丸顔狐族と夜光蝶の宴
ミケルです。
えーっと、冒険者ギルドの建物を潰してしまい、街の警備兵に拘束された。
まあ、当然。
ただ、王子たちがいるので牢屋での拘束ではなく、宿での軟禁だったのは助かった。
連絡した母の関係者が素早く来てくれて、すぐに解放。
あとを任せ、僕とアルフレートくん、そして夜光蝶の四人で移動開始。
三十日の長旅になるぞと覚悟したけど……
二日で目的地に到着しました。
なぜに?
それは、アルフレートくんの知り合いである、丸顔狐族を名乗る、ふくよかな商人風の者の手助けがあったから。
「知り合いというか、私のほうが一方的に知っているだけです。
遠目でお見かけしたことが何度かありまして」
アルフレートくんが少し会話して、父親である村長の関係者であると確信。
出会えたのは幸運と、アルフレートくんが近道を知らないかと聞いた。
アルフレートくんは丸顔狐族が使っている道などを教えてもらえれば、というぐらいの気持ちだったらしいけど、丸顔狐族は銀狐族に連絡。
銀狐族が持つ秘密の道を使わせてもらい、驚くほど短時間で目的地に到着することができたということだ。
便利。
ただ、移動できる場所は決まっているので、どこでも自由にというわけではないらしい。
残念。
そして、夜光蝶の薬草畑の近くに住み着いたワイバーン。
彼はアルフレートくんの知り合いではなかったが、話し合いでなんとかなった。
知り合いの知り合いだったらしい。
かなり腰……いや、頭が低いワイバーンだった。
アルフレートくんにひれ伏していたからなぁ。
ワイバーンと夜光蝶の者たちとの話し合いで、ワイバーンが薬草畑やその近くにいる者に手を出さないという約束をして、一件落着。
よかったよかった。
……
夜光蝶で、歓迎の宴?
ルールーシーさまのご子息を歓待しないわけにはいかない?
ま、まあ、わからなくもない。
アルフレートくんが受けるつもりだから、僕も邪魔したりはしない。
隅のほうで参加させてもらおう。
あ、帰りのこともあるので丸顔狐族も参加。
僕と一緒に隅のほうにいるそうだ。
夜。
なんか、百人ぐらいの吸血鬼が集まっての宴になった。
吸血鬼って、こんなにいたんだ。
あと、普通の料理や酒が並んでいる。
吸血鬼って血を好むんじゃなかったのかな?
好むけど、個人の好みがうるさすぎて宴とかでは出さない?
そうなんだ。
アルフレートくんは……血は飲まないのね。
一度、大人ぶって飲んだけど美味しくなくて嘔吐。
その後、お腹を壊して三日ほど寝込んだと。
な、なるほど。
体に合わないのかもしれないね。
アルフレートくんは、挨拶に来た吸血鬼たちに呼ばれて宴の中心に。
いろいろな人と問題なく会話している。
すごいな。
僕より年下とは思えない。
ああ、吸血鬼で共通の話題があるのかもしれないな。
ポーズやマントの扱いかたで盛り上がっている。
アルフレートくんを手伝いたいけど、僕に手伝えることはない。
丸顔狐族と一緒に、のんびりと乾杯。
用意された食事は……
悪くないけど、野菜が多い気がする。
ひょっとして、薬草畑で野菜も育てているのかもしれない。
なんにせよ、ありがたくいただこう。
おっと、宴につきものの歌が始まった。
合唱だ。
なんだか教会とか神殿で聞こえてきそうな感じの荘厳な歌だなぁ。
あー、でも歌詞は闇を称える内容なのね。
大丈夫。
コーリン教は、他人に迷惑をかけない限りは信仰や教義を否定しないから。
僕のことは気にしなくて大丈夫。
ただ、できたら僕の周囲に灯りがほしいなぁ。
合唱開始のタイミングで消したでしょ。
吸血鬼や丸顔狐族は大丈夫みたいだけど、僕にはちょっと暗くて。
アルフレートくんが離れているときに、丸顔狐族に確認。
偶然、会った感じだったけど……ひょっとして、アルフレートくんの護衛だったりする?
