感じてなぁ」
……
「ウルザのお陰で腰は完治したが、油断できん。
お主も腰には気をつけよ。
若かろうと、痛めるときは痛めるぞ」
あ、ああ、そうだな。
注意するよ。
「うむ。
ところで、忘れ物はあと二つあってな。
一つは味噌の樽なんだが……」
あ、それか。
忘れているのを見つけたから、明日にでも五村から送ろうと準備してた。
玄関に置いてあるよ。
誰かに持ってきてもらおう。
「手間をかけさせてすまない」
いえいえ。
「もう一つは、お願いだ。
私はラナノーンなのだが、この状態の私がラナノーンを名乗るのは都合が悪いこともあってな。
別の名を持っている」
ラナさんはそう言って、自分の首にぶら下げている名札を持つ。
「裏側に、その名を彫ってほしいのだ」
ああ、お安い御用だ。
それで、名は?
「私の名を知りたくば、挑むがよい」
……
「ポーズ、ポーズでいいから。
槍はしまって」
用事の済んだラナさんは、また転移魔法で去っていった。
うーん、やはり転移魔法は便利だ。
ウルザがピンチのときとか、その転移魔法で連れ帰ってきてほしい。
それと、ドースたちが警戒しているのって、ラナさんの性格ではなく、うっかりなのかな?
俺の部屋に転移してきたのだって、ウルザが置いていったラナさんの鱗の欠片がこの部屋にあったからだそうだし。
予想外のところに出たからって、慌てて眠りの魔法を発動するのはどうかと思う。
っと……
リアやクロの子供たちは、いつ起きるのかな?
あ、起きた。
よかった。
天井の梁のザブトンの子供たちも、見守りありがとう。
ウルザの滞在に合わせて村にいたアルフレートも旅立つ。
アルフレートは始祖さんが迎えに来るタイミングに合わせるから、旅立ちが遅れた。
こちらには、ザブトンの子供たちがなかに入って操る人形であるフウマが、新しい護衛として同行する。
ザブトンがかなりフウマのことを心配しているけど、フウマのなかに入っているザブトンの子供たちは自信満々だ。
念入りに訓練したし、山エルフたちからいろいろと機能を追加してもらっていたしな。
あと、フウマ専用のバイクも忘れずに持っていく。
このバイクもあちこちが改造されており、フウマの活動を助けるだろう。
詳しく言うと、バイクにもザブトンの子供が五匹ほど入っている。
ザブトンの子供たちが操るフウマがバイクを操作するより、ザブトンの子供たちがバイクを直接操作したほうが早いし楽だったからだ。
彼らはバイク操作も担当するが、フウマの操作の交代要員としても期待されている。
休憩は必要だからな。
だから、バイクの内部にザブトンの子供たちの休憩場所なんかもあったりする。
山エルフたちの気づかいだ。
ザブトンの子供たちも、バイクを大事にすると言っている。
でも、俺はバイクよりもお前たちのほうが大事だからな。
怪我のないように。
……
久しぶりにアルフレートが村に長居したので、ルーがアルフレートを離さないな。
もとの姿に戻っていることもあるのだろうけど……
覚悟の準備ができていなかった感じかな。
フローラがルーをなだめながら、引き離そうとしている。
それ、俺の役割だな。
すまない、ザブトンの子供たちに集中していた。
代わるよ。
ラナさんの別名はラナウィです。




