二十一年目の春
一村のニュニュダフネのイグが、春を宣言した。
つまり春だ。
それじゃあ、がんばるぞー!
そう気合いを入れ、最初にやるのは……
屋敷の一角にコタツと共に籠城した一部の天使族を、追い出すこと。
彼女たちの主張は「まだ冬は続いている」「最愛のコタツを奪うな」だ。
コタツを片づけるのは、もう少し先なんだけどなぁ。
あ、けっこう本気でバリケードを築いている。
廊下まで要塞になっている。
「お任せください」
そう言って俺の前に来たのはスアルロウ。
その後ろに、スアルロウに鍛えなおされた天使族が数人。
とりあえず、任せてみた。
……
あー、素直に武力行使ね。
魔法は控えてほしいなぁ。
炎系の魔法は駄目だぞ。
室内というのを忘れないように。
落とし穴ぁっ!
いつのまに!
あとでちゃんと元に戻してもらうぞ。
とりあえず、長引きそうなので俺は農作業に向かった。
夜。
【万能農具】を存分に振るった俺が屋敷に戻ると、スアルロウたちは負けて撤退していた。
「申し訳ありません」
いや、まあ、いいけど……
相手、強くない?
スアルロウは、ティアの前に天使族最強を名乗っていたのに、それを撃退するなんて。
「籠城しているのは、有能な怠け者と評価される連中でして。
明日にはかならず」
無理しないようにな。
駄目だったら、アンたちに頼むから。
本来なら天使族の長であるマルビットや、補佐長であるルィンシァに頼めばいいのだろうけど、彼女たちは冬の終わりぐらいに六竜神国のほうに行っている。
人間の国との交渉に、アドバイザーとして関わってほしいと頼まれたからだ。
頼んだのは、妊娠中で動けないメットーラと、人間の国側。
なんだかんだ言われる天使族だけど、人間の国側からは、かなり頼りにされているそうだ。
困ったときは天使族。
そんな言葉が出るぐらいには。
「あ、それ、続きがあるわよ」
ん?
ルーが教えてくれた。
「困ったときは天使族。
きっとあいつらが原因だから、呼んで手伝わせろ」
……
「それに対して、天使族が冤罪だって叫ぶまでがセットよ」
へ、へー。
翌日。
冬眠から目覚めたザブトンやザブトンの子供たちと挨拶。
久しぶりだな。
ああ、無理しなくていいから。
まずは食事だ。
冬眠で消費した体力を回復しないとな。
ザブトンたちの好物であるジャガイモを使った料理を、たっぷりと用意してある。
毎年のことだからな。
今日は食事と挨拶に集中して、動くのは明日から?
ああ、かまわないぞ。
でも、レース生地とそれを使ったゴシックロリータファッションが気になる?
ははは。
レース生地は、たくさん確保している。
ザブトンたちが欲しがるとおもってな。
ゴス服は何人かの子供がまだ着ているから、今度、ファッションショーをしてもらおう。
そうそう、最近になって知ったんだけど、このレース生地って始祖さんの国に行ったアルフレートが輸出入に関わっているんだって。
そう、ザブトンが喜びそうな生地だから、絶対に売れるに違いないって。
でも、仕入れるのにお小遣いだけじゃ足りなくて、ルーから借りたらしい。
俺に言ってくれたらいいのにな。
父親としては、少し不満だ。
ポンドタートルたちは冬の終わりごろに目覚めて、ため池の氷を割っていた。
なので、春になったいまは普段通りに活動。
いや、普段より活発かな。
キャベツをムシャムシャと食べている。
このキャベツは、去年の秋の収穫で作ったキャベツで、氷の魔物のアイスが冷凍保存してくれていたもの。
解凍も問題ないようで、ポンドタートルたちから味に関して文句は出ていない。
ん?
文句はないけど、収穫したてのほうが美味しい?
そうだな。
今年も、ため池の近くのポンドタートル専用の畑で、キャベツとかをたくさん作っておくよ。
畑でなにを作るかは、文官娘衆と相談して決めている。
俺がイメージしやすいように、イラスト入りの立て看板があるので、それに従って俺は【万能農具】を振るう。
気づけば、あっというまに日暮れだ。
だけど、まだまだ耕さないといけない。
ふふふ。
春って感じで、楽しい。
頑張ろう。
春なので、クロやユキ、クロの子供たちも屋敷から出て活動する。
村の周辺警戒と、狩りで魔獣や魔物の肉を確保するのがクロたちの仕事だ。
春を迎えて少し騒がしくなった森のなかを駆け回っている。
一部は、牧場エリアとかで日向ぼっこをして、そのまま寝てたりもするけど。
まあ、春だからな。
寝ていても起きていても、クロの子供には牧場エリアの動物たちは近づかない。
そう思っていたけど、寝ているクロの子供の近くには子山羊たちがいるな。
クロの子供の近くは、安全な場所と思っているのだろうか。
安心して同じように寝ている。
かなり無防備な姿だ。
微笑ましい。
クロの子供に近づけない親山羊たちが、遠くから心配そうに見ているけど。
天使族が綺麗に整列して、訓練をしている。
籠城していた天使族だ。
指導しているのはスアルロウ。
つまり、籠城を打ち破ったのだろう。
だが、飛べる天使族も、室内ではその力を発揮しきれない。
攻守ともに、被害が大きかった。
予想できた結果だ。
早めにアンたちに手伝いを求めれば、少なくとも攻撃側の被害は抑えられたと思うんだけどなぁ。
あと、建物の被害も。
ハイエルフや山エルフたちの仕事を増やしてしまった。
そのぶん、村にいる天使族にはしっかりと働いてもらおう。
牧場エリアの馬や牛、山羊の数頭が、五村の牧場に移動する。
繁殖のためだ。
事前にちゃんと説明しているので、抵抗は少ない。
……
抵抗するのは、思いっきり抵抗するけど。
そういった場合は、俺では駄目だ。
俺だと、そこまで嫌なら残っていいぞと言ってしまう。
なので、獣人族の女の子たちが、優しくなだめながら説得する。
五村の牧場に到着すれば、なんだかんだと大人しくやってくれるので大きな問題にはなっていない。
一年か二年ほど五村の牧場で繁殖活動をしたら、大樹の村に戻ってくるしな。
戻ってくるときは、五村で大事にされていたはずなのに抵抗しない。
五村の飼育員は泣いていいと思う。
俺は二十日ほど畑を耕す作業を続けた。
最初のころに耕した畑は、すでに芽ではなく花を開かせたりしている。
さすが【万能農具】だ。
頼りになる。
今年も一緒に頑張ろう。
天使族「冤罪だ!」
人 「本当に?」
天使族「たぶん!」
人 「……」
天使族「きっと!」
人 「…………」
天使族「そうであると信じたい!」
人 「なぜ、ガーレット王国はこんなのを……」
天使族「私たちへの悪口はいいけど、ガーレット王国を悪く言うなぁっ!」
ルー 「万能農具のほうが、私よりヒロインしてないかしら? 気のせい?」




