大ラナノーンの祝福
私の名はラナノーン。
目が覚めて三十日ほどが経過した。
やっと体が動くようになった。
なので、ウルザに私の鱗の欠片を持たせ、目的地に向かってもらった。
鱗の欠片は目印だ。
私は、鱗の欠片がしばらく動かなくなったのを確認してから、その位置を目指す。
ウルザを乗せて案内してもらったほうが早い?
神代竜族は、やすやすと人を背に乗せんのだ。
問題が発生。
思ったより、体が動かない。
具体的に言おう。
満足に飛べない。
困った。
ウルザには、すぐ行くと言っているのに。
一日ほど頑張ったが、諦めた。
仕方がない。
私は人の姿になって……転移魔法で移動する。
転移魔法。
便利なのだが、神代竜族のあいだでは評判が悪いのであまり使いたくはないのだけどな。
今回は非常事態だ。
世界樹の葉のお陰で、魔力は十分。
問題はない。
転移魔法で移動すると、めちゃくちゃびっくりされた。
鱗の欠片から、少し離れた場所に転移して、いきなり敷地内に入ったりしないように注意したのだが?
転移魔法が、そんなに珍しいのか?
あと、ドースの坊や。
人を盾にするのはよくない。
ギラルの坊やも。
大きくなったのは体だけか?
いや、人の姿だけど。
……
あー、ドースの坊ややギラルの坊やを見ていたら、いろいろと思い出した。
そういや、ドースの坊やとライメイレンが結ばれた報告、受けてた。
あと、ハクレン。
会ったことある。
すまん。
完全に忘れてた。
いやー、歳を取ると忘れっぽくなって困る。
寝起きだったし。
顔を見て思い出した。
ウルザには口止めしておこう。
ドライム。
おったなー。
こっちも完全に忘れておった。
ちびっこい姿しか覚えておらん。
姉のえーっと、誰だっけ?
ハクレンではなく、その妹で……えーっと、えーっと、ス、ス、ス……
スレン、違う。
スイレン、そうスイレンだ!
そのスイレンの後ろに隠れておったのを注意した覚えがある。
思いっきり泣かれて、ライメイレンに叱られたなぁ。
ははは。
ん?
どうしたドライム?
……立ったまま、気を失っておる。
疲れがたまっていたのかな?
お、ウルザが来てくれた。
それじゃあ、その……ごまかしていたけど、現実を直視するか。
えーっと……ウルザよ。
このヒラクと名乗った者は何者だ?
お前の父で、ハクレンとラスティスムーンの夫?
……
あー、大丈夫。
いろいろと飲みこんだから。
それで……
あー、挑むとか、そういうのは横に置いておいて。
えーっと。
深呼吸。
もう一回、ヒラクを見る。
…………
ぇぇぇぇぇぇぇっ……なにこれー……怖っ。
と、とりあえずウルザよ。
自己紹介がしたいから、ヒラクに挑むふりをしてもらってくれるか。
うん、挑むふりでいいんだ。
そう説明して、頼んでくれ。
私の力が見たい?
ははは、ドースの坊やとギラルの坊やを使って、見せるから。
ヒラクとは戦わん。
あー、ヒラク……ヒラクさん。
戦わないので、その物騒な槍はしまってもらって。
ここで暴れたりはしないから。
ドースの坊やは海底に、ギラルの坊やは火口に沈めるだけにするから。
ヒラクさんがやめろと言うなら、やめるが……
訪問の理由?
私と同じ名を持つ娘がいると聞いたのでな。
祝福に参った。
あ、私の名を察しただろうけど言わないで。
挑んでから。
そういう縛りがあって。
お願いします。
私の名はラナノーン。
うん、ちゃんと挨拶できた。
自分、偉い。
そして、なんだかここに来てから頭がすっきりする。
起きてから靄がかかっていた感じだったからな。
ハクレンやドライムのことを忘れていたのは、きっとそのせいだ。
うんうん。
そしてヒラクさんが、私を歓迎する宴を開いてくれるとのこと。
ありがたく出席させてもらおう。
ん?
そこにいるのは、レギンレイヴではないか。
懐かしい顔……
逃げられた。
まあ、よい。
おお、ブルガにスティファノ。
懐かし……
また逃げられた。
だが、抱きかかえていた子を放り出さないのは、褒めよう。
あの子が……ククルカンね。
ほほう。
よい名だ。
……猫。
逃げないな。
うむうむ。
ライギエルと言うのか。
愛いものだ。
よしよし。
撫でてやろう。
そして……お前か?
寝ている私を操ったのは?
頭の靄の原因も?
記憶が薄かったのも?
私の勘違い?
いや、頭がはっきりした私の感覚が、お前だと言っている。
ふふふ、そう怯える必要はない。
お前が無害になったのは見ればわかる。
いろいろあったのだろう。
殺したりはせん。
私が目覚めるきっかけになったわけだしな。
ただ、私を水源の栓などにした怒りはある。
もっとこう扱いというものがあるだろう。
この怒りは……ドースの坊やにでもぶつけるか。
そう考えたところで、遠くからドースの坊やが理不尽だと叫ぶ声が聞こえた。
ふむ。
ドースの坊やもなかなか、優れた感覚をしておるな。
……
違うか。
盗み聞きをしていただけか。
そう思ったところに執事姿の者がやってきた。
「村長。
ブルガたちから緊急事態だと連絡が……………………………………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
……グッチよ。
さすがに顔を見ただけで、死んだふりは傷つくぞ。
……あ、違う。
気絶してる?
