夜光蝶からの依頼
僕の名はミケル。
コーリン教でちょっと有名な大司祭フーシュの息子です。
ここで少し説明を。
レイワイト王国や周辺国は人族が大半を占める国なのだけど、それ以外の種族も当然いる。
エルフ族、ドワーフ族、獣人族、ミノタウロス族、リザードマン族などなど……彼らは同種族でまとまって村や集落を作り、人族とはあまり関わらずに生活していることが多い。
しかし、完全に関わらないことはむずかしく、小規模な交易で繋がっていたりする。
夜光蝶の四人組であるカーラたちは、僕たちに話があった。
普通に声をかけてくれたらいいのに、人見知りだからとあのような演出で驚かされたことは、一生忘れない。
死んでも忘れない。
自分で言うのもなんだが、僕は意外と根に持つタイプだ。
そして、カーラたちが目的としていたのはアルフレートくん……ではなく、僕だった。
え?
僕?
なぜに?
「フーシュさまに取り次ぎをお願いしたく」
あ、母が目的ね。
なるほど。
理由を聞いてもいいかな?
「ルールーシーさまに連絡をとってほしいのです」
…………
ルールーシーさま。
これまで何度も母から聞かされた名だ。
そして、アルフレートくんの母親。
しかし、母は外部でルールーシーさまの名は言っていないはず。
なぜカーラたちは、母とルールーシーさまの繋がりを知っているんだ?
「ルールーシーさまに貴方の治療薬を依頼したと、こちらの界隈では有名ですよ」
そうなの?
あ、ちょっと待って。
その界隈ってのはどこのこと?
「薬師連合です」
薬師連合はレイワイト王国周辺で活動している、薬の販売業者だ。
多種多様な薬を比較的安価な値段で扱っており、庶民の味方として名を馳せている。
ひょっとして、夜光蝶は薬師連合の一部なの?
「はい。
薬師連合の中核組織です」
おおっ。
それは知らなかった。
夜光蝶はしっかりした組織だったんだな。
正直、冒険者が適当に名乗っているのかと思ってた。
失礼した。
「いえ、中核組織ではありますが、あまり表には出ませんので」
人見知りって言ってたしな。
「それもあるのですが、私たちは吸血鬼でして」
へ?
「怖がられるので、人目を避けて暮らしています」
あー、まあ、レイワイト王国はともかく、周辺国ではそうなるか。
エルフ族やドワーフ族は許せても、獣人族やリザードマン族、ハーピー族など人の姿から外れる種族を嫌がるところは多い。
そして、吸血鬼は人の姿をしているが、血を好む食生活と、昼に出歩かずに夜に出歩く生態が嫌がられている。
僕は吸血鬼に対して、嫌悪はない。
なにせ、ルールーシーさまは有名な吸血鬼なのだから。
もちろん、アルフレートくんが吸血鬼なのも知っている。
王子たちや貴族の娘さんたちは知らないだろうけど。
そのアルフレートくんは……
夜の見張り用の食事を、護衛と一緒に作っている。
そうそう、カーラたちが来たとき、護衛たちはほとんどが起きていた。
ただ、僕たちの援護というか救助に動かなかったのには理由がある。
カーラたちが、事前に演出を行なうと個別に連絡していたのだ。
それって護衛として任務を放棄してないか?
僕たちの護衛は百歩譲って許すとしても、王子たちの護衛は駄目なんじゃないかと思ったら……
王子たちも、知ってた。
くそうっ、あのとき焦った僕が馬鹿みたいじゃないか!
だったら僕にも教えてくれたらと思うが、僕が目的だったらしいからなぁ。
恐る恐る、アルフレートくんは聞いていたのかなと確認したら……
知らなかった。
よかった。
そしてカーラたちが、どうしてアルフレートくんに知らせなかったのかは……アルフレートくんに隙がなかったからね。
……
つまり護衛には隙があったと?
やっぱり護衛に問題がある気がする。
話を戻して。
話を聞くと、カーラたちはルールーシーさまに連絡を取りたいそうだ。
しかし、本人たちはルールーシーさまへの連絡手段を持たず、ここ最近でルールーシーさまに接触したと思われる僕の母に連絡を頼みたいとのこと。
ここ最近と言っても十年ぐらい前なんだけどなぁ。
僕としては母に取り次ぐのはかまわないけど、なぜ連絡をしたいかは聞いておきたい。
「私たち夜光蝶は、ルールーシーさまが結成された薬草畑の管理集団です。
ルールーシーさまが不在になってからも、その仕事を続けていたのですが……大事な薬草畑の近くにワイバーンが住み着き、どうしたものかと困っているのです」
ワイバーン。
空を飛ぶ恐ろしい魔物。
噂によれば、ドラゴンよりも強い個体もいるとか……
冒険者を雇うとかは?