「ははは……かないませんね」
では?
「私は護衛というより、手助けのために派遣されました。
アルフレートさまが困ったときに助けるようにと」
それって、アルフレートくんのお父さんが?
「いえいえ。
村長は知りません。
私どもが勝手にやっていることです」
私どもがどの範囲かはわからないけど……追求はしないでおくか。
私は護衛と~って、ほかに護衛として派遣された者がいることも教えてもらったし。
誰かに言ったりはしないよ。
「ありがとうございます」
ところで、君たちはアルフレートくんの故郷に行けるんだよね?
「ええ」
それも短い時間で。
「馬や船で行くよりかは早いぐらいです。
なにをお望みですか?」
アルフレートくん、料理の材料を仕入れるのに苦労しているみたいなんだ。
「あー、持ち込んでいるだけでは足りませんか」
うん。
アルフレートくんは定期的に持ってきてくれるけど、王子たちや護衛が求めるからあっというまに足りなくなるんだ。
「わかりました。
こちらで手配しましょう」
すまない。
頼む。
「それで量なのですが……」
あー、量は……どれぐらいいるのかな。
代金はできるだけ安くしてもらえると嬉しい。
「ははは。
アルフレートさまに隠すことはできないでしょうから、量や代金はアルフレートさまと相談させてもらいます。
ご安心を。
こちらから売り込む形で提案いたしますので」
……そうだね。
僕との雑談で、気づいたということにしてもらえるかな。
「承知しました。
今後とも、よきおつき合いをお願いします」
もちろんだ。
吸血鬼たちの歓迎の宴が終わり、また銀狐族の道を使って、あっというまに国境近くの街に戻ると……
王子たちや貴族の娘さんたちがまだいた。
潰した冒険者ギルドの代行作業をしていたらしい。
潰したって建物を壊しただけだと思うけど……
あー、やっぱり不正をしていたんだ。
それも大規模に。
それで関係者がほぼ捕まって、冒険者ギルドが閉鎖状態。
それなりに大きい規模の冒険者ギルドが突然閉鎖となると、大混乱が起きるからそれを収めようと代行作業をしていたのか。
王都の冒険者ギルドに応援を頼んでいるから、それが来るまでのあいだね。
あー、頑張って。
僕たちは一足先に帰……王子たちの護衛が僕を捕まえていた。
まさかと思うけど?
「手伝ってください。
お願いします!」
王子たちが頼んできた。
しかも、プライドを捨てて平身低頭!
あのワイバーンを思い出す。
いや、しかしだ。
僕は冒険者ギルドの業務なんて、関わったことない!
この前まで、登録の方法だって知らなかったんだ。
手伝いたくても、手伝えない。
そう言った僕に、貴族の娘さんたちがボソリと一言。
「王子たちが冒険者ギルドの業務……できるとお思いで?」
…………
手伝った。
王都の冒険者ギルドからの応援が来るまで、頑張った。
ちなみに、アルフレートくんは食事担当。
この食事があったから、僕たちは頑張れたと思う。
途中の思わせぶりな会話の要約
ミケル 「食材が足りないんだ」
丸顔狐族「承知しました。ですが、アルフレートさまには……」
ミケル 「あー、先回りして準備するのはよくないか」
丸顔狐族「勉強になりませんからね。私のほうから話を振って進めるようにします」
ミケル 「すまない。頼んだ」
丸顔狐族「いえいえ、その代わりと言ってはなんですが……」
ミケル 「わかっている。そっちの行動になるべく協力するよ」
丸顔狐族「なるべく? ですかぁ?」
ミケル 「なるべくだ。無理なものは無理だからな」
丸顔狐族「……手強い」
ミケル 「そのほうが頼もしいだろ?」
丸顔狐族「わかりましたよ。今後ともよろしくお願いします」
ミケル 「こちらこそ」
すみません。
書籍化作業と確定申告で、次の更新は少し先になります。
今年はいろいろあって、確定申告作業が遅れに遅れてしまった……
あと宣伝。
異世界のんびり農家、書籍20巻が2026年2月28日に発売予定です。
よろしくお願いします。