これ、放置でいいのかな?
そうもいかないか。
ヒラクさんがグッチを別室に連れていった。
宴の席で、私の前にドラゴンの子供たちが並んだ。
ヒイチロウ、グラル、ラナノーン、ヒカル、ヒミコ、ヘルゼルナーク。
ヒカルとヒミコは、ハクレンが抱えている。
ククルカンは……ブルガとスティファノが私の前には出さないようだ。
まあ、さきほど見たから無理に連れてこなくてもかまわん。
ブルガとスティファノはラナノーンも引き止めていたが、ラナノーンは私の目的であると理解しているのか、堂々と私の前に立っている。
あ、いや、ラナノーンの後ろに母親のラスティスムーンがいるな。
ふむふむ。
ラナノーンもラスティスムーンも、なかなかの面構え。
強くなりそうだ。
そして、ヒイチロウ。
ハクレンの息子か。
大人しそうだな。
大丈夫であろうか?
雌にいじめられたりせんだろうか。
ヒカル、ヒミコ。
まだまだ小さいが、私に臆さぬとは見どころがある。
将来は有望だな。
……
あー、グラルよ。
それとヘルゼルナーク。
はじめまして。
なにもせんから、そう警戒するな。
ただの挨拶だ。
私の名は挑んでもらわんと名乗れんが……
ヒラクさんが作ってくれた私の名入りの看板を首から下げているから、わかるであろう。
インフェルノウルフや、デーモンスパイダーたちが羨ましがる一品ぞ。
うむ。
そこのラナノーンと同じ名よ。
そして、ラナノーンよ。
私と同じ名を持つゆえ、いろいろと言われるかもしれぬ。
だが、気負う必要はない。
自由に生きよ。
あと、ほんとうにすまん。
うん、その、いろいろとやらかしたから。
頭の靄が晴れ、思い出してしまった。
その名で、迷惑をかけると思う。
なんだったら、ラナノーンの名を捨ててくれてもかまわないからな。
頼むから、背負い込まないように。
まあ、まだ若いから私がなにを言っているかわからないと思うけど、覚えておいてほしい。
ここに来たのは、それを伝えるためだ。
子らに祝福を。
神代竜族に永遠の繁栄あれ。
歓迎の宴は、賑やかに終わった。
一部、終わっても、まだ食べ続ける者がいるけど。
しかし、それも納得。
食事が美味い。
酒も美味い。
ドースたちが、ここに住むのもわかる。
ああ、安心するように。
私はここに住む気はない。
ウルザの仕事の手伝いをする約束でな。
そちらに住む……
ウルザへの大喝采は腹が立つな。
ちょっと前まで、私を起こしたことを責めていたくせに。
グッチ、静かに喜びの涙を流すんじゃない!
ん?
ヒイチロウは惜しんでくれるか。
そうかそうか。
なに、用事があればまた来る。
ドースの坊や、ギラルの坊や、いちいち悲鳴をあげるな!
うっとおしい!
……
わかったわかった。
来るときは、転移魔法を使わない。
飛行船や転移門はかまわないのであろう?
そちらで移動するから。
そう邪険にするでない。
婆を邪険に扱うと、面倒になるぞ。
大ラナノーン「こんにちは(転移魔法で移動)」
グッチ 「アイェェェェッ! ナンデ、ナンデ、ラナノーンさん? ラナノーンさん!!!!」
ドース 「ラナノーンさまが、転移魔法で移動してくるのはズルいだろ!」
レギンレイヴ「神代竜族が転移魔法を使うのは駄目です! 南極条約違反です!」
ヨウコ 「危険なのがいる……今日は五村に泊ろう。ヒトエを呼ばねば」
ニーズ 「ぇぇぇー……なんで復活してるのー」
プラーダ 「総員、戦闘準備! 美術品を守るっ!」
ヴェルサ 「大きいラナノーン? 誰?」(引きこもっていたので知らない)
エルメ 「と、とにかく、今日は村に行っちゃ駄目です」
始祖さん 「久しぶりに、今日は村に行こうかなー」(ラナノーン関連の記憶を消してる)
ライメイレン「頭が上がらない……」
グーロンデ 「隠れてました」
オル 「わん(お母さんのそばにいました)」
大ラナノーン「婆を邪険に扱うと、面倒になるぞ」
ドース 「例えば?」
大ラナノーン「ここに住まないとは言ったが、いつ出ていくとは言っていない。そのことを諸君らも思い出していただきたい。つまり、いつ出ていくかは私の自由。その気になれば、十年後、百年後ということも可能……ということ」
ドース 「き、汚ねぇ。汚ねぇぞ!」
ギラル 「ざわざわ……ざわざわ……」(効果音役)