「薬草畑が秘密の場所なので」
そうか。
ワイバーンを追い払ったとしても、薬草畑が広く知られたら荒らされるか。
「はい。
ですが、ルールーシーさまのお力であればワイバーンをなんとかできる。
できずとも、薬草畑の移動ができると考え……」
カーラがそう言ったところで、アルフレートくんが割って入った。
「よかろう。
そのワイバーン、私がなんとかしようではないか」
あー、アルフレートくんならワイバーンでもなんとかできるのかな?
「知り合いのワイバーンの可能性もある。
運がよければ話し合いで済む」
ひ、広い交友関係だなぁ。
カーラが、アルフレートくんは何者ですかと聞いてきたので答えておいた。
「ルールーシーさまの息子です」
……
すごく……すごく綺麗な臣下の礼をみた。
「待て待て。
母の関わりがある組織であろうと、ただ働きはしない。
わかっているな。
目の薬を頼むぞ」
「……」
「どうした?
報酬がつり合わぬか?
さすが秘薬中の秘薬」
「いえ、その……あの薬はルールーシーさまが作りだしたものですので、その……報酬とするのは……」
「……………………母に聞けばわかるか」
「はい」
「いや、よく言ってくれた。
報酬はその薬でよい」
そういうことになった。
アルフレートくんがワイバーンをなんとかする。
それはかまわない。
ただ、問題はある。
カーラたちの薬草畑の場所は、ここから三十日ほど移動した場所。
そこはレイワイト王国の外。
つまり、他国。
レイワイト王国の友好国ではあるので、一般人の行き来は簡単にできるが……
王子たちや貴族の娘さんたちを連れては行けない。
いまの護衛規模では、こっそりと入るのもむずかしい。
また、行って帰っての日数を考えると、王子たちや貴族の娘さんたちを連れて行くのは現実的ではないだろう。
ここは一度、王都に帰ってから、改めて出発すればと僕は考えたのだけど……
「ワイバーンが巣に番を招いたら、移動させるのがむずかしくなる。
早く動いたほうがいい」
アルフレートくんが、王都に戻らず、ここから行くことを提案した。
王子たちや貴族の娘さんたちは……
国境近くの村で別れると。
まあ、狩った魔獣から採れた素材を売ってしまわないといけないし、無難かな?
朝の食事でその方針を説明したら、王子たちはめちゃくちゃ嫌がっていたけど。
「これ、美味しいですね」
「このような食事……初めてだ」
「美味い」
「あの、お代わりは……」
カーラたち夜光蝶の四人組は、テントのなかでアルフレートくんが作った朝食を食べている。
彼女たちのぶんまで用意するなんて、アルフレートくんは優しいなぁ。
そういえば彼、アサムッド王家で働いていた専属料理人。
名は……リビックだったか。
王子たちがアルフレートくんの食事を好み、王家での食事を食べなくなったと怒鳴りこんできたのは。
そして、その日以降、食事の時間になると王子たちと一緒にアルフレートくんのところに押しかけていた。
三十個あったカラアゲを、一人で十個も食べたあの男は許さん。
あの場には、僕を含めて八人いたのに。
まあ、彼はアルフレートくんが話した、アルフレートくんの料理より美味しい料理の存在を信じられず、その目で確かめると魔王国に向かったけど。
彼は無事に、魔王国に行けただろうか。
国境付近にある大きな街に到着。
ここで王子たちや貴族の娘さんたち、そして護衛たちと別れる。
王子たちや貴族の娘さんたちの護衛はわかるけど、僕たちの護衛たちも?
さすがに無断で他国にはいけないと。
ま、まあ、僕たちの護衛だけど、それなりの立場がある人たちだからなぁ。
そうなると、僕とアルフレートくんの二人、あとは夜光蝶の四人組とで行くことになる。
アルフレートくんだけで行かせるわけにはいかないから。
……ちょっと不安だ。
そう思っていたところで、トラブル発生。
この街の冒険者ギルドで、これまで狩ってきた魔獣の素材を売ろうとしたら、冒険者登録が必要とのこと。
冒険者登録は王都でやったと思ったけど、王都の冒険者ギルドとは系列の違う冒険者ギルドらしく、改めて登録が必要だそうだ。
安くない登録料を求められた。
それだけで腹立たしいのに、アルフレートくんの持つ武器を分不相応と言ってギルド職員が取り上げようとした。
アルフレートくんは言葉でやんわりと断っていたけど、それより早く動いたのが王子たち。
冒険者ギルドの建物が潰れるほど大暴れした。
王子たちの力では、どう暴れたところで建物は潰せない。
実際は、王子たちや貴族の娘さんたちの護衛が暴れた。
夜光蝶の四人も、影からこっそりと力を貸していた。
僕は知っていたけど、止めなかった。
アルフレートくんは王子たちを止めようとしたけど、僕は止めなかった。
僕は罪深い。
でも、この冒険者ギルド。
どの職員も露骨に態度が悪かったからなぁ。
絶対に悪いことをしている。
母に連絡して、潰れた建物からなにかしら不正の証拠が出ないか調べてもらおう。
夜光蝶の影から~は、「陰」ではなく「影」でokです。
実際、影から攻撃していたので。




